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『高度一万メートルからの眺め』 連載 15 回??

トップ営業なんざ飾りです

月刊『GQ』 2010/06月号

要約:インフラ売り込みで、トップ営業が重要だとか言われているが、それより普通の根回しが重要だと思うぜー。えらい人のご威光だけで売れるもんか。こっちの原稿と同じネタ。


 いまきているベトナムでは、日本からの新幹線の売り込みや原子力発電所の売り込みが活発に行われつつある。日本企業はインフラ整備で高い技術を持っているのに、韓国やロシア等々に世界各地のインフラ案件受注で負けている。もっとがんばって売り込みをかけなくてはならない、というわけ。

 そこでしばしば言われるのが、トップ営業が必要だ、という話だ。下々の者がいろいろがんばってもダメで、首相や大統領、せめて大臣級が直接やってきて売り込みをすると、なんだか受注につながるという話。そんなこともあって、ベトナムにはまもなく前原国交相や、仙石ナントカ大臣もやってくる。新幹線と原発をそれぞれ売り込むんだって。

 でもなあ。ホントなのかなあ。大臣がきたくらいで、仕事がもらえるのかね。

 ぼくの仕事でも、でかい案件になると、えらい人を連れて行く。でも、通常それはもう受注がほぼ決まった段階での儀式だ。億を超える仕事とかだと、ぼくにそんな決裁権がないのは明らかなので、そういう決裁のできそうな人が顔を出すことで、お互いにこれがきちんと取引になりますね、というのを双方が確認できる。そういう効能はある。また、仕事の手続きや支払いが遅れているときに、こちらがえらい人をつれて訪問すると、向こうもそれに見合ったえらい人を出してくることになり、先方のえらい人が下々に指示を出してくれるようになって、話が進むことはある。

 でもそういうのは、すでに決まった話をどう進めるか、という話だ。決まってもいないときにえらい人がきても、ぼくは話が進むとは思えないのだ。

 相手だってバカじゃない。だめなもの、利益にならないものを、えらい人のご威光だけで受け入れてくれるほど甘くはない。むろん、でかいインフラプロジェクトなんかの場合、利益やコストの見積もりはいい加減にならざるを得ないので、そこらへんでお手盛りの余地はあるんだが、それでも限界はある。

 それどころか、ときにはなまじ出てきたえらい人が話の中身をよく理解していなくて、会見の席上でとんちんかんなことを言って相手を怒らせてしまい、話がこじれる場合もある。それをもとに戻すのは決行ホネだ。いまの沖縄基地騒動を考えてもらえばわかるだろう。そうならないようにあれこれシナリオ作ったり入れ知恵したり、下々はかなり苦労を強いられる。

 あるいはえらい人がくると、かれらに手柄をたてさせないといけないので、裏でその他おまけをあれこれあげて、表面上はえらい人のお力であるかのように見せかけなくてはならないことも多い。これまた面倒なんだ。そしてえらい人になればなるほどおみやげも気前よくしなくてはならず、そこまで含めると当初の損得勘定も怪しくなったりする。

 いずれの場合にもトップ営業はそれ自体が効くのではなく、そのための根回しが重要なのだ、とぼくは思っている。むろん、本当に営業トークのうまい人もいて、そういう人がきてくれると楽にはなる。ぼくくらいのセコい仕事だと、相手によっては「本部長さんがわざわざお越しくださった」といって感動して、それだけで仕事がとれることもないわけじゃない。でも国レベルの、何百億ものインフラプロジェクトとなると、そこまで甘い話は……ないよね。

 さて今回の大臣たちの訪越で、根回しはだれがやったのかな。実は以前、ぼくがインドネシアに出張しているときに、岡田外相がどう見ても根回しいっさいなしで、アフガンだのパキスタンだのインドネシアだのをまわったんだけれど、どこでも「何しに来たんだ」的な対応をされていた。ベトナムはそんなことにならないといいんだけれど。そして本誌の読者諸賢も、自分の力でまとめられない話がトップ営業でなんとかなると思っちゃいけないよ、とぼくは思うのだ。トップ営業なんざ飾りです。えらい人にはそれがわからんのです。



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YAMAGATA Hiroo <hiyori13@alum.mit.edu>
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