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時差ぼけにはバイアグラ!(ただし片道のみ)

(The Economist Vol 383, No. 8530 (2007-05-26), "Mile-high hamsters," p. 84)

意外な時差ぼけ解消薬。

  多くの男性なら証言してくれるだろうが、バイアグラは血管を取り巻く筋肉を通常より長く弛緩させておく。結果として、血管は膨張したままとなり、血も流れ続けて、某器官も硬さを保ってくれるわけでございます。バイアグラは、ホスホジエステラーザという酵素を阻害する。この酵素は環状 GMP という物質を取り除いてしまう。この環状 GMP が最終的に、筋肉に緊張するなと伝えているわけだ。

  これはこれで結構な話ではある。だが環状 GMP は万能生化学ツールでもある。たとえば、交差視神経上部核にある細胞でも利用されているが、この脳細胞は体内時計として機能しているところだ。一部は一日 24.5 時間の自然な体内リズムを形成する(だから暗い部屋に人をとじこめておくと、実際の一日とは周期がずれてくる)。また一部は、目から入ってきた明暗の周期にあわせて体内リズムを補正する。

  ブエノスアイレスのキルメス国立大学のディエゴ・ゴロンベクらは、バイアグラと概日周期との生化学的な結びつきに気がついた。かれらはすでに、環状GMPを完全に阻害すると、ネズミが体内時計を時間帯変化に適応させなくなることを示していた。東に向かって飛んだ場合と同じように昼間を前に進めてみると、環状GMPは体内時計の調整に不可欠だ。でも西側に飛んだ場合と同じく昼間を遅らせてて見ると、環状GMPがなくても体内時計は調整される。

  この発見をもとに、ゴロンベク博士たちは実験ハムスターにバイアグラを与えることにした。環状GMPが概日体内時計を補正する役にたつのであれば、その物質水準を変えれば補正速度も変わるだろうと思ったからだ。そして Proceedings of the National Academy of Sciences にかれらが発表した論文によれば、確かに変わる。

  ハムスターは、回転車に入って運動を始める時間がとても正確なことで知られる。毎日、暗くなってから五分以内にかれらは運動を始める。そのハムスターをシカゴからロンドンに空輸すると、補正はゆっくりしか行われない(人間と同じだ)。運動のスケジュールも少しずつ変化して、何日かたってからやっとロンドンで暗くなって五分以内に運動を開始するようになる。そしてその後はずっとそのスケジュールが続く。

  ゴロンベク博士たちは実験ハムスターの時間帯を、まさにシカゴとロンドンの時差分だけ(つまり六時間)変化させて、その日にバイアグラを注射した。一部のハムスターは勃起するくらいの量を注射されたが、適応までに 6 日かかった。それより少量の注射を受けたハムスターは 8 日かかった。何も注射を受けないハムスターは 12 日かかった。

  この結果に基づけば――人間がハムスターと同じ行動を示すとすればだが――青いピルをのめば、アメリカからヨーロッパ、またはヨーロッパからアジアに旅する重役たちの時差ぼけ解消に役立つということだ。男性は量を半錠におさえておけば、アッチのほうの副作用もなくてすむ。そして女性は、そっちの心配はせずに一錠まるごとどうぞ。


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