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Courier Japon, 59
Courier 2009/08,
表紙はパリ特集で青地に赤いエッフェル塔

そろそろ現実の話をしようか:世界最高のビジネス誌「The Economistを読む」 連載第14 回

ドバイのバブル

(『クーリエジャポン』2009/08号 #59)

山形浩生



 この欄では何度か、ドバイという都市が成金趣味丸出しであまり好きでないと何度か書いてきた。それはぼく一人が感じていることではない。だからドバイがこの金融危機でかなりの苦境だという話をきいて多くの人は内心ザマミロと思ったんだが、一方で真っ先にしわ寄せをくらったのはインドやバングラからの出稼ぎたちで、それはかわいそうだし、なんであれ何もないところにあれだけの都市を数年で作ったのは、大した成果ではある。で、結局のところ、ドバイはどうなのよ? それが今回の記事のテーマだ。 ドバイ:新世界(4/25号pp.69-71)  ドバイの沖合にある、世界地図の形をした高級分譲埋め立て地「ザ・ワールド」は、ドバイ三大デベロッパーの一つナキールのプロジェクトだ。多くの人にとって、ドバイ経済はこの埋め立て地並に作り物めいている。そしてドバイ当局はいまや、ドバイ経済を引き潮から守る防波堤を何とか確保しようとしている。いまやドバイは、不動産価格の暴落、貿易と観光の停滞、そして負債の借り換え困難という苦境にあえいでいるのだ。

 ドバイ政府と政府系企業の負債はおよそ八百億ドル。うち百十億ドルが今年返済期限で、来年は百二十四億ドルが期限となる。ナキール社だけでも十二月に三十五億ドルの債権を借り換えねばならず、その五ヶ月後には九・八億ドルの借り換えが必要となる。

 ドバイの防波堤を提供してくれたのは、隣のアブダビだった。UAEの中で最も豊かで、同国石油備蓄の九十四%を擁するこの首長国は、中央銀行を通じてドバイの債券百億ドル分を買った。二百億ドルの発行量の半分に相当する。二月に発表されたこの救済は破産保険の保険料が下がったことからもわかるとおり、安心感を回復させた。ドバイの支配者、シェイク・ムハンマド・ビン・ラシード・アル・マカトゥムは、八年ぶりの記者たちとのオンライン討議で、事態は「危機モードから解決策モード」に移った、と書いている。

 解決策は、まとめて「ドバイInc」と称される無数の準政府企業再編を含む。こうした企業は、三つの持ち株会社のどれかに所属する。ドバイ・ワールド、ドバイ投資社、シェイク・ムハンマドの持つドバイ・ホールディングだ。それぞれの持ち株会社は独自のデベロッパーを持つ。ナキール、エマール、ドバイ・プロパティーズ。

 かれらは都市開発を急速に進めた一方で、出し抜け症候群の罠にはまった。エマールは世界で一番高いビルを建てているので、ナキールはそれを追い越そうと、高さ一キロの建物を建てようとしている。政府はこれら企業を後押しして、かれらは安心して背伸びをした。だが監督しようとはせず、計画が現実的かどうかを調べたりしなかった。

 ブームの間は、供給が需要を作り出すように見えた。デベロッパーは工事が始まる以前に物件を売り、頭金として代金の一割以下を要求するだけだった。市場がピークに達したのは二〇〇八年九月。だがその後、きちんとした公式データはないが、二〇〇八年第四四半期に物件価格は二十五パーセントほど下がったようだ。二〇〇九年第一四半期にも、同じくらい下がったらしい。

 このため中東のビジネス誌の推計では、UAEのデベロッパーたちは三千三百五十億ドル相当の建設プロジェクトを先送りしている。ナキール社は、一キロタワーを発表してから三ヶ月後に延期を発表した。

