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『高度一万メートルからの眺め』 連載 15 回??

食えるもの食えないもの

月刊『GQ』 2011/01月号

要約:何が食えて何が食えないかは、かなり恣意的に決まるので、なんともいえません。


 マニラでタコキムチを食っているときに、いっしょにいた同僚と話をしていたのが、なぜ世界中でみんなイカは平気で喰うのに、タコは喰わないところか毛嫌いされるのか、ということだった。

 しばらく前に見た、ディスカバリーチャンネルだったかナショナルジオグラフィックだったかのテレビ番組で世界のグロい食べ物トップ10というのをやっていたのだけれど、フィリピンやベトナムのバルート/ホビロン(孵化しかけたアヒルの卵を蒸したもの)やニューギニアの芋虫蒸し焼きとか、ヨーロッパのウジムシまみれのチーズとか、だれがどう見ても不気味な食物がひとしきり並んだ後で、栄光のトップの座に輝いたのは、なんと韓国のタコ丸呑み。小さめのタコを丸ごと、生きたまま一口で喰うというやつで。もちろん食道に触手が張り付いて痛い上、当然ながら毎年それをのどに詰まらせて窒息死するやつが二〇人くらいいるんだそうだ。

 それでも、日本人のわれわれとしては、見ていてそんなにグロいとは思えず、丸呑みにするのはどうかと思うけれど基本はうまそうだと思うんだが。それに、慣れの問題もあるから喰えないのはわかるとしても、イモムシやウジムシチーズよりもグロいかなあ。

 もっともそこらへんは理屈ではないのもわかる。確か以前に食い物ネタを書いたときにも触れたけれど、食べ物はしょせん、頭の中でのカテゴリー分類の問題だ。最近も読んだ本で、ベジタリアンにあれこれインタビューしたものがあった。ベジタリアンも、魚はオッケーだったり、卵はオッケーだったり、動物性タンパク質は一切ダメだったり、流派がいろいろある。で、なぜおまえはウシはだめで魚はオッケーなのか、とあれこれ著者は問い詰めるんだが、基本的に答えは同じで「だって食い物に思えないんだもん!」というだけ。

 ちなみにその本では、あるとき突然宗旨替えしたベジタリアンの話も出ていて、なんだかあるときふと、肉も食っていいように思えたので食い始めた、という理屈も何もあったものじゃない話。でも食い物は、ホントに理屈も何もあったものじゃないんだろう。

 などという話をしていると、隣のテーブルに八人くらいの韓国人の若者集団がすわった。だれかの誕生日らしく、巨大なシフォンケーキを持ち込んでいて、刺身とキムチを食ってソジュ飲みながらいっしょに、そのケーキも食らっている。それも悪ふざけでなく、ごく普通に。見てるだけで気持ち悪いのでやめてほしいんだけど。きみたちの祖国は北朝鮮と戦争寸前だというのに(そういう時期だったのです)。

 どうなんだろうねえ、あれもなんか頭の中のカテゴリー分類の話で解決がつくんだろうか、それとも単にこいつらの味覚が変なだけなんだろうか、という話を(なるべくそっちを見ないようにしつつ)していると、あー、こんどは若者たち、コチュジャンをシフォンケーキに塗りたくって食ってる。やめろー!! ぼくはどう考えても、これは連中の味覚がおかしいだけだと思うんだけれど。それとも歳をとって心が狭くなったのかしらねえ。



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YAMAGATA Hiroo <hiyori13@alum.mit.edu>
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