血も涙もないファイナンス講座 第三回

株のお値段

 
 
 

1. なぜ株価に注目するのか

 別にわれわれ株屋になろうってんじゃないが、株価はいくつかの特徴をもっていて、いろいろ便利。たとえば:  たとえば、ある会社が新本社ビルを発表したとする。「新本社ビルの完成で、われわれの作業はいっそう能率を増し、弊社の生産性はうなぎのぼりです」というようなことを、公報部からは聴かされる。ホントかな? これを確認するには、たとえばビル屋にきく手もある。あるいはビルの専門家と称する山形にきく手もある。でも、こんなのは個人の意見とか、あるいは偏見や仕事上のバイアス(ビル屋さんは当然、「新しいビルはすばらしい」というでしょ)がたくさん反映されるから、どこまで信用していいかわからない。

 そこで一つの手は、この発表があったときに株価がどう動いたかを見ること。もし株価がぜんぜん動いていなければ、ああ、世の中の人は本社ビルができても何もいいことないと思ってるのか、とわかるだろう。もし株価が下がっていれば、「あれ、ひょっとしたらこれって、無駄金使いと思われてんのかな」という判断ができるわけ。もちろん、株価を決める要因はいろいろあるから、性急な結論は慎まなくてはならないけれど、でも目安にはなる。

 われわれが株に注目するのはそういうことだ。

 あともう一つ、前回までの講義でいったことを忘れないで。株価に注目するのは、割引率を計算するための手段の一つなんだ。ほかの事業なり企業なりにどのくらいの値が付いてるかで、リターンが計算できる。で、たとえば不動産事業の割引率が知りたいな、と思ったら、不動産企業の株式のリターンを調べてやれば、それらしい数字が出るではないか!
 
  


2. 株価の変動について

 株価は、一応その企業の将来性の見通しに応じて上がったり下がったりする。これについては、まあ異論はないと思う。 もちろん、付和雷同式でバブルが盛り上がることはある。でも、それは一時的なもので、原則としてまあ、この企業は安定してるな、と思われたらその企業の株も安定し、成長するな、と思われたら株価もあがり、お先真っ暗と思われたら株価は下がる。これはまあ、納得してくれ!

 さて、世の中には相場師という人がいて、株の値段だけみて、「お、そろそろ底入れや! 買いだ買いだ!」てなことをやろうとする。「三日上がりが続いたら、4日目には必ず下がるんや!」とかね(やっぱこういうのは大阪弁が似合う)。でも、これは可能だろうか?

 ほぼ無理だ、というのがほぼ一致した意見。株価は企業の将来性で決まる。さて、企業にとってのいいことや悪いことは、なにか規則性があってやってくるわけじゃない。だから株価はまったくの偶然にしたがって、ランダムに動く。株価だけを見ていては、絶対に将来の株価は予測できない! これが「株価のランダムウォーク仮説」。

 もちろんばくち打ちがいろんなセオリーをもっていて でも、 あと、ソロスは逆張り理論で儲けた、とかいう話がある。 でも、そんなのはたいがいインチキで、たまたまあるときうまくいった、という程度のものでしかない。
 実際に株価をプロットしてやると、その変動は確かにいいかげんだ。特に規則性は見あたらない。フラクタルっぽい動きをするとか、カオス的なふるまいをするというのは確かなんだけれど(その意味で多少の規則性はあるんだけれど)、予測ができるような代物ではない。ランダムウォーク仮説はおおむね成立しているし、これは何度も何度も検証されている。

 さらに、理論的にもこれはまあ詰められてる。株価を見て、来週株価が上がるな、というのがわかったとする。そしたら、みんなその株をいま買って、値段があがるのは来週ではなくていまになっちゃうはずだ。

  ただし、これが100%、まったく一分のスキもなく成立しているか、というとそうではない。おおむね成立してるんだけれど、でも微妙なところで狂ってる。

 たとえば、ある日大きく振れた株価は、その翌日必ず戻す傾向がある、とかさ。だから大きく下がった株を買って、翌日売る、というのを繰り返すだけで、儲かってしまうというのはある。
 
 これについては『市場と感情の経済学』(ダイヤモンド社。おれも翻訳協力したんだぜー。まさにこの部分で)にいろいろ出ているので、興味あれば目を通して。市場は完全には合理的じゃないし、投資家も必ずしも血も涙もない合理性に基づいては動かないし、雰囲気に流されていっせいにバブルっぽくまちがえることもある、というのは、否定しがたい事実。 そういうのは影響が出てしまう。

