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『高度一万メートルからの眺め』 連載 15 回??

ウォルフラム・アルファで昔のコンピュータの夢を

月刊『GQ』 2009/8月号

要約:あのMathematica のウォルフラムが開発した、ウォルフラム・アルファは、「なんでも知ってるコンピュータ」という小学生時代のイメージを現実化するかも。


 ホワイトカラーの仕事の多くは、調べ物とレポート作りだ。もちろん本誌読者の中には、そんなことは秘書や部下にやらせるから関係ない、という方もおいでだろう。だがまだそうした地位にたどりついていない方もそれなりにいらっしゃるのではないかと愚考する次第(この筆者めも含め)。そうした方はいろんなものを自分で調べざるを得ない。ネットとグーグルの出現でそれがいかに楽になったかは、ここで説明するまでもない。

 でもその一方で、グーグル検索で出てきたピント外れなページを次々に読みつつ、ため息をついた経験のない方もあまりいないだろう。こっちの質問を咀嚼し、検索でもなんでも出てきた結果の中身を見て機械がちゃんと判断して、ついでにレポートまでまとめてくれないかなあ、とムシのいいことを考えた記憶のある方も多いのでは?

 SF映画では、コンピュータに話しかけたら――あるいは端末で普通に質問を入力したら――普通に人間が答えるのに近い答えがすぐにかえってくることになっている。必要な情報をさっとまとめてレポーティングもしてくれる。でも実際のコンピュータがそれにほど遠い代物なのは、もちろん皆様ご存じの通り。きわめて分野を限れば、多少はそれに近いことができるものもある。でも汎用的なシステムだと、いまある中でいちばんつかいものになるのは、グーグルの検索くらい。そしてそれですら、まともな答えは返ってこない。「それについてはこんなページがありますが」というのを教えてくれて、それをあれこれ読んで情報をまとめるのはぼくたちが自分でやらなくてはならない。

 これまでは。

 ところが、その映画の世界が一気に現実に近づいてしまった。

 理系の読者なら必ずやご存じの、あの数学ソフトMathematicaを開発した天才スティーブン・ウォルフラムが、先日ウォルフラム・アルファというシステムを発表した。普通に質問を入れると、その文脈をシステムが解釈し、それにあわせてデータベースを漁ってそれを計算してレポートにまでまとめてくれる!

 たとえば「豚インフルエンザ」と入れれば、その説明、現在の患者数や死者数、予防法等々、通常それについて人が知りたいだろうというものを、地図表やグラフ、写真や動画も交えてさっとレポートにしてくれる。すでにオンラインでデモが始まっている。情報の濃淡がはげしくて、まだまだ結果のばらつきが多すぎるけれど、それでもすごいポテンシャルがあるのは十分に感じられる。これができたら、コンピュータと普通に会話できる日も近いかもしれない。そしてそれを、いま発達中のロボット技術と組み合わせたら、何ができることか。

 数年前は、梅田望夫の本なんかでウェブ2・0がもてはやされ、グーグルがいかにすごいかという本がやたらに売れた。いま、金融危機で景気が停滞すると、そんなのはすぐに忘れ去られ、あれもバブルの一環でしかなかったように思えてしまう。そして、たぶんそういう面は大いにあるんだろう。みんながブログを書いたところでいまの景気後退がどうにかなるわけはない。

 でも、長期的に世の中を動かすのは常に新技術であり、それがもたらす夢だ。ITバブルの多くは、その夢の広がりの副作用でもある。今回の新技術は、グーグルの検索やブログなんかよりもはるかに具体的で明快な進歩を感じさせてくれる。もちろん、これで不況脱出とはいくまい。でも、そろそろ景気も最悪の状況を脱したようだ。数年して、いまの大波が少し落ち着いてふとあたりを見回してみると、ぼくたちは空想の世界にしかいない、えらく賢いコンピュータに囲まれていることになるかもしれない。そう考えると、楽しくはないだろうか? もちろん……それでいまレポートを上司のためにまとめている、ぼくたちの一部が職を失うかもしれないと考えると楽しいばかりではないかもしれないけれど。



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YAMAGATA Hiroo <hiyori13@alum.mit.edu>
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