経済学でのゲーム理論

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Game tree from A. Rubinstein, 1991, Econometrica

 ゲーム理論は最近になって、経済学を検討する伝統的な手法に対する強力な対抗馬として台頭してきた。多くの有名な先人たちも、「ゲーム理論」と呼べる形で各種問題に取り組んでは来たけれど、経済理論の一部であり一分野としての、根本的で定式化された形のゲーム理論は、ジョン・フォン・ ノイマン (John von Neumann) とオスカール・モルゲンシュテルン (Oskar Morgenstern) の 1944 年の古典『ゲームの理論と経済行動』(Theory of Games and Economic Behavior, 1944)に始まる。

 ゲーム理論の主目的は、エージェントたちが意志決定を、外生的な価格(動かない変数)への反応として行うのではなく、他のエージェントの行動(生きた変数)への戦略的な反応として意志決定を行う状況を考えることだった。エージェントは、自分が選べる手番の集合を与えられて、置かれた環境に対する一番いい戦略を考案して、それにしたがって動く。戦略は「純粋」(つまり特定の動きをする)であってもいいし、「混合」(ランダムな動き)であってもいい。各エージェントの行動が他のエージェントに反応を引き起こし、それが最初と同じ最初の一手をもたらすなら、「ナッシュ均衡」が実現される。つまり、すべてのプレーヤーの最適な反応が、お互いに調和したものになっているということだ。

 ゲーム理論はおおむね、二つの広い分野に分けられる。非協力(あるいは戦略的な)ゲーム、そして協力(または結託) ゲーム。これらの用語の意味は見ればわかると思うけれど、ジョン・ナッシュ (John Nash) はすべての協力ゲームはいくつかの非協力ゲームに分解できるはずだと主張している。この立場は「ナッシュ・プログラム」として知られている。非協力ゲームの文献の中では、「標準 (normal)」形ゲーム(静的)と「展開 (extensive)」形ゲーム(動的)を区別することもある。

 ジョン・フォン・ ノイマンとオスカール・モルゲンシュテルン (1944) は、標準形ゲーム、展開形ゲーム、純粋/混合戦略や提携形ゲームの概念を導入すると同時に、不確実性のもとでの経済学でも実に有用だった、期待効用理論の公理化を行った。二人はジョン・フォン・ ノイマン (1928) が単純なゼロ和標準形ゲームを解決するのに開発した、「マックスミニ」解の概念を採用している。

 1950 年にジョン・ナッシュ (John Nash) が「ナッシュ均衡 (NE)」の概念を導入した。これはゲーム理論をまとめる概念となった――ただしこの概念そのものは、実はクルノー (1838) にまでさかのぼるのだけれど。ナッシュは 1951 年にその続きを発表し、提携形(結託の)ゲームにおける「ナッシュ交渉解 (Nash Bargaining Solution, NBS) 」の概念を提唱した。

 そしてナッシュ均衡の精緻化に向けて、怒濤のように研究があらわれた。非協力ゲームの分野では、R. Duncan Luceと Howard Raiffa (1957) がゲーム理論に関する初の一般向け教科書を提供し、その中で標準形ゲームにおける「支配戦略の逐次消去(Iterated Elimination of Dominated Strategies ,IEDS)」の考え方を定式化し、「繰り返しゲーム」(何回か繰り返して行われる静的ゲーム)の概念を導入した。H.W. クーン (H.W. Kuhn) (1953) は、「不完全な情報」を持った展開形ゲーム(つまり相手がどんな動きをしたかがわからないゲーム)を導入した。ウィリアム・ヴィックリー (William Vickery) (1961) は、「オークション」の初の定式化を提供。ラインハルト・ゼルテン (Reinhard Selten) (1965) は、展開形ゲームの精緻化された解として「部分ゲーム完全均衡」(SPE) の概念(つまり「後ろ向きの帰納法(backward induction)」による排除)を開発した。ジョン・C・ハーサニ (John C. Harsanyi) (1967-8) はベイジアンゲーム(不完備情報ゲーム、つまり手番に不確実性があったり、「自然 (nature)」もからんでくるもの)のために、「ベイジアンナッシュ均衡」(BNE) を開発した。

