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『高度一万メートルからの眺め』 連載 15 回??

エサも使いよう

月刊『GQ』 2010/07月号

要約:成果主義とかアメと鞭とかいうが、それが効くかどうかはやり方次第。成果自体より、むしろ成果につながる行動にエサを出したほうがいいようだぞ。


 前回、トップ営業なんて手土産持たせないと意味ないぞ、という話を書いた直後に、ベトナムに日本の大臣が二人押しかけたんだが、きみたちぃ、ちゃんとぼくのコラムを読んでいっただろうねえ。

 さて、そのさらに前の回で、才能なんてものはなくて、すべて努力次第なのだ、という説を紹介して、その努力がめんどくさくて続かないからみんな困ってるんだよ、という話をさせてもらった。それもあって、どうすれば人は努力するか、といった話に興味をもって少しかじっているんだけれど、おそらく皆様も自分の経験に照らせばわかると思うが、これがなかなかむずかしい。こうすれば努力する、というのはなかなかない。

 でも、一つよく言われる話がある。アメと鞭。最近は鞭を使うと訴えられるので、主にアメだ。業績連動のボーナスで、みんなやる気を出して努力します、という話だ。成果主義というやつですな。

 この説は非常にシンプルでわかりやすい。批判もあるけれど、その多くはお説教(人生、金だけじゃない! とかなんとか)に堕していることが多い。実際やると、うまく行くようでもあるしそうでなさそうでもあるし……

 そしてこの話が非常に大きな話題となるのが教育分野だ。多くの国や自治体は、子供たちの学力向上に悩んでいる。パソコンを入れてたりカリキュラムを変えたりしてもなかなかうまくいかない。だったらなりふりかまわず札束で子供の横っ面を直接ひっぱたけば? 成績あがったらお金あげるよ、とストレートに言えば?

 むろん、これに対する道徳的な反発はある。が、その一方で、どんな家庭でも必ずこれに類する取引はやっている。「成績上がったらDS買ってあげるよー」といった話をしたことのない家庭はまずない。で、どうでした? うまくいった?

 実は最近、これを大規模にやった実験がイスラエルとアメリカで行われた。結果は……ほとんど効果なし。イスラエルのほうは、女の子はちょっと改善が見られたけれど、あとは全然だめ。

 ほれ見ろ、神聖な教育を金で汚しても云々、人々の学ぶ心が云々、と言いたくなる人々はいるだろう。でもその中身を調べてみたら、おもしろい結果が出た。いちばんの問題は、そんな精神論ではない。被験者の生徒たちは、エサをもらってやる気は出るが、何をやれば自分たちの成績があがるのか、ぜんぜん見当がついておらず、地道に勉強するといういちばん有効な手段になかなか向かわないんだ、とのこと。やれやれ。だれかのダイエットの話みたいね。

 じゃあエサで釣る方式はだめなの? そうでもないらしい。本を読んでその中身についての理解度試験に合格したら、一冊あたり二ドルあげます、というのをやったら、かなり効いたそうな。お金目当てでも本を読めば、多少は語彙が増え、理解力や集中力もちょっとあがる。こちらの実験では成績はご褒美の対象ではなかったんだけれど、結果的にみんな成績も上がったし、その成績上昇は一年たっても衰えなかった、とのこと。

 これはなかなか示唆的。成果主義も、やり方を工夫しないと。「成績!」といった最終結果に連動させるとうまくいかず、むしろ途中の地道な努力に対してエサをつけると、うまくいく、という話だ。

 たぶん仕事でもそうなんだろう。「売り上げたてたらボーナス!」というような形で成果主義をやってもうまくいかない。みんな、どうやって売り上げを増やせばいいかわからないから苦労しているんだから。押し売りしなくてもいいから客先に出向けば、とか業界雑誌を読んだらとか、そういう成果に直結しないかもしれない努力に報いることこそ重要なのかも。

 それと、この話からもう一つわかること。やっぱ本とか雑誌、読んだほうがいいよ。紙でなくても、iPadでもいいから。そういう目先の新規性も、細かい努力を続けるエサとしては有効だぼくは思っているのだ。幸い、本誌もiPad版も出るとか出ないとかだし……



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YAMAGATA Hiroo <hiyori13@alum.mit.edu>
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