 しかしながら、市場の不合理性(平均値回帰とか)はそんなに巨大なものではないし、 こういう不合理な部分を利用しても、ほんのわずかしかメリットはなくて、結局骨折り損にはなりかねない。
 したがって、ここでは一応、誤差範囲内で合理的に血も涙もなくふるまうのだ、と思っておいて。ただしこれはちょっとフィクション入ってます、ということは絶対に忘れないで。
 


3 株の値段はどうつける

 株から得られる収入は、次の2つだ。 さて、これまでのキャッシュフローの話でやってきたように、あらゆる資産はそこから生み出されるキャッシュフローの現在価値のお値段しかつかない。

 これで株の値段のつけかたはわかった。 いままでと同じだよ。 税金は考えないし、減価償却なんてのもない。楽だね。

問題:

  

4 配当の出し方

 配当ってのはつまり、なんか事業して、前回やったキャッシュフローの中から借金の元金と利息を返して、その残った分を投資家にあげる、というものだ。単純な話。

 ただし、その全額をあげるとは限らない。その一部をとって、再投資するという場合がかなりあるからだ。 たとえばハイテク企業なんてのはみんなそうだ。そして再投資すれば、企業は成長する。そして配当もその分増える。

 ある企業があって、なんか事業をしてる。毎年メンテして、まったく同じ事業を延々と続けてるとしよう。
 

例題:
 毎年100円ずつ配当を出す企業があります。再投資もなにもしません。事業環境もなにも変わりません。同じ配当をいつまでも出しつづけて、まったく成長もしませんが衰退もしません。

 この業界の割引率は10%です。株価は?

答:
 100/10% = 1000円。おしまい。 

 ホントに続けられるのかよ! 事業環境が変わるじゃねーかよ! おっしゃるとおり。でもそうゆーのはいっさい考えない。すっごくいい加減な仮定をおくと、こんなことになる、という話だ。

 ではここで、仮にもっと成長する企業を考えよう。利益の一部を再投資するとしよう。するとその分、企業としてのがたいが大きくなってく(資産が増える)。その分、収益も増える。配当も増えるだろう。 企業が成長するってのはこういうことだ。

 どのくらい増えるだろうか。ある程度安定してる企業だと、資産に対してどのくらい収益をあげられるかという率はあんまり変わらない(ような感じだ)。これをもとに計算ができる。
 

例題:
 たとえば、資産に対する利益 (Earning) の割合(Return on Asset、略してROA)が10%の企業があったとする。こいつは、毎年利益の半分を再投資にまわして、残りを配当として払う。今年の配当は100円だったとしよう。 r = 10%。

 この企業の株価はいくら?

答:
 この企業の総資産はいくらか? 今年100円配当を出したってことは、Earning (利益)は一株あたり200円出てるわけだ(一株あたりの利益だからこれがEarning Per Share、略してEPSとゆーやつ)。ということは、ROAから逆算すれば、この会社の一株あたりの資産は2000円ってことだ。

 さて、今年100円配当くれて、残り100円を再投資した。ということは、一株あたりの資産は2100円になってるってことだな。で、来年の配当は、これの10%の半分だから、105円になるわけだ。5%増しやね。

 この成長が永遠に続く。したがって株価は、100/(10%-5%) で、2000円のはず。

 ホントに増えるのかよ! だいたいそんないつまでも拡大できるわけねーだろが! はいはい、すべておっしゃる通り。でも、仮にそうなるとしたら、こういう結果になるでしょう。ね!
 
・・・と言った舌の根もかわかないうちに、確かにそんないつまでも拡大できるわけはないんだ。企業はすべて、立ち上がりがあって、急成長して、安定してきて、その後さらに停滞期に入って、いずれ衰退する、はずだ。したがってそこまで考えると、株価は低くなるだろう。ただし、現在価値では、10年も20年も先の話はあんまし影響してこないので、まあよいのではないか、ということで。

 これを精緻にすることはできるけれど、基本的な考え方はいまのとおり。さて、これについて別の見方をすることができる。
 

だからこの部分を、PVGO、Present Value of Growth Opportunityなんて呼び方をしてみたりもする。が、本質的な考え方は変わらない。
 
