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新古典派

- はじめに -


「以下のページで、私は二十年にわたる思索の結果を公の判断に供出するものである。コペルニクスが空間内の世界における関係について首尾良く説明したことを、私は自分がこの世の人々についての説明で実現したものと信じている。」
(ヘルマン・ハインリッヒ・ゴッセン, Development of the Laws of Exchange among Men1854: p.1)


目次


(A) 限界革命の主役たち

 「限界革命」というのは、後に「新古典派」の経済理論と呼ばれるようになったアプローチの成立を指す。この革命の成立時期は、一般に 1871-74 年とされる。これはウィリアム・スタンリー・ジェヴォンズ、カール・メンガー、レオン・ワルラスが、需要の特徴を表すのに「限界効用の逓減」を導入した年だ――「限界主義」という呼び名はここからくる。

 これは新古典派価値理論の基盤となった。そしてこれは、やがてアダム・スミス、デビッド・リカード、ジョン・スチュアート・ミル、カール・マルクスの「古典派」理論に取って代わることになる。だが、新古典派理論が経済学での支配的な見方になるまでには、かなり時間がかかった。それはだいたい、次の三段階で起きたと考えられる:

  1. 1871-74 年: 交換理論の基盤として「限界効用の逓減」という概念を使う――これはウィリアム・スタンリー・ジェヴォンズ、カール・メンガー、レオン・ワルラスが独立に始めた。
  2. 1890-1894 年: ジョン・ベイツ・クラーク、フィリップ・H・ ウィックスティード、クヌート・ヴィクセルによる「分配の限界生産性理論」確立。
  3. 1934-1947 年: 「パレート復興」の時代。これは序数的効用が導入され、新古典派の価値理論――そしてその厚生面の意味合い――が固まった時代だ。これにより、一時停滞していた新古典派は復活した。ここでの重要な人物はジョン・ヒックス、ハロルド・ホテリング、オスカール・ランゲ、モーリス・ アレー、ポール・サミュエルソンだ。

 つまり、1871-74 年の時期は単に「限界主義者の蜂起」くらいで、「革命」自体はその後半世紀ほどかけて展開したと見られる。全体像をざっとつかんでもらうために、限界革命の主人公たちによる主な貢献をいかに年表で示そう:

原=限界主義者たち

人物国/生年著作
1838 アントワーヌ・オーギュスタン・クルノー (仏, b. 1801) Recherches sur les principes mathématiques de la théories des richesses
(『富の理論の数学的原理に関する研究』)
1844 ジュール・J・デュピュイ (仏, b. 1804) De la mesure de l'utilité des travaux publics (『公共工事の効用計測について』)
1850 ヨハン・H・フォン=チューネン (独, b.1783) Des isolierte Staat, Vol. II (『孤立国』)
1854 H・ハインリッヒ・ゴッセン (独, b.1810) Entwicklung der Gesetze des menschlichen Verkerhs (『人間交易論』)

革命家たち

人物国/生年著作
1871 ウィリアム・スタンリー・ジェヴォンズ (英, b. 1835) Theory of Political Economy
1871 カール・メンガー (オーストリア, b.1840) Grundsätze der Volkwirtschatslehre
1874 レオン・ワルラス (仏, b.1834) Eléments d'économie politique pure

まとめ役

人物国/生年著作
1886 オイゲン・フォン・ベーム=バヴェルク (Austrian, b.1851) Grunzüge der Theorie des wirtschaftlichen Güterwerthers.
1889 フリードリッヒ・フォン・ヴィーゼル (Austrian, b.1851) Der naturliche Wert.
1890 アルフレッド・マーシャル (英, b.1842) Principles of Economics
1891 ジョン・ベイツ・クラーク (米, b.1847) "Distribution as Determined by a Law of Rent" (1891, QJE)
1892 アーヴィング・フィッシャー (米, b.1867) Mathematical Investigations in the Theory of Value and Prices
1893 クヌート・ヴィクセル (スウェーデン, b.1851) Über Wert, Kapital und Rente
1894 フィリップ・H・ウィックスティード (英, b.1844) Co-ordination of the Laws of Distribution
1896 ヴィルフレート・パレート (伊, b.1848) Cours d'économie politique
1896 エンリコ・バローネ (伊, b.1859) Studi sulla distribuzione.

