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『高度一万メートルからの眺め』 連載 15 回??

北京の空気と電動バイク

月刊『GQ』 2010/12月号

要約:北京の空気がかなりきれいになっていて、それには電動バイク普及も貢献しているらしい。こっちの原稿と同じネタ。


 休みをとって北京に遊びにいったのだけれど、前回街中をきちんと歩いたのは何せオリンピック前だったこともあって、その変わりようにはちょっと驚かされた。その中でもかなり驚いたのは、空気が信じられないくらいきれいになっていることだった。以前の冬の北京は、ほこりっぽかったし空気は汚かったし、北京オリンピックではかなり付け焼き刃的な対応に追われていたのに。

 理由ははっきりしないんだが、オリンピック後も元の木阿弥にはせずに、いろいろ政策を続けているみたいだ。工場の郊外移転や改善を積極的に進めているし、地下鉄がずいぶん発達して環状道路もかなり強引に整備され、渋滞も減った。途上国でみかけるすさまじい黒煙車も見あたらない。そしてさらに驚いたのが、バイクがほぼすべて電動車——つまり電動バイク——になっていたことだ。普通のバイクはほとんど見かけなかった。かつてインドでも、三輪タクシーをすべて二ストエンジンからガスに強制的に切り替えさせ、結果的に大気汚染をかなり改善した。それ以上の成果だ。

 そしてそれに伴うインフラも整備されている。充電スタンドもあちこちにあり、まったく不自由はないようだ。露天のバイク修理屋もあり、パンク修理とバッテリ交換なんかもやっていて、もう完全に普及している。2000 年代前半から、電動バイクはかなり急速に製造販売されてきている。

 それが意図的な普及政策の結果なのか、それとも放置されてすき間産業的にのびただけなのかはよくわからない。でも結果として、大気汚染的には非常によい結果となっている。日本では、これからは電気自動車云々と言いつつ、電動バイクの普及はえらく厳しく規制して、電動アシストバイクみたいな無駄なテクノロジーが発達し、バイク業界はバイクが売れないと文句を言うだけで、こうした買い換え需要を作りだそうという努力もあまり見られないようだ。ネットの2ちゃんねるなどでは、中国はコピーだ技術泥棒だと言って慢心するのが流行りだ。でも、中国はこれだけの数のバイクを生産普及させ、それなりの生産ノウハウもつけてきた。充電スタンドも普及させ、それをいじれば電気自動車への布石にもなる。

 そういうのを見ると中国は着々と実力をつけてきているのがわかる。それがきちんと考えた産業政策の結果かどうかはわからない。さっき言ったように、単なる放任の結果かも知れない。でも下手に規制や、まして補助金なんか出すよりも、放置したほうが多くの産業は伸びる。そして中国は産業として電気自動車に目をつけているけれど、そこにも確実につながる。

 尖閣諸島問題などに見る通り、中国はいろいろ困った国ではある。でも一方で、明確にやりたい目標を持ち、強引とはいえそれを実現すべくきちんと手を打ち、そのためには目先の人気だって犠牲にする。それは本当にすごいと思う。それに引き替え、日本の政治家たちの、目先の人気ばかりに気をつかい、何もできないどころか何をしたいかもわからない様子は……



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YAMAGATA Hiroo <hiyori13@alum.mit.edu>
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