 さて、この考え方を逆手にとれば、

  

5 企業にとってよい投資とは

 望ましい企業のありかたってやつは、うんたらかんたらで、いろいろ理屈はある。しかし、血も涙もないファイナンスの世界では、すべてが単純明快なのだ。
企業は投資家の利益を最大化するのがえらい

そしてもちろん、株式会社では投資家というのは株主だ。したがって

株式会社は株主利益を最大化するのがえらい

のである。
 さて、株主利益とはなにか? 株主が株から利益を得る方法は2つしかない。

したがって、 しかしながら、配当というのは毎日出るものじゃないし、配当があがるというのは、結局は株価に影響するわけだよね。したがって、このファイナンスの世界においては:

株式会社は株価を最大化するのがいっちゃんえらい

のである。これ以外のことは考えてはいけない。従業員なんか甘やかしてはいけない。クビなんか切るぞきるぞ!経営陣にそういう根性がないんなら、そいつらもクビじゃ! わかったかね。

 したがって、株価を下げるような行動はすべて石を投げられるべきだし、
 では、株価を下げるような行動、上げるような行動ってなんだろう。

社長が会社の金で愛人をかこって入れあげてる

 これは道徳的に許せないとかうらやましいことしやがってとかいう理由でいけないのではなく、「そんなことをする金があるんならおれたちに配当よこさんかい」という意味でいけないの。 逆にそれでこの社長がやる気出して業績があがるんなら、かえってそれを奨励する、という考え方だってある。
 これはちょっとひどい例だけれど(それに実際にはそういう会社のものと自分のものをきちんとわけられない人はダメなんだけど)、ファイナンス的な判断と、モラルの判断はわけてくれ、という点は理解しておいてくれ。
 
メセナ活動にお金をいっぱい出す
 同じく、「そんなことをする金があるんならおれたちに配当よこさんかい」という意味で万死に値する。 こういう活動は、それが会社のイメージをあげて売り上げに貢献したり、労使間の関係をよくして採用コストなんかを下げるというのが見込まれるというときに限って認められる。
 

さて、こういうどうでもいい話はさておき、事業に関係した投資はどうだろう。
 
 

5.1 事業拡張のための投資をする

問題1:
 ここに、毎年100円の配当を出し続けている企業がある(まだ負債は考えないで)。r = 10%だ。さて、この企業が自社の既存の拡張として、次のような投資を考えている。
「今年はこの投資のため、無配になる。しかし、 来年以降はこれで収益が増えて、配当は毎年105円にあがる!」

問題2:
 上と同じ企業。こんどの経営陣はもうちとまともで、同じく既存事業の拡張で次のような投資を考えている。
「今年はこの投資のため、無配になる。しかし、 来年以降はこれで収益が増えて、配当は毎年110円にあがる!」 問題3:
 では、どういう投資なら、きみは経営陣をほめていっぱいボーナスをあげようという気になるだろう。上の例だと、配当がどうなればいい? NPVがどういう事業ならいい?
 
 

5.2 事業多角化のための投資は?

ではむずかしい場合。

問題4:
 この会社は、まあたとえば出版社だったとしよう(相変わらず負債は考えない。相変わらずr = 10%)。さて、こんどの経営陣は野心的で「うちもこれからは多角化戦略をすすめなくてはならない!」てなことを言う。そしてこんな話を株主総会にもちだしてきた。

 「未曾有のメガコンペティション時代にあって、出版業界も規模拡大と多角化による経営基盤の安定化を図らなければ21世紀へ向けて生き残ることはできません! そこで食品事業に進出します! 現在は株主のみなさんに、毎年100円配当を出しています。さて、いまかんがえている投資を行うと、今年は無配になりますが、来年以降は配当が14円増えます!」
 ちなみに、となりの食品会社の状況を調べたら、r=15%でやっていた。

これに答えるためには、当然ながら次の問題にまず答えなくてはならないわけだ。

問題5:
 上の事業を評価する際の割引率は何を使うべきだろうか。以下から選べ。

  1. この会社の投資であり、ここに投資しなければこの会社がほかのところに投資していたという意味で、この会社の割引率/資本コストである10%を使うべきだ。
  2. これは事業としては食品事業だ。だから事業として負ってるリスクも、食品事業のリスクだ。よって、ほかの食品会社の割引率である15%を使うべきだ。
  3. 出版社の食品事業ってことで、資産額かなにかで加重平均した割引率を使うべきだ。

