キーワード:リスク、リターン、割引率、期待収益率、機会費用、現在価値 (PV)、NPV、IRR
そしてもちろん、払う側からすれば、同じ理屈で今払うより来年払うほうがうれしいのだ、というのもお忘れなく。
この中で、リスクと、力関係と、この先々のおつきあいを考えて、まあ平均的な妥協点として、半額前金、終わったら残り、というシステムがある、のだろう。
(たとえば公共関係の仕事で全額後金が多いのは、公共の調査プロジェクトが「報告を買う」という性格を持っているので事前には払えない、というのもある。しかし、こちらとしては「まあ公共はつぶれたりしないし、予算がとってあれば安心だ」という計算も働いているはず)
こちらとしては、同じ条件ならなるべくリスクを下げたい。しかし相手も同じことを考える。そのなかで妥協と駆け引きがおこなわれて、どっちがどのリスクを負担するかについてそれなりの合意ができる(あるいは決裂する)。これが「リスク配分」ということ。
これが投資ってやつだ。つまり、投資は投資する側とされる側の両方のニーズがあって成立するもの。どっちがか投資してやってる、とかさせてやってる、という性格のものではない(需給の関係でどっちかが強気に出て、そういうふうに見えることはあるけど)。アメリカ経済は、アメリカ国債に日本が投資してやってるから成立してるんだ、日本が引き上げたらアメリカはこける、なんてことを言う人がいるけれど、日本だってそんだけの金を引き上げたら、他に行き場がなくて日本だってこける。
ただし、投資には上に挙げたようなリスクがついてくる。それだけのリスクをしょってお金を出してあげるんだから、その分の見返りをよこしなさい。来年まで待ってやるから、イロをつけなさい、というのは人情。
これが投資の基本的な考え方。逆にいえば、イロをつけてやるからいまは我慢して投資しろ、ということでもある。その増え方を示すのが「リターン」、または「期待利回り」。
「期待」とつくのは、未来について確実なことは、われわれが歳をとって死ぬということ以外には、何一つ存在していないから。たとえ「保証つき」の郵便貯金でも、来年までに郵貯法が改正されるとか、日本が破産してたちゆかなくなるとか、預金がパアになる可能性はちょっとはある。だから、すべてのリターンは、「期待利回り」でしかありえない。たとえ銀行が「確定利回り」なんて言っていても、絶対に確定なんかしちゃいない。
しかし「リターン」は、ものによってちがう。これはなぜか?
金融ビッグバンとやらで、いろんな銀行がいろんな投資物件を提供している。ここで、手元に金があって、次の二種類の選択肢があったとしよう。
元本が保証されている場合と、保証されていない場合では、されていないほうがリスクが大きい。下手すりゃもとも子もなくなるのと、元だけは安心なのとでは、当然だよね。同じリターンなら、リスクの小さい方を選ぶだろう。考えるまでもない。
ではこんなのでは?
上はバクチだ。でも、リスクに見合っただけのリターン(期待利回り)を提供してもらえれば、 人はバクチだってするわけだ。逆に、リスクをとってもらおうと思ったら、金を出してもらうほうはそれなりのリターンを提供するしかない、ということになる。
ちなみに、ハイリスク・ハイリターンというのは、リスクが高ければ必ずリターンが高い、という意味ではないのよ。リスクだけ高くてリターンの低いところに投資するバカはいない(だろう)と言ってるだけ。現実には、リスクが高くてリターンの低いプロジェクトはたくさんあるし、そういうのに金を出すバカもそれなりにいる。
ファイナンスの世界では、投資家は全体としてrisk neutral であると仮定する。ただし個別の事情がある場合は、それを考えに入れるのを忘れてはいけない。
A: 年率20%くれるはずの元本保証なしのファンド
B: 年率5%くれるはずの元本保証のファンド
というのがあったとして、あなたとしてはリスクを見て、どっちに投資をしてもいいな、と思ったとする。Aは、いま100万円わたせば来年は120万になって戻ってくる。Bだと105万円になって戻ってくることが期待される、よね。
とゆーことはつまりだよ、次のようなことを言っているのと同じだ;
この上で、「同じ比率」といった。この比率を「割引率」という。そしてリスクの高いものほど割引率は高い、というわけ。A の割引率は20%、B の割引率は5%。通常はこれを 「r」で現す。
そして、その割引率のもとで将来の収入に対して払えるお値段を、「現在価値」とゆーのだ。まいったか。
さて、現実にはあらゆるプロジェクトはリスクもちがうし収益もちがう。しかしながら投資というのは常に将来に対してやる。だから、やってみなきゃわかんない部分は多々あるわけだ。すると個別のプロジェクトについて個別に割引率を出すのは、とってもむずかしい。
例:投資家であるきみんとこに、ある人がやってきて、ハンバーガーチェーンを始めたいから投資しろ、と言ったとする。どうやって割引率を決める? こいつがどのくらい成功するかはわからん。でも、マクドナルドとかウェンディースとか、ほかのハンバーガーチェーンを見ると、この業界が持ってるリスクはわかる。同じハンバーガーチェーンに投資するには、同じリスクをしょってるほかの事業以上に稼いでもらわないと困るよね。
そこで、「似たような他の既存事業かなんか」の割引率を見て、そのくらいは出してよ、ということでそれをそのプロジェクトの割引率として使うことが多い。このハンバーガーチェーンに投資するというのは、他のハンバーガーチェーンに投資する機会を犠牲にすることになる。だからこれは「機会費用」というのだ。機会費用xx%だ、というふうに。「割引率」「期待収益率」「機会費用」は、すべてちょっとちがうけど、まあだいたい同じことを言ってるんだ、と理解しといて。
では同じファンド A と B が「一定額を預けてくれたら、10年後に100万円支払います」と言ってきた。いくら払う?(つまりそういうキャッシュフローの現在価値はいくら?)
