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Harper's Bazaar 日本版連載


山形浩生



 天下のHarper's Bazaar の日本版に連載! 毛唐の友人に話すと、それだけでもう大笑いしてくれるなあ。おまえがあの Vogue と並ぶファッション雑誌の名門 Harper's Bazaar に連載! いやぁ、なにを考えてんだろう。ぼくの前科を知らないな。つぶれたいのか! と書いてまだ一年たっていないけれど、最初はダメダメだったのがだんだん好転はしてきている、という話もきくし、どんなもんなんだろう。

 で、何を考えてるのかわからないけど、連載しないかというので、一も二もなく引き受ける。さて何を? Blast Books のケンとローラは、このニュースを聴いた瞬間に爆笑して "Ah, you can do 'The Loved One' routine!" と叫びました。うん、それはまさにぼくがまっ先に思ったことでもあるのだ。

 The Loved One。これはその Blast の二人に借りて観た映画なんだけれど、この二人が好きなだけあって、すっごいブラックな映画。主人公が、失業中の若い男と、その男が惚れた女の子なのね。ある日、男が出勤途中のその女の子を見かけて、ふとあとをつけていくとその女の子は、お墓で働いてるの。お墓といっても、欧米だと特に金持ちは火葬とかしないで、死体に防腐処理して安置所に置くでしょう。それを庭園型にして、その女の子が遺族予備軍をそこで案内して、あなたの愛した方 (The Loved Ones) は、このようなすばらしいお庭で永眠なさるんですよー、といって売り込むのだ。で、彼女はまた死体の防腐処理の助手もやってる。

 まあそんな仕事もあって、あんまり明るい女の子ではなくて、引っ込み思案なんだけれど、その子の数少ない楽しみというのが、新聞の人生相談欄を読むことで、その女性回答者の優しい誠実でロマンチックな回答ぶりをとても楽しみにしてるのね。

 で、男はその子となんとかデートに成功するんだけれど、女の子はそんなに乗り気じゃないのだ。で、男が結構強引に迫るんだけれど、女の子がなびかないと、「きみの仕事は欺瞞に満ちたインチキの詐欺だ、きみは薄汚いネクロフィリアだ」と糾弾して、その子はすっかりおびえて混乱しちゃうのね。で、職場に行くとその一方でお墓の防腐処理の先生がその子をお気に入りで、これまた迫ってくるんだ。で、女の子はもう錯乱状態になって、だれかに相談しなきゃと思って思いあまって、泣きながらあの人生相談を載せてる新聞社にいくの。あの人生相談の女性なら話をきいてくれるだろうと思って。するとその欄の担当の人が、その回答者ならいまこの新聞社の向いのパブにいるよ(あ、これイギリス映画ね)と言うので行ってみると、そこは薄汚い、客層も下品な連中ばかりで、その中でひときわ下品なデブの飲んだくれおやじが、ネーチャンどうしたい、とか言って、その子は縮みあがりながらも、あの人生相談の方にどうしてもお話したくて、というと、そのオヤジが言うんだ:

「あれはオレだ。あんなのおれがいい加減にでっちあげてるんだよ。そんなもん真に受けて、まったく信じられないばかだ。おいみんな、聴いたか!」

それにあわせて、酒場中の連中が「ぎゃはははは」と大笑いして、それでも女の子が、もう半狂乱になりつつも「あたしはどうすればいいでしょう」と言うと、その相談員は

「知るかよ、好きにすりゃいいだろ」

と一喝して、酒場中がさらに大笑い、もうその女の子はもう錯乱して決定的に絶望して、職場に戻って死体用防腐剤を自分に注射して自殺しちゃうのだ。

 とまあ、映画はコメディとも悲劇ともつかない、対応に困るような映画なんだけれど、ぼくは(Blast の連中も)この脇役の人生相談の人がなんか気に入ってて、是非ともこういう罪作りなのをしたいな、と思っているのだ。あるいは、ペンギン恋愛相談第一回第二回みたいなおふざけでもいいや。

 というわけで、中身の相談のときに「是非恋愛相談を!」と言ったら一瞬で却下。「女性のための教養講座をやってください!」と申しわたされる。ちぇっ、つまんねーの。

 というわけで始まった連載だが……浮いてませんかぁ? まあいつまでつづくやら。毎回、その号の特集テーマにあわせて書くことになってて、あと一応、向かいのカメラマンとセット、みたいな感じではあるらしいんだが、まったく関係ないな。


Special: Brian Aldiss Interview (2001.06)

詳しい話はまた今度書こう。例の映画「A.I.」がらみでこういう企画になったのだ。


2000.10 創刊号「女性」
 なんかファイルがみつからないや。(その後らさ氏にお送りいただく。ありがとうございます)これは、二通り並行して書き進むうちに、それをくっつけようとして必ずしもうまくいってない。前半はいつもの主張で、途中で相手が出てきてからよじれはじめて、なにかいいポイントはかすってるんだけれど、そこからそれをファンブルして落としかけたところで最後、という感じ。惜しいな。でも落としきってはいないのも、かえってもどかしい。

2000.11 第 2 号「愛」
 モンゴルで書いた。いやぁ、向こうでマシンを壊してウィンドウズがたちあがらなくなって、裏から Linux をたちあげて XEmacs で書いたのだ。だもんで、ソースを見ると珍しく改行だらけになってるでしょう。で、一回書いたのを、「ラストが物足りない」といわれてボツくらって、で書き直したのがこれ。