問題5については、答を書いてしまおう。会社の立場からすれば、自分の会社の割引率を使いたいという気がしてくるだろうね。いろんな企業が、バブル期には「最近は不動産が好調だから、うちも定款変えて不動産やろーぜ」てなことを考える会社がいっぱいあった。「うちの会社は低利で資金調達できて、儲けの大きい(つまりリスクの高い)事業に投資すれば大儲け」ってことだ。これはつまり、最初の選択肢だよね。

 でも、たとえばこれが、企業の買収だったとしよう。食品事業をはじめる方法はいろいろあって、自社でなんかやってもいいけど、すでにある食品会社を買収したっていい。食品会社は出版社に買われたことで、なにか事業が変わるだろうか? たぶん変わんないよね。収益とか(つまり配当を生み出す力)が変わる理由がある? たぶんないよね。で、それまで食品会社の事業を評価するときには、食品事業の割引率を使ってたわけだよね。だったら、新規の食品会社を評価する場合にだって、使うべきは食品事業の割引率、だろ?

 さらに、前の章で書いたことを忘れてはいけない。株式会社は株主のためになることをしなくてはならないんだ。さて株主はどう考えるだろう。

 「こいつに得体の知れないよけいな投資をしてほしいかしら? だって、食品事業に投資したければ、あたしが食品会社の株を買えばいいだけの話じゃん! こいつらがよけいなことをしなければ、今年もらうはずの配当100円を使ってじゅうぶんにそれができるわけよね。自分で多角化すればいい話であって、こいつらが素人仕事で手を出していいことなんかあんの?」
 
 たぶんないだろう。だから、多角化ってのはそれ自体はまったくいいことではない。むしろ、無駄に手を広げることで、オーバーヘッドが増えて悪い結果になる可能性が高い。「新規事業に手を出します」なんて発表は、ふつうは株価にまったく影響しないか、下がる場合だってあるんだ。

 じゃあなんでみんな多角化したがるの? 実はそんなにしたがってない。無駄な多角化は、市場に罰せられるのがわかってるから。あと、ここらへんがわかってないトンチンカンな多角化ってたくさんある。そしてためにあるのが、いまの例だと食品事業と出版事業をいっしょにすることで何か新しいメリットが出る、ということが予想される場合。たとえばマクドナルドが出版事業に手を出して、全マクドナルドで本も直でいっしょに売ります! とか、いくつかの書店網とマクドナルドの店舗を統廃合して合理化できます! とかね。それがあれば、多角化ってのは意味がある。 
 
問題6:
 じゃあこの観点から、日本のグループ企業を論じなさい。

問題7:
 同じくこの観点から、10年かそこら前に行われたNRIとNCC合併について論じなさい。
 


7 PER(Price Earning Ratio)

 ちょっと株屋っぽい話。PERが高いとか低いとかいうことをよく言う。 PERはPrice Earning Ratioの略。これだとどっちをどっちで割ればいいのかまごつくので、ぼくはP/E Ratio という書き方のほうが好き。 これが高いほうがいいんだ、といわれることが多い。こいつの意味を少々。

 前の例に戻ってみよう。もしある企業がまったく成長せずに(つまり再投資なんかぜんぜんしないで)、まったく事業環境も変わらずに、ひたすら同じEarning(利益) = 配当を永久に出し続けるとする。この場合、この企業の株のPERは?

株の値段 P = Div/r で、Div = Earning だ。 PER = P/E = P/Div = 1/r

 これはまさに割引率の逆数になる。

 では、もしPERがそれより高かったら? その差は・・・もちろん成長の見通しだ。配当が毎年 g 成長すると期待されるなら、P/E = 1/(r-g) になる。したがって、PERの高い株は成長性が高い株だ、という理屈になる。

もちろん、これは欠点もある。Earning(利益)って、一定じゃないもんね。なんかのはずみで上下したらどうしよう.
なんかのはずみで、この企業が赤字だったらどうする? Earningなんて、4半期か半期ごとにしか出ないから、あと、世間に出回るEarningってのは、会計上のものだ。冷血ファイナンス屋は、これで眉にいっぱいツバをつけなきゃなんない。

