{Halloween X}

ハロウィーン文書 X: お金の流れに身を任せ

3 Mar 2004

原文:Halloween X: Follow the Money

 おっと、ハロウィーン文書 IX で、SCO の Linux 叩きに対するマイクロソフトの袖の下支払いは、たった 1,100万ドルとか言ったっけ? ふたを開けてみると、桁がまるでちがってた。われわれの思っていたよりもずっと、ずっと多かったのだ。

 以下の文書は、SCO 内部の匿名ウィッスルブローアー(内部告発者)からぼくにメールされたものだ。タイプミスや構文の変なところは原文ママとのこと。これが本物かどうか、受け取った時点ではぼくには確かめようがなかったけれど、でも IBM や Red Hat、ノベル、AutoZone、ダイムラー・クライスラーの弁護士なら証拠提出要求で原文を手に入れられるだろう。3月4日、この文書が公開されてから24時間以内に、SCO はこのメモが本物だと認めたというメールを eWEEK.com のスティーブン・J・ヴォーンからもらった。

 説明コメントは茶色のフォントでいれてある(緑から変えたのは、色弱の人から苦情があったため。 [訳注:さすがに読みにくいので背景色指定はやめた。])。原文の注目部分は赤字で強調した。


--- クリス・ソンタグの受信箱から

From: Mike Anderer
Sent: Sunday, October 12, 2003
To: csontag@sco.com
CC: Bob Bench
Subject: Conversation Friday

このメールを受け取ったクリス・ソンタグは、SCOsource の副社長で本部長 (general manager) だ。この会社は(その企業ページによれば)「SCO の多大な知的財産保有の開発とライセンシングを統括している」そうな。

クリスへ:

後で金曜にボブと話をするのは知っているけれど、論点をかいつまんで説明
しておこうかと思って。

ボブ・ベンチ は、SCO グループの財務主任役員だ。cc 行にアドレスが入ってる。

マイク・アンダラーは、S2 なるところのコンサルタントだ。ここは自称「戦略コンサルティング」企業で、マイクは企業買収 (M&A) グループにいる。かれの名前はSCO の SEC への提出文書にも登場する

S2 は、2003 年 6 月には SCO 株のワラント (新株引き受け権つき社債) を手に入れている。だからかれらは、この他には値上がりの見込みがない株 (SCO/Caldera は儲かったためしがない) の値段が急上昇すると予想すべき根拠があったら儲かる立場にいたわけだ。

 アンダラーはまた、 Entirenet なる会社の CEO でもあるようだ。このサイトをもとに判断するなら、アンダラーとその会社は、ビルゲイツとフレンチキスせずに親密になれるギリギリのとこまでマイクロソフトべったりのようだ。

ティム・ラッシングは、アンダラーと SCO/マイクロソフトに関連した年表を作っている。

1) Baystar は、単にマイクロソフトからの紹介だったから強くは出ない ので 2%

Baystar Capital はベンチャーキャピタル会社だ。 2003 年に SCO はある「取引」で5 千万ドルの出資を受けている。この取引は、裏でマイクロソフトが動いているという噂だったけれど、この一文でその噂が裏付けられた。

これは、Baystar の A 系列株の 33.4% の保有者に、Boies とその他二つの法律事務所に対する条件付支払いを引きおこすような行動を承認・否認する権利を与えるという合意を考えると実に興味深い。A 系列株主の正体――そしてそのマイクロソフトとの関係――を掘り起こすと、なかなかおもしろい結果になるんじゃないだろうか。

2) ライセンス提供取引はすべて 5%

3) ほかの作業のほとんどはわたしが直接手を下したから 2% から 3% だが、
これはボブの話だとダールかきみが、これは紹介ではなったという事実を
署名付証明書にする必要がある。

マイク・アンダラーは、取引の仲介手数料の話をしている。

4) IPX の特許についていうと、適切な敵を(訳注;意味不明。typoかな)。 これは仮申請から来週には本申請になるよう、弁護士たちと作業中。 たぶんこれは少なくとも特許 3 つにわたるはず。これを考案したのはエドと わたしだ。ここはどうしよう

IPX は ノベルが開発したネットワークスタックだ。ここでの話は、アンダラーは SCO がこの IPX に特許のしばりをかけられるかもしれないということで、だから ノベルに対する知的財産侵害の主張をここで探しているわけだ。

特許の仮申請は、申請日から 1 年で「死ぬ」ので、ここで言っているのは 2002 年 10 月以降の申請で、それが 2003 年 10 月以降に本申請に切り替えられたものだ (メモの日付時点ではまだそれが起こっていないことからわかる)。ソフトウェア特許が承認されるまでの時間は(もし承認されるなら)平均で 2-3 年だ。でも申請は、18ヶ月後には公表される (アメリカだけで特許を取得するつもりでない限り、公表は義務づけられている)。だから、この申請は 2005 年 4 月か 5 月には公開されるはずだ。

 もし問題の特許が公開されたら、この検索で見つかるはず。いまこれで検索をかけると、アンダラー名義の特許が3件見つかって、それとそれとここの「エド」はたぶんエド・アイアコブチ (Ed Iacobucci) だというのがわかる。

5) RedHat と Acrylis の検討については、何も儲けの出そうなネタがない
これは別枠で請求できるか。わたしもパソコンを買って RedHat をインストール
して、これを持って法律事務所と少し叩いてみる。どうしようか?

