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スターバックス VS エチオピア

(The Economist Vol 381, No. 8506 (2006/12/02), "Storm in a Coffee Cuo" pp. 72-3) Ciel mon samedi !
Photo by ShelbieMyLove


山形浩生訳 (hiyori13@alum.mit.edu)

スターバックスは、エチオピアのコーヒー豆商標をめぐって交戦中なのだ。

  コーヒー好きの人々は、しだいに朝のグランデ・スキニー・ラテを苦い社会的不正の追加ショットなしで飲みたいと思うようになっている。大成功をおさめている「フェアトレード」ブランドは、コーヒー中毒者たちに良心の呵責なくコーヒーを飲めるようにしてくれる。このコーヒーを作る中で、収奪された農民はいないのだと思えるからだ。コーヒーは、倫理的消費者かどうかを計る試験場となっている。世界的コーヒーチェーンのスターバックスとしても、社会的責任ある企業を誇る以上、開発慈善団体オックスファムからの批判に火傷したバリスタのような大規模な反撃をしたのは無理もないことだ。

  オックスファムに言わせると、スターバックスはエチオピア政府が地元のコーヒー豆三種類を商標化しようとするのに反対することで、エチオピア農民から年 9,000 万ドルを収奪しているのだそうな。少なくとも七万人の消費者がスターバックスの連絡して苦情を申し立てたので、同社はコーヒー店に置いたちらしで自分たちの立場を擁護している。そしてオックスファムが「人々に誤解を与えている」と非難し、そんなキャンペーンはやめてくれと言っている。

  今週、オックスフォード大学サイードビジネススクールのダグラス・ホルトは、この事件とナイキを倫理的な標的に仕立てたサプライチェーンの問題とを並べて論じている。「アジアの労働者たちが奴隷労働にも等しい労働条件で作ったエア・ジョーダンが 120 ドルで売られていることに消費者たちは嫌悪をおぼえたが、同じように消費者たちは、スターバックスが一ポンド 26 ドルでコーヒーを売っているのにその生産者たちに悲惨な貧困から抜け出す機会を拒絶しているということを不快に思うだろう」とかれは語った。11 月 28 日には、スターバックスの代表役員ジム・ドナルドがエチオピア首相メレス・ゼナウィと会談したが、合意には達しなかった。

  スターバックスが倫理的消費の支持者たちと対立したのはこれが初めてではない。スターバックスは、フェアトレード・ブランドのコーヒーを大量に販売しているが――フェアトレードのコーヒー豆を北米で最も多く買っているのはスターバックスだという――こうしたフェアトレード支持者たちのお墨付きなしのコーヒー豆もたくさん買っている。その理由の一部は、こういう人々が世界の各地で適用する基準を同社が疑問視しているということだ。同社は、市場価格より高い値段を農民たちに支払うというフェアトレードの戦略が、貧困削減にいちばんいい手法かどうかという点すら疑問視している。スターバックス自身は、CAFE (Coffee and Farmer Equity) という手法を好んでいる。これは技術支援とマイクロファイナンスの混合によってコーヒー農家を支援する手法だ。

  スターバックスは、エチオピア政府に反対するコーヒー産業ロビイストの裏で糸を引いているという点は否定している。でも、コーヒー豆に商標をつけると、法律上の複雑さが増して企業が商標つきの豆を買わなくなり、農民たちを助けるどころかかえって状況を悪くすると論じている。同社としてはむしろ、フランスのワイン農家がやっている appellation contrôlée 方式のような地域レベルでの認証方式のほうを推奨している。そのほうが法的な問題も起きないし、豆も一貫性を持ってブランド化できるという。このほうが納得できる話だ。

  だいたい、エチオピア政府がコーヒー農家に起業家精神を持たせようとして妨害を受けているなどというホルト氏の主張は噴き飯ものだ。エチオピア政府は、ワシントンDCにある一流弁護士事務所アーノルド&ポーターに助言を受けている。むしろその弁護士たちには、事業のやりやすい法体系を構築してもらい、ちゃんとした財産権も確立して、エチオピア農民たちが自助努力で貧困脱出できるようにしたほうがいいだろう。エチオピアは世界銀行の最新の「事業のしやすさ」指標では 97 位、トランスペランシー・インターナショナルによる汚職感調査ではどうしようもない 130 位だ。一部の人は、この商標の話も単に政府が歳入を増やしたいだけで、コーヒー農家には何も行かないのではないかと怪しんでいる。

  オックスファムの関与について言えば、この戦いの展開はなかなか興味深い。スターバックスの顧客には忠実なファンも多いから、スターバックス側の言い分も聞いてもらえるはずだ。この戦いが企業倫理を巡る戦いにおける転換点となり、圧力団体が単に企業についてネガティブキャンペーンをやるだけではそのイメージが左右されないようになるかもしれないと望むのはあまりに楽観的だろうか。もしそれが起きてくれたら、The Economist はグランデ・エクストラウェット・トリプル・ラテで乾杯いたしますぞ。


解説

 すばらしい。スターバックス、がんばれ。連中がここまできちんと考えているとは知らなかった。


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