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Courier Japon, 54
Courier 2009/03,
表紙はパリ特集で青地に赤いエッフェル塔

そろそろ現実の話をしようか:世界最高のビジネス誌「The Economistを読む」 連載第14 回

ドイツのFIT破綻

(『クーリエジャポン』2009/03号 #54)

山形浩生



  京都議定書の次を決めようとするコペンハーゲン会議は、めでたくお流れに終わった。無理にでも国際合意をと焦るあまり、わけのわからない代物ができるんじゃないかというのをかなり恐れていたのだが、中国が見事に突っ張り通してくれたのは立派だ。仮に排出削減が現実的で、それがきちんと温暖化を阻止できるとしても(実際には非現実的だし、温暖化は阻止できない)、せっかく実現しつつある発展を「地球のためだから我慢しろ」なんて言われても、はいそうですかと安易に承知なんかできないのはあたりまえだ。

 さて、効果のほどはさておき、温暖化対策の一環としては化石燃料にかわる再生可能エネルギーの利用促進がよく言われ、エコロな人たちがしばしばお手本として挙げるのはドイツだ。ドイツでは風力、そして太陽光を大きく優遇しているので需要がのび、それにより太陽電池生産技術が向上するので次世代産業への布石にもなっている、エコと産業を見事に両立させている! それに対して、ドイツの太陽電池は補助金漬けだと言われることが多い。採算もあわない非効率なものを、消費者の負担により無理矢理ばらまいているだけだ、と。

 が、その具体的な補助制度については、高額での買電保証をしていることしか一般には知られていない。また、それが国民にどのくらいの負担を強いているのかもよく伝わってこなかった。

 今回の記事は、そのあたりに焦点を当てている。

もう、おなかいっぱい:ドイツの太陽光補助金

(The Economist Vol , No. (2009/01/10), "" pp.66-7)

 東ドイツのもとソ連の軍事教練場の、不発弾やロケット弾、毒ガス弾が散らばる中に、シリコンの森が出現した。ドイツ最大の太陽電池工場リーバーロゼにある太陽電池発電所は、(ピーク時出力では)小さな町をまかなえるほどの発電能力を持つ。近くのフランクフルト/オーデル市には、リーバーロゼで使われている太陽電池を生産した工場がある。所有しているのはアメリカ企業のファーストソーラーだ。ここでは次々にガラス板が生産ラインを流れてゆくが、それでも注文に生産が追いつかない状態だ。

 ドイツでは、これは十年近くにわたり太陽光発電を育ててきた、フィードイン電力料金というインセンティブを使った産業政策の勝利と見なされている。このインセンティブは、電力会社に対して風車や太陽電池などの再生可能エネルギー源から生産された電力の全量買い取りを義務づける。それもかなり長期にわたり、高い値段で買うことになっているのだ(現状では市場価格の六倍から八倍)。その費用は電気料金に上乗せされて、消費者が負担することになる。毎年、新規の設備に対する電力買い取り料金は少しずつ下がるので、みんな発電設備をなるべく急いで設置しようとする。フィードイン料金制度は、ヨーロッパやその他諸国でも広く導入されている。だがこの方式を考案したドイツは、投資を十分に喚起しつつ、消費者にとっての負担が大きくなりすぎないような料金方式に合意できずにいるようだ。

 一年少々前に、太陽電池パネルのフィードイン料金が、負担しきれないほど大量のソーラーファーム乱立を招いているという苦情のさなかに、政府は料金の低下ペースを加速させ、年率5パーセント減から一〇パーセント程度の減少にした(厳密な数字は設置するパネルの規模による)。その直後に、ソーラー発電設備が乱立したために、ソーラーファーム建設費は四分の一ほど低下した。だがフィードイン料金自体は供給増に応じた低下が行われなかったために、昨年末以前に稼働したソーラーファームは大儲けすることなった。最終的な数字はまだ集計中だが、この結果としてドイツの太陽電池発電容量は二倍近くになったとされる――これは政府が規則を決めた時に予想していた増加率の倍だ。おかげで、フィードイン料金をもっと引き下げろという声はなおさら大きくなった。

 電力業界は、太陽光発電による電力買い取り料金を、六月に五パーセント、年末にはさらに五~十パーセント下げろと提案している。もっと大幅な引き下げを要求する人もいる。こうした論争は、これから始まる争いの前哨でしかない。再生可能エネルギーは、いまやドイツの総発電量の十五パーセントくらいを占める。そのほとんどは風力発電によるもので、これは化石燃料と価格競争力の面でほとんど遜色がなくなりつつある。だがドイツの送配電網がこれ以上の風力発電を受け入れるには、送電や貯蔵に多額の投資をかける必要が出てくる。政府が太陽光発電の開発を進めた原因の一つはこれだ。

 だが太陽光発電は、他の再生可能エネルギーに比べて大幅に高くつく。HSBC銀行のアナリストによると、たとえば風力で発電する総費用は、太陽光発電ファームでの発電費用の六分の一ですむ。そして太陽光発電が、ドイツの総発電量のごくわずかしか占めなかった頃は、そうしたコスト高をお目こぼししても問題はなかった。だがいまや太陽電池は、ドイツの総電力の二パーセント近くを占めるとされる。これは二〇〇八年には一パーセントくらいだった。この数字が高まるにつれて、家計のエネルギー消費に占める割合も、釣り合いがとれないほど高くなる。そうなったら、炭素排出を抑える方法としてもっと安い方法を見つけろという政治的圧力も高まることだろう。なんといっても、ドイツの灰色の空の下で、太陽電池の森を作ること自体が、かなり効率の悪いことなのだから。


 電力を市場価格の六倍で買い取り! それはあまりにすごい。しかもこのスライド式の投資加速インセンティブが、年間で投資額を倍増させるほどの効果があるとは。だがそれがかなりゆがんだ事態なのも事実。それが本当によいことなのかは、まだまだ考える余地はある。

 一方で、コペンハーゲンで拘束力のある合意ができることを期待していたエコ企業の失望についての記事が、1月2日号に出ていた("Waiting for a green light")。いまやエコも立派なビジネスになってしまっているので、話はとても複雑になっている。かれらは、もっとロビイングして政府に規制を強化させねばならないという話をしているとか。

 さてコペンハーゲン会議の結果にはみんな失望しているのだけれど、ぼくは一つ非常におもしろい(そして有益な)結果があったと思う。それは環境とは関係ない。中国が国際社会にだんだん入ってこようとしているのがうかがえたということだ。

 ぼくは中国が「排出規制は受け入れるがそのかわりあれしろこれしろ」と条件をつけて先進国にあれこれ譲歩や支援を約束させ、一応何か取り決めを作らせて先進国のメンツをたててやり、実際にはまったくそんなものを無視する、というような手に出るんじゃないかと思っていた。どうせ先進国だって京都議定書なんかろくに守ってやしないんだし。だがそれをやらなかったということは、一方で中国が自分の長期的な評判を気にしているあらわれでもある。中国は自分勝手なことをやっているように見られがちだ。でも、自分の主張を堂々とのべて自分に有利な交渉を勝ち取ることは何らいけないことではない。そしてその中国ですら、少なくともあのような場で約束したらそれは守らざるを得ないという意識はあるわけだ。ぼくは逆に、そっちのほうに驚いた。

 中国はハイチ地震でもいちはやく救援部隊を出し(「四川の恩返し」と言って)、国際貢献をアピールしていた。グーグル検閲問題など、国際的に孤立しがちな面もいまはある中国も、この調子でいけばだんだん変わってくるのかもしれない、とぼくは思っているのだが、甘いだろうか?


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