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マイクロファイナンスと高利貸し

(The Economist Vol 387, No. 8580 (2008/5/17-23) p.87, "Poor People, rich returns") グラミン銀行本店
グラミン銀行本店ビル。
こんなビルが建つくらい儲かってます


山形浩生訳 (hiyori13@alum.mit.edu)

貧乏人から利益をあげるのは許されるのだろうか

  メキシコの貧乏人向け融資業社コンパルタモスバンコが一年ほど前に株式を公開して以来、大流行のマイクロファイナンス業界には亀裂が広がりつつある。伝統的な慈善っぽいマイクロファイナンス――融資などの金融サービスを使って人々を極貧から引き上げようとするもの――の支持者にとって、コンパルタモスの IPO は、資本家たちが貧乏人をダシに儲けようとする強欲な動きを象徴するものとなっている。一方で同社の支持者から見れば、同社の当初の成功(最近はいま一つ株価に元気がないが)は、単なる慈善だけよりも、収益の動機があるほうがはるかに多くの貧困者を救えるということを示しているのだ。

  コンパルタモスの批判者の一人は、グラミン銀行の活動を通じてマイクロファイナンスを有名にし、2006 年にはノーベル平和賞受賞したムハンマド・ユヌスだ。かれはコンパルタモスの IPO に「ショックを受けた」と伝えられ、マイクロファイナンスというのが「(貧困者を)金貸しから守るものであるべきで、新しい金貸しを作るものであってはならない」と論じたという。別の批判者は、マイクロファイナンス用のソフトウェアを作るマイクロフィン社のチャック・ウォーターフィールドで、かれはコンパルタモス社を「貧困者の独占企業的な収奪」と批難する。かれによれば、同社は貧困者に年率 100% 以上の金利を課していて、違法な高利貸しと大差ないという。また同社は、あわれな借り手が実際にいくら返済しなくてはならないかを意図的にわかりにくくしているという。かれとユヌス氏は、マイクロファイナンス業界に対して、借り手にわかりやすい形で手数料などを明示する共通規格を作ろうとキャンペーンを行っている。

  コンパルタモス社は、自分たちの金利が高く見えるかもしれないことは認める――でも実際は 70% くらいだとか。そして、これはメキシコ国内の、いまだ満たされていない広大な需要を満たすための成長資金として必要なのだ、と述べている。借り手の数は、8 年前には 6 万人だったのが、いまや 90 万人となっている。本当に収奪しているなら、こんなに大規模な成長はあり得ない。さらに、同社が対象としている顧客は、通常の金融機関の顧客としてギリギリ認められないくらいの層であって、メキシコの最貧層ではない。

  1970年代からマイクロファイナンスの普及を支援してきた慈善団体アクシオン・インターナショナルの会長ロドリゲス・アレグイに言わせると、コンパルタモス社の IPO みたいな「大成功」はマイクロファイナンス産業にもっともっと資金を集めるためには不可欠だという。IPO に続いてなだれこんできた資本が、供給を増やして競争を強化したら金利は急激に下がるはずだという。これはまさにボリビアで起きたことだ。ボリビアは初の営利企業(ただし株式は未公開)のマイクロファイナンス機関バンコソルを誇っている。営利目的のマイクロファイナンスは急成長を見せていて、インドの SKS はもとマッキンゼーのパートナーだったヴィクラム・アクラが創設したものだが、シリコンバレーの大ベンチャー資本企業セコイヤの出資を受けている。

  アクシオンはコンパルタモスに早い時期から投資していて、同社の IPO では 1.4 億ドルを得た(そして 9% の株式をいまも保有している)。これはウォーターフィールド氏のような批判者を激怒させている。特にアクシオンはアメリカ納税者から開発援助機関 USAID を通じて資金を得ているからだ。でもアクシオン社は、そのお金を新しいマイクロファイナンスの仕組みづくりに再投資しているのだ。ロドリゲス・アレグイ氏は、この収益性をめぐる公開の場での争いが、投資家たちを尻込みさせてしまうのではないかと懸念している。貧困者を助けるいちばんの方法は、慈善型マイクロファイナンスと営利型マイクロファイナンスが共存できることを認めることなのかもしれない。


モナー 解説

 ありがちな議論。慈善は儲けちゃいけないとか口走るバカは大変に多いのだけれど、でも支援するべき人が多いなら、その努力を拡大するための資金も必要だ。そのために収益性を重視するのは、否定されるべきだろうか? 多くの慈善団体みたいに、集めた活動資金の半分以上がPR費や資金集め活動費になってしまい、資金集めのための資金集めのように見えてしまうのとどっちがいいだろうか? ちなみにこれもまた悪いことではないとぼくは思っている。でも、営利活動としてできるんなら、そっちのほうが多少は望ましいとは思うのだ。
 また、グラミンは低利だとは言うけれど、でも一応ちゃんと収益をあげているし、金利だってそこそこ高いぞ。高すぎる金利と「適正」な金利との差は、しょせんは程度の差でしかない。営利と慈善の差だって程度の差でしかない。だいたいぼくがインタビューしたときにはかれらも、健全な収益性がないと持続可能じゃないし、金利が高くないと借り手もがんばらないのでかえって返済が下がる、と言っていたのだ。ここでの話は、何やら本家争いみたいな議論に見えなくもない。これもマイクロファイナンス業界がだんだん成熟してきたしるし、なのかもしれない。
 ちなみに、ここでの議論は日本のサラ金での議論でも出てきたものと似ている。ここで「マイクロファイナンス上限金利規制」をつけたら、このコンパルタモス社の恩恵を受けている 90 万人は金融サービスの機会を奪われて完全に取り残されるだろう。もちろん日本のサラ金と同じで、このコンパルタモス社での借金を返せずに取り立てにあってブーブー言っている人はいるんだろう。でもそれで拙速なことはしないほうがいいはずだ。と、いろいろ示唆的な記事ではある。

 さらに付記:はてなのブックマークで「慈善型がより低金利で参入してきて、営利型を打ち負かしてしまわない理由は何だろう?」という疑問が述べられていた。それは、金貸しというのは、貸せる資金がいくらあるかで規模が決まってしまうから。一万円ずつ貸すとすると、手持ち資金が 100 万円なら 100 人に融資できる。でも事業規模を1000人に広げたければ、手持ち資金も 1,000 万円いる(経費とかはぬきにしても)。どこから調達しようか?
 慈善型は、低金利だから、自前で資金を増やす速度が遅い。結果としてかれらの事業規模は、少数の篤志家や各種の援助機関が提供してくれる基金などの規模で規定されてしまう。営利型は、自前でも貸し出し資金を増やしやすいし、さらにここであがっているように株式市場で資金調達ができたりもする。
 同じ条件で選ばせれば、慈善型の低金利融資を人は選ぶだろう。でも手持ち資金を拡大する手段がない限り、融資規模(融資残高)は増えることはできないので、慈善型はどうしても営利型ほどは広がらないし、新しいところへも簡単に参入することはできないのだ。


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