2000.12 第 3 号「e-ビジネス」掲載版
 書いてるうちに長くなって、掲載されたのはかなりそれを縮めたバージョンなのだ。前二回に比べると、まあ書き慣れたテーマで無難にこなしてます。

2001.01 第 4 号「ヒーリング」
 ふふん、女性誌ごときで(<--女性蔑視だぁっ! 裁判証拠にどうぞ)エリアーデを持ち出すたぁ思わなかったぜ。でも昔から思ってたことではあるのだ。

2001.02 第 5 号「アート&創造」
 前から書いている、作品とその背後のアルゴリズムの話をなんか無難に落とそうとして失敗。うーむ。編集者からは「バロウズとドラッグとか、もっと具体的な話にしたほうがウケはいいですよー」とあとからアドバイスもらう。だそうですので、ライターの方たちはご留意を。

2001.03 第 6 号「Epoch Maker」
 この号では、21 世紀のエポックメイカー選にも協力しているが、およそ女性誌とは無縁の選択に。どうするのかなぁ。まったくの思いつきのも入っているんだが……(結局、全部は載らなかったのだ。あとはレッシグと、ストールマンかだれかを入れたっけな? 

2001.04 第 7 号「アイコン」
 前回と比べてどう差をつけようか、あまり思いつかなかったのだ。アイコン、ねえ。まあイコン(聖像画)とマック式のアイコンの話でもするかぁ、てなもの。ちなみにこの号は、ファッション誌としてもかなり疑問の多い仕上がりになっていて、鈴木京香なんか、スタイリストがまともについたとは思えない、欠点ばかりをひきたたせる最悪の写真になっていて、その他の部分でも写真的にもまったくあか抜けず、一部でかなりの苦言が呈されていた(ってぼくが苦言していたんだけれど)。

2001.05 第 8 号「ニューヨーク」
 Blast Booksのケン&ローラをネタにさせていただきました。ちなみにここで書いたことは、某大規模開発の提灯持ち原稿でもそのまま使っている。都市の活力とかおもしろさを考えるにあたって結構だいじなことだと思うのだ。

2001.06 第 9 号「ライフスタイル」
 ちょっと何が言いたいのかわからない文になってしまったような気がする。特に最後のほうになって寿命がのびる話は、昔広報部近辺でやったような話と、森山さんの話をかなりへたくそにまぜてかなりおさまりが悪い。

2001.07 第 10 号「Asian Beauty」
 アンコールワットの話を書こうか、アイドル話を書こうか、雑踏とか食い物の話を書こうか、それとも……と迷っているところで「花様年華」をみにいって、とても感動してそれを柱になんか全部ぶちこんだ。

2001.08 第 11 号「イノベーション」
 エポックメーカーの回とテーマ的に重なるんだよねー。どうしようかと思って、結局はなんかLinux話に落としてしまった。ちょうど Linus が来日していたこともあるし。まあしょうがないか。でも、次号予告を見ると、ファッションのイノベーターが化粧品屋とフェラガモにプラダ・スポーツにティファニーにミキモト? 変なの。真っ先に出てくるべきは、イブ・サンローランだと思う。かれの昔の服とか、戦慄するような、居住まいをたださずにはいられないようなすごさがあるじゃない? それとか……まあいいや。

2001.09 第 12 号「家族」
 家族で、ほかの記事はグッチ一家とかそういう話だって。まあいいけどぉ。昔書いたような、家族の機能が低下するだろうというお話だが、どうでっしゃろ。

2001.10 第 13 号「Bazaar Women」
 一周年記念でよくわかんないテーマで、とても書くのに苦労した。なんかわけがわからんのを一回書いて、没になって、それで小手先のおちゃらけを書き殴る。でも、そのほうがさらっと読み流せる感じでよかったかも。実話は1/3くらい。

2001.11 第 14 号「Hawai」
 ハワイはあんまり行ったことないからなー、と以前ディスカバリーチャンネルかナショナルジオグラフィックチャンネルで見たネタを使い回す。

2001.12 第 15 号「Men and Women」
 こういうネタは苦労するよなー。なんでもありだけれど、うーん。

2002.01 第 16 号「Gift」
 ぼくは他人にプレゼントをもらったことがほとんどないのだ。人にあげるようにするとお返しがあるかなとおもったけれど、そういうわけでもないようだ。何か世の中不公平でたまらんという気がしてならない。

2002.01 第 17 号「ファンタジー」
 何度か書いたハリポタねた。今回の雑誌は、基本はハリー・ポッター映画公開タイアップみたいなもんだから、まあこれでよし。

2002.02 第 18 号「ラテン」
 苦労して、結局は知り合いネタでごまかす。ラテンと言われてもねえ。

2002.02 第 19 号「ホワイト」
 もうホワイトとか使わなくなったよな。でもぼくはあれが結構好きだったんだ。いまも時々無意味に使うけれど。そんな話とか、「雪野」の話とか、適当にちりばめてさらっと書けた、比較的上出来な回だと思うんだけど。

2002.04 第 20 号「ロマンス」
 ロマンスってぼくは嘘臭くてあまり好きじゃない。フィクションの中でもかなりがさつなほうだと思うのだ。というわけで。現実にはなかなかロマンスするわけにはいかなくて、もっと必死なんだよね。今回で連載最終回。もっとファッション中心にしろという本国からのお達しで、またリニューアルするんだって。中心はいいんだけれど、ファッションセンスそのものを向上させてからでないと、いまのままファッション系を増やしたら悲惨だぞー!

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