 ドバイIncの再編が始まっている。ナキールは十二月に社員を十五パーセント削減し、その後も人減らしをしている。ドバイ・ホールディングも首切りを始めた。他の経済は失業者が税金を払わなくなり、失業保険を使うようになることで、自動的な財政安定機構が備わっている。ドバイは自動的な不安定機構を持っている。外人が失業したら、三十日後には滞在許可を失う。国外退去になった外国人労働者は、国内経済にはまったく貢献しなくなる。企業は次の仕事が見つかるまで失業者を雇っておく(ただし給料なし)。だがある予想によれば、ドバイの人口は今年十七パーセントも減るという。

 だがドバイの隣近所は親切だ。隣の首長国アブダビは、巨大な石油備蓄と、おそらく資産三千万ドルにのぼるソブリン・ウェルス・ファンドを持っている。UAE全体のバランスシートはあまり拡大していない。ただ、資産のほとんどは一つの首長国が持ち、負債のほとんどをその隣の首長国が持っているわけだ。

よいご近所政策

 ドバイの危機が拡大するとみんな石油で豊かな隣国が救済してくれるのを待った。だがそのつらい待ち時間は数ヶ月にも及んだ。なぜだろう? 多くの人は、ドバイが頭を下げたくなかったからだという。またアブダビが、国債金利の4%以上のものを要求したのだという人もいる。アブダビはドバイの翼が斬られて連邦の統一感が増すのを歓迎したのかもしれない。

 だが「アブダビがドバイを苦しませようと企むなどといのはばかばかしい」という人もいる。アブダビの支援の申し出は、十一月には行われていたという。

 ドバイを批判する人々は、ドバイのデベロッパー並にやりすぎるきらいがある。ドバイのモデルは最近できたものではない。一九五〇年代にクウェートに債券を売って、クリークの浚渫を行ったとき以来のものだ。こうした投資の結果は、時には傲慢に見えるが、なかなか立派なものも多い。たとえばジェベル・アリ港は、世界最大のコンテナドックだ。

 ドバイが必要とする技能は欧米にはたっぷりある。それを集めるため、ドバイは西洋人が楽しめるような国に自らを仕立てた。サウジアラビアのほうが経済規模は大きいしおもしろい仕事も多いが、それでも弁護士や金融関係者など、必要な専門職を集めるのに苦労している。

 またドバイのみんなが新参者でもないし、すぐに帰国しようとしているわけでもない。昔、イランやインド、ザンジバルからやってきた家族経営の事業は、好況時もバブルに染まったりはしなかったし、景気後退でドバイを見捨てたりもしない。ドバイは二百二カ国から人が集まっている。根無し草もいるが、それ以外の人にとっては、ドバイ以外の国に住むなど考えられない。ナキールが埋め立て地で複製品を作る以前から、ドバイは世界の縮図だったのだ。


 うーん。ドバイの現状がわかるという意味ではよい記事なんだが、後半のドバイ擁護はどうなんだろう。確かに一部のインフラ投資はいいかもしれないけれど、全体としてはどうかなあ。そしてもちろんドバイに残る人もいるだろう。でも人口が一年で十七パーセント減る?! ちょっと正気の沙汰ではない。残った人がまともに商売を続けられるかどうかも怪しいのでは? 税制優遇で多くの工業投資も入ってきたけれど、それだってドバイの都市開発需要や富裕層市場をあてこんでのものが相当部分だし。不動産不況は長引くのが常なので、どうなりますことやら。

 その他、四月二十五日号では、中国の外貨準備がドル以外になってドル資産が暴落するのではという懸念についての分析。確かにドル資産は減らしたいけれど、それをやると元高になるので、大規模な変化は当分起きないのでは、とのこと。なるほどね。一方で、中国の金融面での発言力はそろそろ無視できなくなりつつあり、いずれ中国をグローバルスタンダードに引き入れるより、グローバルスタンダードを中国にあわせざるを得なくなるのでは、との記事が五月十六日号に。また同じ号の中国ネタで、中国の簡体字は簡略しすぎだという反省が出てきて、今年後半にも少し昔の字形に戻すかもしれないというニュース。でも特に若者は、纏足復活に等しい暴挙だと反対しているとか。個人的には少しでも戻してほしいなあ。


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