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『高度一万メートルからの眺め』 連載 15 回??

ファッションと責任感とスーツの値段

月刊『GQ』 2009/12月号

要約:安物スーツは責任感を引き受けたくない意志の現れもあるかもしれない。適正スーツ価格は一週間分の稼ぎで決める?(おもしろいネタだったのであちこちで使い回している)


 いったいどういう流れの話だっかはさっぱり覚えていないのだけれど、先日仕事相手と飲んでいるときに、ビジネスファッションの話になったのだった。飲んでいた相手はイギリス人だったのだけれど、かれは日本人のビジネスファッション、特にスーツについてしきりにケチをつけていた。

 「そりゃ日本が不況なのは知っている。でもね、おまえたちはきちんと勤めて給料をもらっているわけだ。そしてスーツはそのための道具の一つだろうに」

 道具なのかねえ、とぼく。高いスーツを着てるからって仕事が取れるわけじゃないだろうに。まして、高いスーツ着たって報告書の中身がよくなるわけじゃないからなあ。

 が、そういうとかれは反論してきた。もちろん、服は直接のパフォーマンスには影響しない。でも、その人物が自分自身のパフォーマンスについてどういう自己評価をしているかについて、一定の尺度にはなるんだ、というのがかれの主張だった。

 「ある水準の稼ぎを得る仕事をしているなら、自分がそういう立場にあることを認識して、その期待に応えるつもりがあるんだ、ということを見せてほしいじゃないか。だいじな仕事を任されているのにその自覚がないやつは、きつくなってきた時にすぐ投げ出す。自分にどの程度の踏ん張りが期待されているか自覚していない。変に安いスーツを着ているやつを見ると、おれはその点でつい不安になってしまうんだよ」

 ふーん、そういうもんかね。ぼくはスーツだけ高くて踏ん張りのきかないアホにいろいろ迷惑かけられてきたので、むしろスーツの高さと能力は反比例するんじゃないかとさえ思ってるんだけどね。

 「それは……まあそいういう連中もいるし、不幸な出会いもある。でもおれの言うことにも一理あるとは思わんか」

 うーん。そういう言い方もあるかなあ。そういえばパトリシア・コーンウェルの検屍官シリーズで、なんかそんなチョイ役が出てきたっけ。その人物は、自分がエリートで地位も高いんだけれど、「その地位にふさわしい格好をしたためしがない」。だらしない格好をして、自分のエリートとしての地位が重荷だというふりをする。でもそれは自分が仕事をきちんとやらない言い訳であり、ある種のエリート的な優越感の裏返しなのだ、とかなんとか。

 「そうそう。まさにその話。それは、自分がどの程度の存在であると認識しているかという話だと思う。中身がないのに高いスーツを着ているやつは、バカだけれど、中身にあわない格好をしているのもほめられたことじゃない。それに自分への投資意欲についても何かしら物語るんだと思うぜ。制服とちがって自分で買うものだろ。仕事にどれだけ自己投資する気があるかという目安じゃないか」

 そうかなあ。個人的にはそこにほとんど相関はないと思うんだが……でもさ、仮にそれを認めるとして、じゃあどのくらいのスーツを着てれば合格なわけ? 高けりゃいいってもんでもないんだろ?

 「そうだなあ、おれも受け売りなんだが、ビジネスマンとしては一週間分の給料に相当する金をスーツにかけるべきだと言われたことがあって、なかなかいい目安だと思っている。月給の四分の一ってところだな。いま着てるのもそのくらいだ」  ……今着てるのはその半値くらいなんだが……

 「それなんだよなあ。だから日本人は。みんな実際に仕事すると、かなりがんばってくれるのに、そういうところで損してると思うんだけど。おまえ、GQに書いてるんだろ。GQって、スーツの広告とかいっぱい出てるのに、そういう目安とか出さないの? 出ない? ならおまえが書けよ。みんな知らないなら役にたつと思うよ。絶対書けって。感謝されるぜ」

 ……というわけでこうして書いては見たものの、どうだろう。ぼくはあんまり納得していないんだけど。で、感謝してもらえるかはさておき、みなさんのスーツはいくらくらいだろうか?



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YAMAGATA Hiroo <hiyori13@alum.mit.edu>
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