Acrylis は、Caldera (後の SCO) が2001 年に提携したところだ; 後に Caldera に買収された。 SCOの 2002 年有価証券報告書の53ページにはこうある:

2001 年 5 月 3 日には、弊社は Acrylis, Inc より WhatIfLinux 技術を買収した。 WhatIfLinux 技術はオープンソース利用者やシステム管理者に、もっと高速で信頼性の高いソフトウェア管理のための、インターネット配信ツールを提供するものである。Acrylis からの取得資産の対価として、弊社は市場価格 1.95 ドル/株で一般株 125 万株を発行し、およそ 240 万ドルを調達し、現金で 100 万ドルを支払って、その直接経費として 10 万ドルを支出した。弊社は WhatIfLinux 技術の資産計上において取得価格会計を使用した。WhatIfLinux 技術に対する支払い対価の配分は、およそ 300 万ドルを購入技術に割り当て、50 万は goodwill (訳注:日本の会計処理で goodwill に相当するものってあったっけ?)に割り当てた。購入技術は耐用年数 3 年で償却する。

Red Hat 対 SCO の進行中の裁判については ここを参照

 最後の議題はそれほどおもしろくないのはわかるが、マイクロソフトは
Baystar からのを含めて 8600 万ドルほどをわれわれに提供してくれた。
次の取引ではたぶん $16-20 くらいもぎとれるだろうが、かなりきつい話に
なるだろう、株式公開作業だのライセンスだのの話になるから。わたしと
してはとにかくこの話をモノにして corp dev とは手を切って marketing 
and field dollars のほうに移りたい……この市場だと追加の取引で  
3-500 万ドルずつくらいもらえて、しかも一斉射撃をいちいち受けなくても
いい。ちなみに一斉射撃は SR VP (上級役員)どもが相手になるとますます
熾烈になるはず。

 これは現場を押さえられたようなもんだ。マイクロソフトが SCO に少なくとも 8600万ドルを提供したのは知っていたけれど、今朝 (2004/3/3) の SCO コンファレンス電話によると、現金残高は 6,850 万ドル。マイクロソフトのおかげがなかったら、SCO は現在、少なくとも 1500 万ドルの負債を抱えていただろう。

「$16 - 20」というのは、おそらく現金 $1,600 万~ $2,000 万のことで、このメモは 5 ヶ月前のものだから、たぶんこの取引はほぼまちがいなくすでに成立しているだろう。つまり、SCO はヘタをすると、たった一年の訴訟脅迫で最大 3,000 万ドルも無駄遣いした可能性があるということだ。

でも、もっとおもしろい(が突拍子もない)可能性がある。10 月 12 日のほんの数日後、 SCO の株価は 16 ドルから 20 ドルにはねあがった。メモの文脈からはこういう読みが正当化できるかわからないけれど……でもマイクロソフトは SCO の株価つり上げ能力にきわめて自信があったから、見返りとしてそれをやってあげたという可能性は?

 一部の人は、ぼくが二番目の取引を二重に勘定しているとか、それが結局は実現しなかったんじゃないかと考えている。書き方があいまいなのは認めよう。でも低く見積もっても、数字は $66M になる (アンダラーの $86M から、二番目の取引の最高額 $20M を引いたもの)。これはやっぱりかなりの金額で、2004年第一四半期の有価証券報告書における SCO の現金ポジションはほぼ全額がこれだと思っていい。だから話が変わるとしても、SCO はマイクロソフトなしでは単に $15M の負債を抱えるかわりに、あっさり倒産しているといことだけだ。

「わたしとしてはとにかく」で始まる部分も実におもしろい。どうやらアンダラーは、マイクロソフトの企業階層の中で、もっと金持ちのパトロンを捜しているらしい。SCO はマイクロソフトの「corp dev」(たぶん「corporate development」(訳注:企画部くらいかな?)からお金をもらっていたけれど、マイクロソフトの上級副社長たちからの猛攻撃にあって、それがむずかしくなってきている。だから「marketing and field dollars 」(というのがなんだかはわからないけれど、どうもマイクロソフトの共同マーケティング部門らしい)のほうからもっと金がむしれると思っているわけだ(最後の段落から見て、これはどうもマイクロソフト社内の別の部門らしい)。

これをやるなら小さな買収をいくつか用意して、一気に勢いをつけよう。そして
これはすぐにでもやるべきだ。マイクロソフトはまた金はもっとたくさんあると
臭わせていて、われわれがもっと成長したいとか企業買収をかけたいなら
うちにもっと金を払うならばなるべく Baystar 「もどきの」組織を
たくさん使うほうがいいようだ

つまりマイクロソフトは反 Linux の見返りを、第三者経由で支払うほうがいい、というわけだ。これは司法省の反トラスト部隊が万が一居眠りしていなかったとき対策ってわけかな?

