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『高度一万メートルからの眺め』 ボツ版

SAAB売却のお話

月刊『GQ』 2009/7月号ボツ版

要約:GM売却で、迷走していたサーブが売却され、またスウェーデンに買い戻されるような話もあった。おもしろい車メーカーだと思うのでがんばれ。(注:その後、結局この話は流れて中国に買われたのかな? 車の話は某スポンサーさんへの配慮でダメと言われたんだが、正直言って何がお気に召さないのかわからん。


 前回以来、GMが倒産して、再建のためにその資産が切り売りされていて、それがなかなかなりふりかまわなくて感心している。オペルはカナダの部品メーカーに売られたけれど、特にこれという感慨もない。買ったほうもどうするのかな、という感じだ。

 一方、ガソリン大喰らいのハマーが中国企業にいったのは、かなりみんな驚いた。というのもハマーは軍用にも使われるデュアルユースで、軍事技術もかなり入っているから下手をすると国防総省からストップがかかりかねず、おいそれと売れないんじゃないかと言われていたのだ。それをよりによって中国に平気で売却するとは。もうそんなことを気にしていられる状況ではないということなのか、あるいはもう陸上車両技術なんか軍事的にそんなに価値はないと思っているのか。

 でもそれ以外に、売却されたブランド/メーカーの中にもう一つ懐かしい名前が混じっていた。サーブだ。

 サーブはスウェーデンのちょっとマニアックなメーカーだ。スウェーデンの自動車メーカーというと、質実剛健の代名詞みたいなボルボがあり、サーブもそれに通じるものがあったけれど、サーブは戦闘機メーカーが出自だということもあって、技術的にちょっと先鋭的な印象があった。サーブ九〇〇の初代は、いちはやくターボをつけたりして、なかなか個性的な車として一九八〇年代には日本でもそこそこ人気が出たりしたっけ。

 でもその後、GMの百パーセント子会社になって、サーブはまったく駄目になり、噂もあまりきかなくなった。いまネットで調べて見ると、九〇〇はまだ続いていて、他にも新モデルがいくつか出ているようだが、まったく知らないものばかり。GMはいったいなぜサーブを買ったんだっけ? いまとなってはまったく覚えていない。でも、かれらのサーブの扱いをみると、GMの失墜は日本車のせいでも組合のせいでもなく、ひたすら経営陣の愚劣な判断のせいだというのがはっきりわかる。

 かれらはサーブの持ち味や強みを一切理解せず、コスト削減のためと称してオペルと共通部品や共通の設計を大量に使わせた。おかげでサーブは、それまでの持ち味だった個性を一切失い、できそこないのオペルに成り下がった。結局できたのは、安いけれど売れない車だ。数字だけ見て車作りをするとどうなるかという、経営学の教科書にも載りそうな失敗の見本だ。

 そのサーブがこんど、スウェーデンに売られた。里帰りという感じかな。そしてそれを買ったのが、ケーニッグゼグという寡聞にして聞いたこともないスウェーデン企業。年間二十台くらいしか作らないスーパーカー企業だそうな。そんな会社があったんだ! 金融で一山あてた人が、好きで作った会社だとか。

 かれらが何を考えてサーブを買収したのか、よくわからない面もある。実は何も考えておらず、単に母国スウェーデンの名門ブランドの苦境が見ていられなかっただけでは、とも言われる。それに買ってどうする? スーパーカー作りと、量産型の一般車づくりとはまったくちがうので、ケーニッグゼグがサーブを再生させられるのかについては疑問視する声もある。確かに生産技術とかコストとか労使問題とかでは、苦労するかも。

 でも、個人的には少なくともGMよりは愛情を持った扱いをしてくれるんじゃないかと期待している。なんだか、サーブ復活のためには、販売台数をいまの5割増しくらいにはする必要があるとか。きつそうだけれど、成功してくれるといいな。スーパーカーなんて個性だけで成立している分野だ。かれらなら、一応サーブをかつて有名にしていた車の個性というものについて、多少なりとも理解できるんじゃないかと思うし、それを再生させるだけの見識もあるんじゃないか。自動車産業もいつまで続くか危うい面もあるけれど、まだまだおもしろい車が伸びる余地はたくさんあるはずなんだし。



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YAMAGATA Hiroo <hiyori13@alum.mit.edu>
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