 さらに・・・市場は合理的で、市場は常に正しい、わけではない。バブルは起きる。だからP/Eがあまりに高いと(いまのアメリカみたいに)、これはちょっと変なんじゃないか、という見方も十分に成り立つ。

 でもまあ、企業としてPERを見て、うちはなかなか高いじゃん、ということになれば、それはそれでうれしいことだ。一応、市場はそれなりに自分たちに成長の見込みがあるな、現在の実績よりかなり有望だな、と思ってくれてるということだから。

 こういう見方をしたい一つの理由としては、まず配当を出さない会社の株でもこの比率は使えるってことなんだよね。あるいはまえにちょっとやったみたいに、たとえばEarningの一定割合をずっと再投資して、それがずっと同じリターンをもたらし続けたとしたら・・・・

 ・・・・しかしそうは言っても、えらくらんぼーな話だと思わんか。 しかし株の話は、実はすべて将来のあやふやな世界について行うものなので、らんぼーな話しかないんだ。いろいろアナリストがもっともらしい話をするけれど、でもらんぼーなんだ。そこんところは頭に入れといて。


8 CAPM (Capital Asset Pricing Model)

 さあみなさん、株の話の核心に入ってきました。このCAPMがわかれば、株そのものについてはもうあまり導紀子とはない。逆に、これだけはきちんとわかっておくれ。ではまいります。
 

8.1 株のリターンとリスク

 まずは、株のリターンがちゃんと計算できないと話にならない。

問題1: 去年100円だった株が、今年110円になりました。リターンはおいくら?

こたえ: 110/100 - 1 = 10%

 はいよくできました。これがリターンです。もちろん、この株が配当を出していれば、どうすりゃいいかはわかるよね。
 でも、われわれレベルのいいかげんな話だと、配当なんかあんまり心配しないでいいよ。もうだいたい株価だけ見て話をすることが多い。それと、株の場合、一応流動性の高い短期保有の資産ってことになってる。だから、今年の頭に買ってケツで売ったらリターンいくら、というのを「リターン」と称する。もちろん、10年前の値段といまとを比べて複利計算でリターンを計算することもできないわけじゃないけど、あんまりこういうことはしない。

問題2: 日本の株式市場のこれまでのリターンを求めなさい。 手をぬかずに4半期ごとで20年くらいとってみること。あと、標準偏差と分散を求めなさい。

問題3: 自分の好きな会社を選んで、そのリターンを求めなさい。株屋の手先なんだから、データのありかくらいわかるだろう。これも10年くらいやってごらん。同じく標準偏差と分散を求めなさい。株式市場のものとどっちが大きいですか?
 

 さて、この2つで、分散が大きいということはつまり、任意の時点をとったときに、株価がいくらになってるかわからないってことだよね。明日売ろうと思ったら、どーんとその日株価が下がる可能性がたくさんあるってことだ。これはリスク。つまり、株価の「リスク」は、その分散が大きい、ということなんだといえる。そして、リスクが大きければ大きいほど、リターンも大きくなってるはずだ。これは次回くらべてみよう。
 

8.2 ポートフォリオ

 さて、前の節でいろいろ見てやると、株価ってのはたくさん変動することがわかる。変動が大きい株もあれば、小さい株もある。平均すると、それなりのリターンを示すけれど、任意の日をとってそれを処分しようとしたときに、そのリターンが大きいか小さいかはわからない。これが株のリスクね。リスクがあるからこそ、銀行の預金よりは高いリターンが手にできるわけ。

 でも、その分散をおさえる方法がないわけじゃない。仮にこんな2つの株があったとしよう。
 
 
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
平均
Stock 1
2
4
10
-2
20
6
11
10
15
4
8
Stock 2
14
12
6
18
-4
10
5
6
1
12
8
Portfolio
8
8
8
8
8
8
8
8
8
8
8
 

 それぞれ期待リターンは平均すると8%だ。しかしながら、どっちも派手に変動する。

 でも、もし手持ちのお金でこの2つの株を半々もてば、リターンはまったく変動することなく8%。つまり、リスクがないのに、高リターンの投資ができるではないか!
 この世界できみは、株の1だけに投資しようと思うか? 2だけに投資しようと思うか? 絶対思わないよね。同じリターンなら、リスクの低いほうに絶対いくもん。