同じ連中が、「今一定額をくれたら、これから10年にわたって毎年10万ずつ払う」と言った。いま、いくら出す?(つまりそういうキャッシュフローの現在価値はいくら?)
同じ連中が、「いま一定額をくれたら、これから永遠に毎年 x(たとえば10万円)ずつ払う」と言ってきた。いくら出す?(つまりそういうキャッシュフローの現在価値はいくら?)
永遠に毎年x = 10万払う、という条件は変わらないものの、今後年率 g = -3%で円の価値が目減りする(つまりインフレがくる)、とあなたは見込んでいる。この場合、いくら出す?
例:A (r=20%) とB (r=10%) とC(r=5%)がそれぞれ、「いま100万くれればこの先永遠に毎年10万円払います」と言ったとしよう。それぞれのプロジェクトの正味現在価値は?
この際に、「懐から出る金はマイナス、入る金はプラス」というのを常に頭においといて。するとそれぞれ、0年目は-100で、1年目以降はずっと+10万になるわけだ。
1年目以降の+10万円の現在価値は上で求めた。A の場合なら、10万/0.2 = 50万、Bなら10万/0.1 = 100万、Bなら10万/0.05 = 200万。これに対して、0年目に-100万がくる。すると:
たったいま、われわれはNPVにもとづいて投資判断を行った。これでファイナンスのいちばん要の部分は終わってしまったわけ。あとは、それぞれのプロジェクトのNPVをどう計算するか、というのをひたすら見てやるだけ、なのだ。だから、いままでの話はもう一回みておいて。他人に説明できるようにしておいて。
そこでよく使われるのが、「内部収益率」、IRRというヤツ。これは、いまの投資額と将来のキャッシュフローがあったとき、そのNPVをゼロにするようなrはいくつか、という話。
例:「いま100万くれればこの先永遠に毎年10万円払います」と言ったとしよう。このプロジェクトの IRR は?
上の例をやったとき、r=10%でNPV=0になってた。だからこのプロジェクトのIRRは10%。これは、ふつうは人手で計算するもんじゃないので、表計算のIRR関数を使っておくれ。
10年満期の定期預金があって100万預けた。利率6%(一月複利)なら、毎年のキャッシュフローを示せ。
500万円の車を買うとき、頭金20%、年利6%(一月複利)、元利均等48ヶ月払いなら、月々のお支払いはいくら?
では、この両者のキャッシュフローのIRRはおいくつ?
さて、これを見ると、IRRの高いところが儲かるんだな、という感じがする。だったらこれを見て投資を決めればいいんじゃない?
うん、そういう面もある。世銀とかでは、「この手のプロジェクトはIRR 20% 以上じゃないと金出さないよー」というようなことをよく言う。似たようなリスクのプロジェクトなら、これは判断基準にはなる。ただし気をつけなきゃいけないのは、これを無差別に適用すること。たとえば次の2つのプロジェクトがある。
例:「東京の土地が値下がりして、いまは収益性があがっている。IRRが、日本の国債よりも高くなっている。これを『ポジティブキャリー』といって、これを根拠に香港資本が日本の土地に投資するようになる」
さて、この議論はまともだろうか? 土地と国債とのIRRを直接比較して意味があると思うか? もしホントに香港資本がそんなことをしてるんなら、香港人はXXだ。(ちなみにこれは実例なのだ。実際にこういうことをレポートに書いた人がいるのだ!)
あと、IRRは n 次方程式をとくわけだから、解が複数出てくる場合があるんだが・・・まあこいつはあまり大きな問題ではない。
2) 定期預金にすると、その期間はそのお金は使えないわけだ。万が一、手元不如意になったときに、お金はあるのにそれを動かせないというリスクが出てくる。流動性リスクって言うんだよ。期間が長ければながいほど、何が起きるかわからないから、こっちがしょいこむリスクも増えるわけ。それでその分金利が高い。
3) 「うるせー、こちとら慈善でやってるんじゃねーんだ、そんな大事なら、テメーが貸してやったらどうでえ!」 もちろん、これを口に出さないくらいの処世術は必要。でも、ここで書いたような話は事実だし、それは何らかの形で実現しなきゃなんない。ただし、それはファイナンスの枠組み以外のところで処理する話なので、ここではおいておく。