企業買収の下りは、Caldera/SCO が死に体の会社からひっぺがした旧弊な技術をネタに、よその企業を訴えるという長い経歴を誇ることを思い出すと、ずっと空恐ろしいものに見えてくる――デジタルリサーチからの DR-DOS を皮切りに、USL の System V を経て、いまの IBM 訴訟だ。

このマイクロソフト取引はポーカーゲームの掛け金だ……
こいつをモノにして、2-300 万ドルの取引を、連中の経費から何度か支出させよう。

つまりかれらの将来収益計画というのは、マイクロソフトを絞って金をださせて、その後さらに追い銭をゆすりとる、というわけだ。

われわれとしてはすごく助かるし、実行できたら(訳注:ワラントの新株引き受け権を行使
できたら、ということかな?)足抜けして作った Unix コンポーネントはうまくするとマイクロ
ソフトか MCS に売り戻せる。

MCS はここではたぶん Microsoft Consulting Services のことだ。


向こうも感づいていてだから今回はこれ以上あまり押せないかもしれないが
連中から金を引き出す手は他にもあるし、ほかにそのパートナーや
投資銀行紹介やら等々...

連中が 8,200 万ドルから 8,600 万ドルを提供してくれたことは忘れるなこの取引がリッチの
提示では四半期あたり 400 万ドルか、最終的にクリスが興味を持ってる最低線の 500 万
になったとしても。

「リッチ」というのは、この文脈だと、マイクロソフト企画部で SCO の実入りについてクリス(ソンタグ)相手に値切る役の人物らしい。おそらくは、マイクロソフトの企業企画戦略担当重役 リッチ・エマーソンだろう。

「ポーカーゲームの掛け金」というのは、このメモ執筆時点で交渉されていた 1,600 万--2,000 万ドルの取引の話だ。8,200-8,600 万はすでに提供済みだった。合計でかれらは、マイクロソフトの企業企画部門からだけでも $98,000,000 から $106,000,000 をもらえると見込んでいるわけだ……

 この段落を注意深く読むと、さっき出てきた「$16-20 くらい」というのが株価のスプレッドじゃなくて、百万ドル単位の話なんだというのが確認できる。 $4M に四半期 4 回をかけると $16M で、 $5M を 4 回の四半期分足すと $20M だ。

もっとあるだろう、融資やら提携やら等々...でもとにかくこいつ
は仕上げないとダメだ。えらく目立つし、きわめて重要だけれど、売り込む相手は
連中じゃない。連中からは搾れるだけ搾って、その後はあの会社の他のもっと
大きな部門を叩いてみよう、それとかもっと大量の予算があってこっちの助けを
必要としているようなところを。

……そしてマイクロソフトの「他の」ところを叩く前に、すでに 1 億ドルだ。

考えを聞かせてほしい。

-Mike

 というわけです。マイクロソフトからは 1 億ドルが SCO に流れ込んで、その残金が 6,850 万ドル。有価証券報告書を見ると、これに比べれば他のキャッシュフロー源なんか統計的にゴミ以下だというのがわかる。すばらしき新 SCOsource のビジネスモデルはいまや明らかだ。顧客を訴えて、マイクロソフトの提灯持ち、株価をつり上げて、牢屋にぶちこまれないことを祈る、というわけ。

 このメモが書かれた 5 日後、SCO の広報部長ブレイク・ストーウェルは、Baystar 取引の背後にマイクロソフトがいるんじゃないかという根強い噂に対して 強硬に否定してみせた

 これは今でも SCO の公式見解となっている。かれらのこの文書に対する反応 は、このメモが本物だということは認めているけれど、でもアンダラー――この種の「取引」を見つけ、扱い、役員会に報告するためにかれらがやとったコンサルタント(かれのSCO との契約にある「業務内容」を参照) ――はこの取引について誤解している、と主張している。SCO に言わせると、アンダラーはマイクロソフトを取引に引っ張り込んだことについての手数料に関するクリス・ソンタグへのこのメモを書いたけれど、でもその取引にはマイクロソフトはまったく関与していなかった、ということになる。

 SCO の反応は「このメモは本物ですが、しかし……」という形のものだ。この「しかし」の後に多少なりとも事態を改善するような何かを追加しようというのは、なかなか見上げた試みではありますが、しかし……そういう細かい話をあれこれするのは、沈没するタイタニック号の甲板でデッキチェアの配置換えをするようなものだ。はいはい、ブレイク・ストーウェルが口から出任せを言ってるとは限らなくて、単に蚊帳の外に置かれていてマイクロソフトの関与を一切知らなかったと心の底から言えるようになっているのかもしれない。でももしそうなら、SCO の広報部長が知らされていない話は他に何があるんだろう……

 そしてもちろん、次に尋ねるべき質問は、SCO やマイクロソフトの否定をすべておじゃんにしかねないものだけれど、実に単純なものだ。マイク・アンダラーは、この「誤解された」取引で手数料を払ってもらえたの?




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YAMAGATA Hiroo (hiyori13@mailhost.net)