 これがポートフォリオの基本的な考え方だ。

  残念ながら、実際にはこういう便利な株はない(あればすぐにみんなが買って値がつりあがるから、どんどんリターンは下がって結局こいつのメリットは帳消しになってしまう。しかしながら、完全に一致した動きを見せる株もない。それぞれ、相関しあったりしなかったりしつつずれた動きを示す。
 こういうのをいっしょにもっておくことで、資産の分散化(Diversification)がはかれるわけだ。これにより、個別の株をもつことによるリスク(急な変動の可能性)を薄める(あるいは消す)ことができる。

 このとき重要なのは、相関がなるべく低い株をいっしょにもつ、ということ。だって、同じ動きをする株をもっても、ぜんぜんリスクは分散されないもん。だから株屋は、相関の低い株を目の色変えて探す。
 
 

8.3 Investment Frontier

 いまのを算数のことばでいいなおしてみよう。

 ここにAとBの2つの株がある。それぞれ rA rB で、その標準偏差は σA σB になってる。両者の相関係数はρだ。さて、この両者を半々ずつ入れたポートフォリオがあるとする。すると;

rP = rA + rB           σP 2 = σA2B2 + 2ρσAσB

 こういう関係になる。(半々でない場合については自分で考えて。要は加重平均だよ)。リターンは高いほうがうれしいし、σは低いほうがいいよね、そして相関係数は絶対に1以下なのでなんでもいいから株をたくさんもてば、とりあえずリスクは下がる。そして相関係数が低ければ低いほど、リスクも下がるってわけ。

 では、これを座標空間に落としてやろう。r とσで座標空間をつくってやると、r は二つの株の真ん中にくる。でも、σ は両者の真ん中より左のどっかにくる。
 
 
 
 

(ここにいずれ図を入れよう)
 
 
 
 

 そして、これをどんどん増やしてやろう。世の中のありとあらゆる株をぶちこんでやろう。すると、その組み合わせによってこんな感じになるはずだ。
 
 
 
 

(ここにもいずれ図を入れよう)
 
 
 
 
 

 これが Investment Frontier と呼ばれるもの。株を集めて到達できる、リスクリターンの関係の限界がここにはあるんだ。これがわかったら、個別の株なんかに投資しないよね。どんな株でも、同じリスクでリターンがもっと高い組み合わせをこのInvestment Frontier 上に見いだすことができるもんね。だから。あらゆる投資はこのInvestment Frontierで行われることになる。
 
 

8.4 CAPM

 いよいよ本丸突入。

 いままでは株だけを考えていた。でも、ここにもう一つ資産を入れよう。リスクのない(リスクフリーな)資産。これは通常は、短期の国債とかを考える。なぜ短期かとゆーと・・・・・株が短期の資産だから。

 国債は、リターンはゼロじゃない。でも、収益の変動はまったくない。お約束にしたがってお金が入ってくる。さて、こいつと Investment Frontier 上のポートフォリオのポートフォリオを考えてみよう。すると、もうきみが買いたいと思うポートフォリオは一つしかない。下の図みたいな接線上のポートフォリオだ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

そしてこの接線上をいろいろ動くことで、Investment Frontierよりさらに高いところに(つまりもっといいリスク・リターンの組み合わせ上にいけるわけ。国債ってつまり、国にお金を貸すわけね。でも、逆に借りることもできるわけだ。すると、もう可能性はどーんと広がる。

 するとここで、ちょっと変わったことが言える。要するに、もうだれも個別の株なんかもたないだろう、ということ。この地点にあるいちばんいいポートフォリオ(market portfolio)だけをもとうとするだろう。

逆にこれをひっくりかえすと、個別の株の価格変動を見て株のリスク云々というのはナンセンス。その価格変動がこの市場ポートフォリオとどれだけ連動しているか(つまりはどのくらいこの市場ポートフォリオのリスクに貢献しているか)ということでリスクは計測されるべきだ、ということになる。

では、これをグラフ化してやろう。すると、あらゆる株はこの線上にあるはずだ、ということになる。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

なぜかというとだ。あらゆる投資はさっきの市場ポートフォリオ以外では行われない以上、これ以外のところにあるわけがない、という話。つまり、あらゆる株のリターンは、次の式であらわされる。

r - rf = β( rm-rf

 そしてこの中のベータが、この株のもつリスクをすべてとらえているはずだ。

 これが CAPM。Capital Asset Pricing Modelだ。

問題: