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「買い物かごで投票?」 よりフェアトレードの部分を抜粋

(The Economist Vol 381, No. 8507 (2006/12/09), "Voting with your trolley" p. 69)

山形浩生訳 (hiyori13@alum.mit.edu)

フェアトレード製品は問題を悪化させるし、まずいし、そもそも本来の目的を果たしていない。

(有機食品の部分は割愛)

  じゃあフェアトレードはどうだろう。「フェアトレード」商標ラベルを認証発行する FLO インターナショナル (Fairtrade Labelling Organizations International) のウェブサイトによれば「伝統的な市場がどんなに不公正なときでも」生産者が公正な価格を受け取れるように保証することで「低価格の不正」を是正するのがフェアトレードの狙いだ。これは要するに、ある一定の労働と生産基準さえ満たせば、市場価格より高い「フェアトレード」価格を産物に対して支払うということだ。たとえばコーヒーの場合、フェアトレードの農民たちは最低でもコーヒー豆一ポンドあたり $1.26 支払われ、市場価格がそれ以上なら、0.05 ドルを市場価格に上乗せする。この上乗せ分は生産者に戻されて開発プログラムに使われることになっている。フェアトレード製品の市場は有機作物よりはずっと小さいが、成長はずっとはやい。2005 年には年率 37%で成長して、11 億ユーロの市場規模に達している。これに文句をつけられる人がいるだろうか?

  いる。まずは経済学者たちだ。フェアトレードに反対する標準的な経済学的議論はこんな具合だ。コーヒー豆のような商品の値段が低いのは作りすぎのせいだから、本来であればそれは生産者に対して、別の作物をつくるようにというシグナルを送るはずだ。でもフェアトレードの上乗せ価格――つまりは補助金――を支払うことで、このシグナルが送られなくなってしまうし、コーヒーに支払われる平均価格を引き上げることで、むしろもっと多くの生産者がコーヒーづくりを始めるようにうながしてしまう。すると、作りすぎがさらに進んで、フェアトレード以外のコーヒー豆の価格はもっと押し下げられてしまい、フェアトレード以外の農民はもっと貧乏になる。フェアトレードは、そもそもコーヒー豆の生産が過剰だという基本的な問題を考えていない、と『まっとうな経済学』(2005) の著者ティム・ハーフォードは述べる。フェアトレードは、かえって生産過剰をひどくしてしまう。

  FLO インターナショナルのブレットマン氏は反論している。実際問題として、農民たちは価格が低いときには他の作物に転作する費用がまかなえない、というのがその議論だ。フェアトレードで得られる上乗せ金があれば、他の作物に転換するための投資もできるじゃないか、と。でも価格保証があるのに、他の作物に転換しようという気はそもそも起こらないのでは?

  フェアトレードに対するもう一つの反対論は、そのブランド認証が労働の組織方法に関する政治的な思いこみに基づいているということだ。特に、一部の作物(たとえばコーヒー)では、フェアトレードのラベルは小規模生産者による組合にしか与えられない。確かにこうした組合は、そのフェアトレードによる上乗せ分の使い方を決めるときに、労働者たちに公正な取り決めをしそうだ。でも、大規模コーヒー農園や大家族企業は、ブランド認証を受けられない。ブレットマン氏によれば、こうしたルールは作物によってちがうけれど、でもフェアトレード方式がもっともそれを必要としている人々を助けるようになっているのだとか。でも、認証を組合に限ることで「大多数の農民たちは大規模農園で働いているのに、それを助けることができないのだ」と各種生産者に認証を与えているレインフォレスト・アライアンスのウィレ氏は述べる。

  最低価格保証があるということは、品質向上の努力をするインセンティブがない、ということだ。コーヒー好きは、フェアトレードのコーヒーの品質があまりに不揃いだと文句を言っている。ここでもレインフォレスト・アライアンスは別の方式を使っている。最低価格保証や上乗せ価格は使わずに、訓練や資金へのアクセス向上に関する助言をしている。消費者たちが、RA のロゴがついた製品に上乗せ価格を支払うというのは事実だが、それは副作用であって、はっきりした補助金方式の結果ではない。RA ロゴの製品であっても、市場でちゃんと闘わなくてはならないのだ。「農民たちが自分の運命を自分で左右できるようにしたいんですよ。競争の激しいグローバル化した市場でちゃんと自分の製品をマーケティングできるように学んで欲しいんです。どっかの NGO 頼みではいけません」とウィレ氏は語る。How cool am I
善意のあたしってすてき!

  でも、フェアトレードに対する最も適切な反対は、それが貧乏な生産者にお金をまわす手段として非効率だということだ。小売り業者は、自分たちでもフェアトレード製品にかなりの利益を上乗せするが、消費者たちは自分たちの支払っている上乗せ分の価格がすべて生産者にいくものと誤解している。ハーフォード氏の計算では、カフェでフェアトレードのコーヒーに支払われる上乗せ分のうち、生産者にたどりつくのはたった 10% ほどだと計算している。フェアトレードのコーヒーは、スーパーマーケットで売られる有機食品と同じように、単に金払いのいいお客を選り分ける手段として小売業者に利用されているだけだ、とかれは言う。

  有機食品と同じように、フェアトレード運動も、外からと同時に中からも攻撃にあっている。外部の人たちは、それが善意のはきちがえだと攻撃するし、中の人たちは、この運動が魂を売り渡したと非難しているのだ。特に、食品系多国籍企業ネスレは、フェアトレード印をつけた自社ブランド、パートナーズ・ブレンドを販売しはじめ、これで活動家たちはフェアトレード運動が大企業にすり寄ったと確信してしまった。ネスレは 8,000 以上のフェアトレードでない製品も売っているので、フェアトレードのブランドをイメージ向上の宣伝利用しつつ、通常営業のほうはもとのままですまそうとしているのだ、と非難されている。ブレットマン氏はこれを否定する。「何百、何千もの農民を助けることになる機会を断るのは無責任なことだと思いました。こうした発想の重要性を企業が受け入れるということは、この戦いに勝ちつつあるということなのです」とのこと。フェアトレード運動支持者たちは「きわめて広範であり」反グローバリズムや反大企業の支持者も含まれている、ということはブレットマン氏も認める。でも、そうした人はネスレのフェアトレード・コーヒーを買わずに、もっと小規模な業者のフェアトレード製品を買えばすむ話だ、とかれは言う。

(地産地消の部分も割愛)


解説

 こちらの記事の詳細版から、フェアトレードの部分を抜粋しました。別にフェアトレードに恨みがあるわけではなく、ちょっと意外な部分があったので。

 ここで主張されているのは以下の点:

  1. フェアトレードはそもそもの問題である過剰生産を悪化させ、状況を悪くする。
  2. フェアトレードは価格保証をするので転作を阻害する。
  3. フェアトレードは価格保証をするので品質改善インセンティブがない。結果としてフェアトレード食品はまずいことも多い
  4. そもそもフェアトレードの金は農民のところにいかない。小売業者がお馬鹿な消費者識別装置として使っているだけ

 フェアトレードという運動全般の狙いは結構なものだし、農民たちの収益を増やそうという試みにはいろいろ有効なものはある(ここで紹介されている RA のように)。でも、「フェアトレード」のブランドが価格保証なんかしているとは知らなかった。そしてフェアトレードは、ぼくは農民の努力に対してプレミアムを払うもんだと思っていたので、品質は通常のものより多少はよいのかと思っていた。たぶん多くの支持者も、ヘロヘロの貧乏農民の製品より豊かで元気な農民が作る製品のほうが品質が高いと信じていたはず。でも実際にはそうでない(こともある)、というのは驚き。


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