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Courier Japon, 45
Courier 2010/01,
表紙はパリ特集で青地に赤いエッフェル塔

そろそろ現実の話をしようか:世界最高のビジネス誌「The Economistを読む」 連載第14 回

違法音楽ダウンロードへの対処法

(『クーリエジャポン』2010/01号 #63)

山形浩生



 ここ数ヶ月、ネットやメディア業界での大きなニュースの一つとして、ウィニー作者の金子勇が逆転無罪となったという嬉しい知らせがあった。ファイル共有のソフトを開発しただけで、海賊行為を助長したとして逮捕されるのではかなわない。どんなものでも、悪用は可能だ。でも末端のあらゆる利用にまで開発者や販売元が責任をとらされるというのはおかしい。

 もちろんウィニーが問題視されたのは、それが各種の違法ダウンロードや違法ファイル共有に使われているからだ。そしてそれに対するレコード業界の対応は、まずはヒステリックなインターネットアレルギーだった。一時アメリカでは、違法ファイル共有をしているといきなりものすごい巨額の損害賠償訴訟が降ってくる――それもしばしばまちがって――というのが頻発したし、少しでもオンラインに音楽ファイルを置くようなサービスはことごとくつぶされた。が、それがiTunesを筆頭に各種のオンラインサービスが登場してきたことで、緩和された。ネットも収益源として考える方策がきちんと普及した。そしていまや、ファイル共有に対する対策も、正しいほうへ変わりつつある。

違法コピーへのへの対抗策:訴訟よりも代替サービス

(The Economist Vol , No. (2009/11/14), "Singing a different tune" pp.67-8)

 「ロックは死んだ」とレニー・クラヴィッツは歌ったが、どうしてなかなかしぶとい。音楽は海賊行為で深刻に影響を受けた初のメディア産業だった。でも診断は改善している。もちろんまだまだ海賊行為に対する戦いは終わってはいないが、でもナップスターが十年前に登場して以来、いまは最もよい状態にある。

 つらい十年ではあった。多くの国では、消費者に対する音楽の売り上げは三分の一以上も減った。アップル社のiTunesストアでさえ、ニッチサービスでしかない。ダウンロードの九十五パーセントは違法だと国際レコード産業連盟は述べる。有名バンドはそれを補うためにチケットの値段を上げるしかない。でも新人アーティストと契約して宣伝する資金が減ったために、有名になれるバンドも減った。U2のマネージャであるポール・マクギネスによれば、「スターづくり装置」そのものが被害を受けている。

 でもいまの音楽業界は二つの正しいことをやっている。まず、アメと鞭のうち、鞭が改善された。ほとんどの国では、著作権ファイルをダウンロードした人々を訴えるのはもうやめている。最近の対応は「段階的アプローチ」や「お手つき三回」アプローチだ。非合法に音楽をやりとりしていると思われる人には、警告が送られる。それでもやめなければ、インターネットのプロバイダがその人の回線速度を落とす。それでもだめなら、接続中止となる。

 段階対応法は、台湾と韓国で今年の春に導入された――どちらもデジタル音楽がCDやDVD売り上げを抑えている先進国だ。十月には、フランスでも導入された。イギリスも十一月に類似の方策を導入予定だ。それが俎上に上がっていないアメリカのような国ですら、インターネットのプロバイダは音楽業界とこっそり提携して似たようなことをやっている。

 以前のような訴訟方式は、それが時間がかかり、高価で効き目も限られることだ。ほとんどの国では、ファイル共有で訴えられるのは雷に当たるようなものだ。段階的なアプローチのほうが、もっと多くの人々に到達できる、と全米レコード協会のスティーブン・マークスは述べる。

 第二の変化は、産業がアメのほうも改善したことだ。最近では、音楽業界は訴訟の話よりも海賊行為にかわる仕組みについて話したがる。過去一年で、音楽は無料か、少なくとも無料に見えるべきだというナップスター以後の風潮を受け入れるデジタル音楽サービスが急成長を見せた。参加企業は、いまや検索ページから音楽のストリーミングができるグーグルから、携帯電話に音楽ダウンロードサービスをおまけでつけるノキアまで様々だ。

 中でも話題の製品はスポティファイで、すでにヨーロッパで六百万もダウンロードされている。スポティファイは、無料の音楽を流すが、そこに最小限のコマーシャルがときどき入る。月額料金を支払えば、広告はなくなるし、またiPhoneなどモバイル装置にもインストールできるようになる。曲をストリーミングで聴くのは、それを所有するのとはちがう。それでもスポティファイは、違法ファイル共有に対する重要な代替となっている。スウェーデンでは、プロバイダ規制のおかげでファイル共有が大きく減った。その人たちの半数は、広告つきストリーミングに乗り換えたというのだ。

 潜在的には、イギリスのヴァージンやBSkyBなど、ブロードバンド接続の契約と音楽の契約を抱き合わせで売るプロバイダの役割も重要になる。プロバイダ料金を支払っているのは、子供にピアツーピアサービスを使わせたくないと思っている両親の場合が多いからだ。またこうした仕組みがあれば、プロバイダはもっと積極的にファイル共有を阻止しようとするだろう。いずれにしてもビデオの海賊盤がネットでもっと普及したら、プロバイダはいやでもそうせざるを得ないだろう。多くのブロードバンド業者は有料テレビ事業もやっているので、商売の妨げになるからだ。

 だからといって音楽業界が成長を回復したわけではない。まだ売り上げの半分以上はCDの売り上げだ。スポティファイのような新興サービスは、レコード業界やアーティストにまともな売り上げを提供するにはもっと多くの利用者を無料サービスから有料サービスに移行させる必要がある。それに違法ファイルコピーもまだまだ残っている。

 だが国際レコード産業連盟は、ファイル共有より前から違法コピーはあったと指摘する。違法コピーを根絶するのが狙いではない――そんなのは不可能だ。むしろ状況をその代替サービス優位に作り替えることが重要となる。そしていま、それが起こりつつあるようだ。


この記事はいくつか問題はあるとは思う。違法ダウンロードのせいでCDの売り上げが落ちたというのは、レコード業界の定番の主張だが、この因果関係をきちんと示す材料はないはず。ダウンロードの多い人はCDを買う割合も高いという調査もあるし、またCDが粗造乱造され、アルバムでがシングル曲以外捨て曲ばかりとか、しょぼいおまけだけですごいプレミアをつけるようなぼったくり商法が増えたために、みんな買う気がなくなっている――そしてそのために、そのぼったくり商法でも金を出す人のためにさらに粗造CDが増え、さらに多くの人がばからしく思ってCDを買わなくなるという悪循環が真の原因だとも言われる。

 でもネットへの対応として、海賊コピーより魅力的なサービスを提供するというのは健全だし、本来あるべき姿だろう。日本も含め、世界的にこうした動きは広まっているし、冒頭で紹介したウィニー裁判のような変な現象も、今後は減るものと期待したい。

 他の記事では、10月24日号に紹介されていた、新しい常温核融合の話。すでにインチキ認定されて久しい常温核融合がまだ生き残っていたかと思ったら、別の方式があるとのことで、それが一応実証されたとのこと。これが大規模で動けば! でももちろん、お手並み拝見ですな。

 また日本については、鳩山首相の迷走ぶりを懸念する記事が登場。政権交代はそれ自体がよいという以前の論調からちょっと方向を変えてきた感じだが、今後どっちに向かいますやら。いや、エコノミストの論調がではなくて、鳩山政権そのものの方向性が、という意味ですけど……


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