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『高度一万メートルからの眺め』 連載 15 回??

イベント自粛は節電になるか

月刊『GQ』 2011/10月号

要約:イベント自粛したら、かえってみんな家で電気を使って効率が悪く、節電にならないのでは?


 この夏、ぼくはほとんどラオスやカンボジアにいた。特にラオスは電気は売るほどあるので(いや文字通り。隣国タイへの売電が主な外貨収入です)、節電どこ吹く風ではあったのだけれど、日本は結構暑かったのに節電でクーラーも使えず、大変だったとか。

 そしてそれよりもぼくが驚いたのは、一部のイベント、たとえば盆踊りなどが中止になったり、あるいは時間が繰り上がったりしたという話だった。理由は当然、節電。暗い中で電飾つけて盆踊りすると電気使うから、という話だ。

 やれやれ、つまらないことを考えるもんだ。明るい中で盆踊りやったってつまらないじゃないか。そしてそれ以上に重要なこと。それは本当に、当初の目的である節電に貢献しているんだろうか?

 ぼくは、していない可能性が高いと思う。自分のイベントだけのことを考え、世間全体への影響というものをまったく考えていないと思う。

 だって、夏のピーク電力需要の相当部分は、家庭のクーラーとテレビなのだ。だったら電力需要を下げるには、暑い時期に人々を家から出したほうがいい。同じ百人を涼しくするのに、その人が家でそれぞれクーラーをつけるよりも、どっか一カ所に集めて、そこを集中的に冷やすほうが効率は高い。でしょ? 屋外コンサートや盆踊りなら、冷房すらいらない。アンプや電飾や、レディガガなみのステージセットだって、いくらでかくても使用電力なんか大したことはない。特に、お客一人当たりに割り振るならなおさらそうだ。

 だからもし電力需要を下げたいなら、でっかいイベントをどんどんやるほうがいいのかもしれない。来場者が全員家で冷房と照明とテレビをつけているよりは、彼らを集めたイベントをするほうがずっと節電になる、という理屈は十分になりたつ。

 むろんこれは、本当であればきちんと計算したいところ。そして、家族の中で子供だけがイベントにきて、親が家でテレビ見ている場合だってあるから実は節電にならなくて云々、というような細かい議論は、いくらでもできる。たぶん仮定の置き方次第でどうにでも結果は操作できるだろう。その試算をぼくの勤め先なんぞに委託していただけましたら、ホントいくらでも好きな結果を出して差し上げますわよ。

 でもたぶん多くのイベントは、そこまで考えて中止や繰り上げをしたわけじゃない。自粛好きな世間のムードに、何も考えずに迎合しただけでしょう。

 同じ伝で、各種の娯楽施設や文教施設の節電を狙った開場自粛も、逆効果だろう。図書館や遊園地、ゲームセンターや、一部で目の敵にされたパチンコ屋ですら、人を集めてまとめて効率よく電気を使わせることを考えたら、むしろ社会全体では節電に貢献するかもしれない。

 いずれ、そこらへんの検証はきちんとやってほしいところ。ただ、何もせず、活動を停滞させたほうが節約につながる――ぼくはそういう安易な考えが、かえって節約を阻害する可能性にもっと敏感になるべきだと思うのだが。ましてそれが経済を停滞させて、かえって人を苦しめるならなおさら……



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YAMAGATA Hiroo <hiyori13@alum.mit.edu>
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