お金へのスコットランド的アプローチ

Reymerswaele's Banker
目次に戻る 原ページ
Google
WWW 検索 cruel.org 検索

スコットランドは、二つの偉大な競合するお金の理論を生み出したという変な名誉を持っている。その理論とは、「真手形 (real bill)」ドクトリンと「貨幣数量説」ドクトリンだ。

「真手形 (real bill)」ドクトリン創始者は、スコットランド出身でフランスに転身したジョン・ロー (1705) で、これをさらに発展させたのもこれまたスコットランド人二人組、ジェームズ・ステュアート卿 (1767) とアダム・スミス (1776)だ。でも、貨幣数量説のまともな議論も、これまたスコットランド人であるデビッド・ヒューム (1752) が述べている。どっちの理論も、1800年代初期の金塊主義論争で、イギリスを舞台に熾烈な闘いを繰り広げた。

デビッド・ヒュームは冒頭の引用にもあるように、お金の中立性について有名な「機械のオイル」として描写してみせた。そしてお金の供給と価格の有名な数量説的関係をとてもはっきりと述べた:

「(金や銀の)補填はすべて、労働や商品の値段を上げる以外に何の影響も持たない。そしてこの(値段の)変動さえ、名前以上のものではない。(中略)お金はもっぱら架空の価値しか持っていないから、それが多かろうと少なかろうと、国としての中身そのものを考えればほとんど何の影響もない」

(D. Hume , "Of Interest", 1752, Essays, p.296-7)

もちろんヒュームの発想はもっと昔に遡る。お金と価格の直接的な「数量説」的関係を最初に導入したのはジャン・ボーダンで、理論としてもまとめたのはジョン・ロックだ。でも大半の重商主義者はお金を富と同一視した。だからデビッド・ヒュームがお金は「ヴェール」だなんて断固として主張したことは、かれの重商主義打倒の闘いの中で考えるべきだろう。

アダム・スミスは部分的にはヒュームと同意しているようだ。たとえばかれはこう書いている;

「ある国の中で循環する金や銀は、きわめて正当にも高速道路と比べることができる。それは市場にその国のあらゆる作物や穀物を運んで循環させるけれど、それ自体はどっちもまったく生み出さない」

(A. スミス, 『国富論』, 1776: p.321)

だからヒュームとスミスのどちらも、お金は「リアル」な経済(実物経済)に対しては効率性を改善する以上の直接的な影響を持たないと考えていた。「なぜお金があるのか」に対して両者は、効率性を見ていたわけだ。

でもアダム・スミスは、お金の理論の中で得意な部分を二つ残していて、これがデビッド・ヒュームとも古典派理論家ともちがうところだ。まずスミスは、お金が分業を促進する、ということも同時に論じている (1776: p.37-8)。でも分業はスミスの理論だと、リアル(実質)の産出成長を改善する。だからスミスのお金に関する発想には、ある程度の「非中立性」があるんだと主張することもできる。スミスが繰り返しお金について「資本のきわめて価値の高い一部」としつつも、それが「社会の収入にはまったく貢献しない」 (Smith, 1776: p.291) としているのは、「ヴェール」の概念についての曖昧な態度をよく表しているだろう。

第二に、すでに述べたように、スミスは「真手形 (Real Bills)」ドクトリンの支持者でもあり、このためにスミスの理論はヒュームや古典派経済学者とはかなりちがったものとなっていて、むしろ古典派以前の古い理論家、たとえばダヴァンザティやジョン・ロー、ジェイムズ・ステュアート卿に近くなっている。「真手形 (Real Bills)」理論は要するに、お金の供給は(ヒュームが考えたように)「外生的」ではなく、むしろ「内生的」なのだ、ということだ。銀行は「取引の必要」に応じてお金を「創る」。だからある意味で、スミスはお金の供給が高い価格につながるとは考えていなかった。「真手形 (Real Bills)」ドクトリンによれば、そもそもお金の供給は外生的に増やしたりできないものだったからだ。

エリザベス朝インフレは、ヒュームとスミスでは説明がちがっただろうと予想できる。ヒュームなら、アメリカからの黄金の流入がインフレを「引きおこした」と主張するだろうけれど、スミスならヨーロッパにおける取引のニーズが高まったために財の需要が高まり、その結果インフレが起きたのだ――そしてこの大量の取引を行うための貴金属の「ニーズ」が結果として黄金の輸入とお金の供給の拡大を「引きおこしたのだ」と主張するだろう(スミスは自分でははっきりこういう主張はしていないけれど、他の「真手形 (Real Bills)」ドクトリン支持者はまさにこう論じている――というのも他に議論のしようがないから。金塊主義論争のページを見てね)。

戻る (お金という問題) ページのてっぺん 次 (金塊主義論争)
その次 (お金の古典理論)

ホーム 学者一覧 (ABC) 学派あれこれ 参考文献 原サイト (英語)
連絡先 学者一覧 (50音) トピック解説 リンク フレーム版

免責条項© 2002-2004 Gonçalo L. Fonseca, Leanne Ussher, 山形浩生