 提携形(co-operative 協力) ゲームでは、さらに細分化が進んだ。ロイド・シャープレー (1953) は結託形ゲームへの解として「シャープレイ値 (Shapley Value)」と「コア (Core)」 の概念を導入した (これはもともと F.Y. エッジワース (1881) が考案したものだ)。1960 年代初期を通じて、ロバート・J・オーマンとマーチン・シュービックは提携形ゲーム理論を経済学の縦横に適用しはじめた (たとえば労働組織、一般均衡、金融理論など)。そしてその過程で、結託形ゲームにおける解のコンセプト (e.g. 交渉集合 (Bargaining Set), 強均衡 (Strong Equilibrium)) やプレーヤー数無限大の "large games," 「フォーク定理 (Folk Theorems)」 (繰り返しゲームの解の概念) の初期の記述なんかを考案している。デヴィッド・シュマイドラー (1969) は、結託形ゲームにおける「仁 (Nucleolus)」解を考案した。

 1970 年代にはさらに発展があった。ジョン・C・ハーサニ (1973) は「混合戦略 (mixed strategy)」の概念について驚くほど洞察に満ちた新解釈を提供した。ロバート・J・オーマン (1974) は、ベイジアンゲームでの「相関均衡(Correlated Equilibrium)」を定義したし、ラインハルト・ゼルテン (1975) はベイジアンゲームでの "Trembling Hand Equilibrium" を導入した。他にもいろいろ定義があった。ロバート・J・オーマン (1976) は「共有知識(Common Knowledge)」の概念を定式化して定義づけ、これを皮切りに洪水のように論文が出てきたし、また B.D. バーンハイム と D.G. ピアース (1984) は「合理化可能性 (rationalizability)」の概念を定式化している。

 進歩は急激に進んだ。デヴィッド・M・クレプス (David M. Kreps) とロバート・ウィルソン (Robert Wilson) (1982) は不完全情報を持つ展開形ゲームについての「逐次均衡 (Sequential Equilibrium,SEQE)」 概念を導入。アリエル・ルビンスタイン (Ariel Rubinstein, 1982) はフレデリク・ソイテン (Frederik Zeuthen) (1930) による初期の洞察にしたがって、協力ゲームのナッシュ交渉解 (Bargaining Solution) (NBS) を継続的交渉による非協力ゲームの展開形ゲームに導入した。イーロン・コールバーグ とジャン=フランソワ・メルテン (1986) は、展開形ゲームにおける「前向きの帰納法」という概念を開発。ドリュー・フューデンバーグと E.S. マスキン (1986) は、無限繰り返しゲームにおける「完全フォーク定理 (Perfect Folk Theorems)」の比較的有名なやつを考案。最後に J.C.ハーサニ と R.ゼルテン (1988) はあらゆるゲームについての「均衡選択 (equilibrium selection)」という概念を導入し、一方でD. フューデンバーグ とジャン・ティロール (1991) は展開形ベイジアンゲームにおける「完全ベイジアン均衡(Bayesian Perfect Equilibrium, BPE)」を開発した。

 進化的ゲーム理論は、ちょっと遅れて発達した。その目的は非協力ゲーム理論の概念を使って、通常は協力行動や人間の設計によると思われている現象を説明することだ。たとえば市場形成や価格メカニズム、社会行動規範、お金やクレジット、といった「制度」や「慣習」など。進化論的ゲーム理論を最初期に研究したのは、トマス・C・シェリング (Thomas C. Schelling) (1960, 1981) で、一見すると協力的な社会制度(この場合は紛争の調停)が基本的には罰則と報復の「脅し」によって維持されているのだ、というのがその主張だ。これは1990年代にはいって、かなり後続研究が進んでいる。

 ゲーム理論の主要な立役者数名には、ノーベル賞が授与されている。1994年のノーベル賞は、ジョン・ナッシュ、J.C.ハーサニ、R. ゼルテンの共同受賞だったし、1996年はウィリアム・ヴィックリーとジェイムズ・マーリースに与えられた。ハーバート・サイモンは1979年に、その後(進化論的)ゲーム理論の母体に取り込まれた概念(たとえばbounded rationality 限定合理性) のためにノーベル賞をもらっている。

先人たち

先駆者たち

ゲーム理論の現代世代

進化的ゲーム

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