復興派

人物国/生年著作
1934& 1939 ジョン・ヒックス (英, b.1904) "A Reconsideration of the Theory of Value" (with R.G.D. Allen, 1934 Economica); Value and Capital (1939)
1938 ハロルド・ホテリング (米, b.1895) "The General Welfare in Relation to Problems of Taxation and of Railway and Utility Rates", Econometrica
1942 オスカール・ランゲ (ポーランド, b.1904) "The Foundations of Welfare Economics", Econometrica
1943 モーリス・アレー (仏, b.1911) A la recherche d'une discipline economique
1947 ポール・A・サミュエルソン (米, b.1915) Foundations of Economic Analysis

 この記述はいろいろ文句をつける余地はあるけれど、中心となる新古典派価値理論への貢献だけを厳しく考えようとした結果が上だ。だから、ベーム=バヴェルクは、もっと有名な 資本の理論ではなく、1886 年の価値に関する論文を挙げている。資本の理論は主流派には影響していないからだ。フランシス・イジドロ・エッジワース (イギリス, b.1845) は、特に1881 年の『数理心理学』(Mathematical Psychics) など、重要で独創的な貢献も多いのに、ここに挙がっていないのは奇妙に思えるが、限界主義革命の「まとめ役」と呼ぶには特殊すぎるし、標準的な新古典派理論から離れすぎているのが理由だ。もう一人、出てきてもよさそうなのはグスタフ・カッセル (スウェーデン, b.1866) で、確かに 1918 年『社会経済理論』(Theory of Social Economy) は新古典派理論の復活に重要な役割を果たしたが、かれは効用理論を丸ごと捨て去ることにしたため、ここには含めなかった。

 当然ながら、名前を挙げてもいい貢献をしている人は他にもたくさんいるけれど、ぼくたちが見る限り、これが新古典派の価値理論において、もっとも重要で独創的で影響力の高い人々や著作だ。

(B) 新古典派の価値理論:基本要素

 名前こそ「限界」だが、限界革命の本質というのは、「限界」という数学的概念ではなく、生産や分配よりも「取引」という現象に基づく価値理論の構築だった。ウィリアム・F・ロイドは経済学というのを「カタラクティクス」――「取引の科学」――と定義したが、これは限界主義者の狙いをうまく表している。そしてそれは新古典派主義というもの核心でもある。

 つまり限界革命の本質とは、財の「自然な価値」というのが、その主観的な希少性だけで決まる、という目新しい発想だった。つまり、その財に対する人々の欲望が、その供給量をどれだけ上回るかということだ。新古典派の議論というのを図式的に述べると、均衡の価格と量が、その財の需要と供給により同時に決まる、ということになる。新古典派の価値理論を基本的に特徴づける原理というのは、以下の点にまとめられる:

  1. 以下の「データ」が想定または所与となる:選好、与えられたもの、技術(関係あれば、事前の期待もここに加わる)
  2. 与えられたものは固定なので、問題となるのはその与えられたものの配分だ。
  3. 自由市場経済における配分は、個人同士の自発的な取引で生じる。
  4. 競争経済では、自発的な取引は価格が仲介するプロセスを通じて起こる (つまり人々は価格が「与えられたもの」として、価格に影響を与えられないものとして意志決定をする)。
  5. 個人の需要曲線は、財同士の代替 原理があるので右肩下がりとなる。
  6. 個人の供給曲線は、費用増大(逓増)の原理があるので右肩上がりとなる。ここで費用というのは、通常は「機会費用」のことだ。
  7. 需要の法則は、市場全体での財の需要は右肩下がりだと述べる。
  8. 供給の法則は、市場全体の財の供給は右肩上がりだと述べる。
  9. 財の均衡価格は、その財に対する需要量と供給量が等しくなるところで決まる。
  10. 希少性の原理によれば、財に価格が着くのはそれが希少なときだけ、つまり提供されている量よりも需要される量のほうが多い場合だけだ。だからある財が希少かどうかは主観的な話であって、客観的ではない。
  11. 転嫁の原理によれば、要素には内在的な価値は内。ある要素に対する需要は、それが創り出す商品の需要から派生するもので、その際にはそれを生産する最小費用の技術が使われる。

