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『高度一万メートルからの眺め』 ボツ版

イラクデモ騒乱とITメディア

月刊『GQ』 2009/6月号ボツ版?

要約:イラン大統領選のデモが出て、ソーシャルメディアがデモに役立ったが、その優位はすぐに消えた。IT 過信はいけない。これはボツになったのかな? 歌舞伎座の話がずれているのかな? なんだかわからないがファイルだけあったので一応ここに入れておく。


 執筆時点で、イランの大統領選はかなり混乱しているようだ。現職の大統領が、選挙でかなり不正をやったうえ、負けたらしいのに反対派を暴力的に弾圧しているらしいんだが、そもそもかれが本当に負けたのかもよくわからない。反対派は、現職の大統領のような反米強硬路線をだれも望んでいないというんだが、そんなわけはない。現職の大統領がそれなりに人気があるのはまちがいないところで、対立候補側の主張が完全に正しいとも思えないんだよね。対立候補支持者のほうが、何となく自由や民主主義といったお題目に沿っているような印象はあるんだけれど、それはメディア戦術のおかげもあるし。

 ただしその選挙に伴う抗議デモがかなり大規模で、それを鎮圧しようとする現政権がかなり強硬で血なまぐさい手に出たというのは間違いないらしい。そしてイギリスの『エコノミスト』誌が、その状況が世界の知るところとなった経緯を伝えていたのだけれど、それが現代のメディアや報道のあり方としてなかなかおもしろかった。

 当初、CNNやBBCなど、既存のテレビメディアは、なぜかそうした選挙後の混乱をほとんど報道しなかった。いささか強面のイラン当局にびびったのか、理由はよくわからない。でも既存メディアがどうでもいい報道に時間を割いている中、ツイッターやYouTubeなどのネットメディアが、現地の状況を克明に伝え始めた。現地の活動化や対立候補側が流した情報もあるし、またそれとは関係なく、たまたま現地にいた人々がネット上に書き込んだ情報もある。そしてそれを見て人々の関心がイラン情勢に集まり、それを黙殺している既存メディアに対する批判も高まることとなった。

 さてこれだけなら、既存メディアに対するネットの勝利というよくある話。だが、これには続きがある。批判を受けた既存マスコミはすぐに報道を改善し、きちんとした報道を開始した。なんといっても、現地に駐在員もいるし、やろうと思えばまともな報道はできたのだ。

 これに対して最初は優位を保っていたネット報道は、すぐに当初の先鋭性を失った。ツイッターや2ちゃんねるの議論、あるいは通常のデモなどを見なれた人ならおなじみだろうけれど、最初は本当に現地にいて問題を伝えられる人が注目を集めるけれど、そのうち「自由万歳」「打倒ナントカ」とか、とりあえずスローガンを並べて参加欲を満たしたいだけのコピペ馬鹿が大量に出現する。今回もそれが起きた。最初は有益だったネット情報は、やがて烏合の衆の泥沼と化し、まともな情報収集に役にはまったくたたなくなったとか。

 比較的ありがちな光景ではある。機動力はあるけれどムラのあるネット、一方で腰は重いが質は確かな既存メディア……と言いたいところなんだが、実はその逆もよくある。既存メディアが勇み足や大本営発表の受け売り報道に終始するのを、ネット上の議論が検証する場合だ。とりあえず枠を埋めるために何かしら報道せざるを得ず、手持ちのデータをときにはきちんと調べずに流してしまう既存メディアに対して、それとは関係なくじっくりと議論して検討できるネット、という対比が生じる場合もある。

 ネット対既存メディアの比較は昔からしばしば話題になるし、両者の長所を生かしつつ共存というのもありがちな結論ではある。でも実際のところ、何がそれぞれの「長所」なのかは、なかなか判断しにくい。場合によってそれぞれのどこが長所となるのかは変わってくる。最終的には、ネットと既存メディアがちがった多様な視点から事象を見ることで、よりよい報道が実現しているとはいえる。ただその過程で何を信用するか、受け手に要求される判断もますます増えてくるということらしい。

 考えてみれば面倒な話ではある。技術はそういう手間を減らしてくれるはずだったのに。昔話題になったウェブ2・0のご託宣だと、いろんな人がそうした情報を見て採点する中で自然によい情報が浮かび上がってくるはずだったのでは? が、そんなうまい話もなかなかないようで。



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YAMAGATA Hiroo <hiyori13@alum.mit.edu>
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