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『高度一万メートルからの眺め』 連載 15 回??

宗教政治の話もしようよ。

月刊『GQ』 2011/03月号

要約:宗教政治の話はしないほうがいいというけれど、ときどき聞かれるし、できるようにしておいたほうがいいよ。


 前にアフリカで仕事をしていたときに、現地の役人と中国やヨーロッパの宗教や政治の話をしていたら、同じ調査団の人が、そういう話はやめたほうがいいと忠告してくれた。なんで? と尋ねたら、なんでも外国出張や外国旅行の心得みたいな本に、政治や宗教の話はトラブルになる可能性があるからやめたほうがいいと書かれていた、という。

 さて、そういう話題を避けたほうがいい場合はある。でもそれは、相手の国の宗教や政治の話をする場合だ。タイに行って王様の悪口なんか言ったら大変だし、パキスタンでイスラム批判をするのは命がけなのは事実。でも第三国の話をする分には全然かまわない。というより、したほうがいい。第三者の話題は良くも悪しくも盛り上がるし、相手の本音も出てきておもしろい。そしてぼくの見たところ、日本人の多くが現地人にうまく溶け込めないのは、言語能力以上に、そうした話題を必死で避けるところにあると思う。だって、それがないと他には天気の話くらいしかできないんだもの。

 いや、しないんじゃないな。日常的に政治や宗教の話を全然していないので、そもそもそうした話ができない、というほうが正しいだろう。いまの政権はバカだとか、ゴシップならできる。でもじゃあ、おまえは政治で何を重視すべきだと思うか、社会や宗教は何を目指すべきか、といった話になると、ぼくたちの多くは考えたことすらないし、だから人に話をふられても、日本語ですら何もいえない人ばかりだ。

 たとえばいま、チュニジアとエジプトを始め中東諸国が大きく揺れている。どこもそれなりに経済基盤も整ってきて中進国にリーチがかかったところで、突然何の前触れもなく大規模な市民デモが勃発し、あれよあれよという間に政権が瓦解。さてどう思うね?

 多くの人はこれを見て、人民パワーが独裁者を倒した、すばらしい、革命だ、民主主義と民衆の勝利だとはやしたてる。でも、ぼくを始め、そう思わない人もいる。この騒動のおかげでせっかく安定成長してきた経済や、発展の端緒についた産業はボロボロだ。ぼくは、民主主義も自由も、手段でしかないという立場だ。自由というのは結局のところ、何かをする自由なんだけれど、生活が貧しければできることは本当に限られてしまう。民主主義や自由は、経済や社会の発展に貢献する限りにおいて有益だと思う。その意味で、これまでの「独裁者」たちはかなり優秀だったし、それを何も考えず破壊した今回の暴動を、国民たちは必ず後悔すると思うのだ。

 それに対し、民主主義や自由はそれ自体がよいのだ、という発想の人たちは、そんなのはどうでもいい、民主主義と自由が実現されれば、経済が混乱して貧しくなってもいいのだ、というんだが……

 どっちが正しいわけでもない。これは価値観の相違だもの。でも、こういうことを少しでも考えておいて、なんかの折りに筋の通った形で言えるようにしておくことは重要だ。そして、そういう話が楽しめるようになったら、いろいろ新しい世界も開けてくるのだけれど。さて読者のみなさんはどう思います?



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YAMAGATA Hiroo <hiyori13@alum.mit.edu>
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