 この11項目は、新古典派「限界革命」の主要メッセージをほぼとらえている。

 他に「新古典派」と呼ばれるようになったものもある。たとえば 貨幣数量説セイの法則だ。でもこれらは新古典派特有のものとはいえない。そもそもこれを開発したのは古典派経済学者 (スミス、リカード、ミル等) でかれらも使っているものだし、それに新古典派経済学者が全員これを支持しているわけでもない (たとえばヴィクセル)。

 また数学的な説明が限界革命の特徴だと言われることもある。でもこれは正しくない。一部の限界主義者たち (e.g. ワルラスウィックスティード) は空前の数学を動員したけれど、他の人 (e.g. メンガー, クラーク) は数学を全然知らず、まるで使っていない。

 もう一つ、新古典派理論の動学は一切無視していることにも注意。均衡がどのように生じるかとか、その体系がどう発達するか、といった話はまったくしていない。ここでも、新古典派の思想家たちの考えは様々だ。たとえばワルラスメンガーマーシャルは、均衡からずれたときに価格と量がどう調整されるかについて、かなり相容れない考え方をしていた。さらに一部の新古典派 (たとえばマーシャル) は、均衡というのが系のいずれ到達する到達点なのだと論じたけれど、他の人々 (たとえばフィッシャー) は均衡そのものが時間を通じて(「時間をまたがる形で」)決められてくると論じた。また別の人々 (たとえばワルラス) は均衡が時間を通じて一定となる安定状態として定義されるべきだと論じたが、他の人々 (たとえばまたもワルラス) は、均衡が単に一時的な短期のものでしかなく、時間がたつにつれて、それはちがう均衡点のシーケンスになるのだと論じた。だから新古典派体系の動的な面は、限界革命の主人公たちの間でもまるで合意がない。

(C) 新古典派の学派

 「新古典派」の経済学アプローチは、つまり、単一の大きなしっかり決まった理論ではなく、むしろ各種アプローチの集まりと見なせる——そのどれも、上に述べた中核となる12 の論点は共有しつつ、マクロ経済、お金、同額、数学など多くの点ではかなりのちがいがある。新古典派主義はつまり、学派の集まりだ。以下は主要な新古典学派と、その地理的、時代的な中心の一覧だ。これが必ずしも一般に認められた分類ではないことには注意してほしい。

学派場所と時期
オーストリア学派 オーストリア, 1870年代〜1930年代
アメリカ, 1970年代〜現在
ローザンヌ学派 (ワルラス派) スイス、フランス、イタリア, 1870年代〜1890年代;
ウィーンで再興, 1930年代
ローザンヌ学派 (パレート派) イタリア, 1900-1920
全世界 (特に LSE, シカゴ, ハーバード, フランス), 1930年代〜1940年代
ケンブリッジ学派 (マーシャル派) イギリス, 1890年代〜1930年代
ストックホルム学派 スウェーデン, 1920年代〜1930年代
シカゴ学派 アメリカ、バージョン I (各種学派の折衷), 1920年代〜1940年代
バージョン II (もっと独自性ある学派, e.g. マネタリスト, ニュークラシカル),1960年代〜1980年代
新ワルラス学派 全世界 (特に コウルズ財団), 1950年代〜1980年代

 もちろん、新古典派についての独自のビジョンを持った巨人も何人かいる。そういう人々は、上に挙げた学派の中には容易に収まらない一方で、自分なりの明確な派閥を形成するまでに至らなかった。たとえばウィリアム・スタンリー・ジェヴォンズ、フィリップ・H・ウィックスティード、フランシス・イジドロ・エッジワース、アーヴィング・フィッシャー、ジョン・ベイツ・クラークなどだ。こうした人々は、普通の「新古典派」に入れておいてもいいのだけれど、ここでは便宜的に「英米限界主義者」としてまとめてある。


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