ハロウィーンV: FUD が始まる

Eric S. Raymond 著、yomoyomo


Linux について知るほどに、消費者にとっての導入価値が弱いものに思え てくる。-- 5月4日付 ZDNet の記事より

レドモンドの数ヶ月にわたる沈黙を破り、マイクロソフトの Linux に対す る来るべき FUD キャンペーンの主旋律が、レドモンドの悪臭を放つ霧の中 から現れたゾンビの群れのごとく鳴り響き出している。そして黒装束に身 を包み斧をふるう、馬に乗られたお方は紛れもない、お懐かしやエド ”ノッティンガム郡主”ムスではないか。 前回手ひどく痛めつけられた経験から立ち直り、再びリーヌスとシャーウ ッドの陽気な仲間たちの前に現れる準備ができたらしい。

5月4日付の ZDNet の記事「マイクロソフトの重役が Linux の『乏しい導 入価値』を解剖」において、エド郡主は、我々がマイクロソフトの情報操 作屋について予想する通りに、小事にこだわり、大事をゆるがせにしたり、 と色々組み合わせて宣伝してくれている。我々は「何の妥当性もない」FUD を聞かされ始める。それはコーレルやオラクルや SAP のような企業と Linux が同列に扱われるという承諾しがたいものである。我々は、現状と Windows 2000 という随分と遅れている約束の地との間に Windows 9x 系 列がいくつ挟まってくるかも決められないような企業から、「長期的 なロードマップがない」と聞かされ始めることになる。

それにまた「メディアの報道における公正さの欠如」について泣き言を聞 かされることであり、それには「業界紙がもはや我々のプードルのように は動いてくれない」というマイクロソフトの思惑が表れている。しかし、 件のインタビューの中で最もこっけいなのは、「……こうした空想家のプロ グラマーや開発者達が、彼らの生涯における最高の仕事をただであげてし まうことを欲していると私に信じさせたいのだろうが、私はそんな将来の ビジョンなんて信じない」というところだ。

エド群主が分かってないのは、これが現在のビジョンであるとい うことだ。何千人もの「空想家のプログラマーや開発者達」が既に それを選択していて、そして毎日再確認することによって、Linux はこの ビジョンを獲得したのだ。ずっと薄気味悪い(マイクロソフトの見方に立 った)資本主義とハッカーの贈与文化でさえ、互いを補い、支え合う方法 を学びつつある。それこそが先週の LinuxWorld での大騒ぎの根本にある ものなのだ。

しかし、この記事において最も注目すべきは、エド郡主が語らなかっ たことにある。彼は NT が Linux よりも堅牢であるとは主張しなか った。彼はマイクロソフト自身の SMB による、ファイル共用サービスや印 刷共用サービスの動作について、NT が Linux よりも優れたパフォーマン スを示すとは主張しなかった。彼は NT がサーバー市場において Linux よ りも成長しているとは主張しなかった。

なるほど、エド郡主は上に挙げた事柄が本当でないことが十分に分かって いるからこそ、そうした主張をしないのだ、と仮定できるだろう。Linux は、NT の管理者が夢想できもしないくらい、日常的に継続して稼動するし、 インターネットから SMB まで、殆どあらゆるサービスにおいて、Linux は NT よりより高速かつ効率がよいし、またLinux は NT を上回る勢いでサ ーバー市場のシェアを延ばしている。この仮説の都合の悪い点としては、 マイクロソフトが、企業の目的のためには嘘をつくこともいとわないこと で有名なことだ。司法省との裁判で流したビデオの大失敗は、連中がそれ をやってしまった最も最近の例に過ぎない。

他方では、近頃の宣伝活動における大失敗の後も、この点におけるエド郡主の Linux についての言説はどれも、マイクロソフトにとって最も重要な 顧客を代表する人達に大変注意深く向けられたものになっている。 それ故にエド郡主が以上の主張をしなかったのは凡そ確かだろう。そうし た主張が真実でないからというより、それらが信じてもらえないこと を彼も分かっているということだろう。

興味深いことだ。まったくのところ、大変興味深い。

ここでムスのインタビューのおもしろいパロディーを読むことができる)



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YAMAGATA Hiroo<hiyori13@alum.mit.edu>