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Courier Japon, 47
Courier 2008/08,
表紙はパリ特集で青地に赤いエッフェル塔

そろそろ現実の話をしようか:世界最高のビジネス誌「The Economistを読む」 連載第15 回

よいエタノール、悪いエタノール

(『クーリエジャポン』2008/09号 #47)

山形浩生



以前、いまの食料価格高の原因の一つがアメリカのエタノール生産だという記事をご紹介した。その後FAOも食糧価格についてバイオエタノールを批難するコメントを発表したし、さらにバイオエタノールは別の温室ガスを出して云々云々。そんなこんなで、バイオエタノールなんかダメ、という印象を持った人も多かろう。筆者もそうだった。ついでに、生産効率も悪くて補助金漬けでないと採算があわない云々。そういった知識をもとに、世界各国で非食糧作物でバイオエタノール生産を行おうという計画が発表されているのに対し、ポーズだけの無意味なことをしているという冷笑的な目を向ける人も多い。

 でも、バイオエタノールもいろいろあるようだ。効率が高く、コスト競争力もあり、副作用もないバイオエタノールもちゃんと存在する。以前の記事を読んでバイオエタノールすべてだめと思ってしまった人々への罪滅ぼしとして、今回はブラジルのよいバイオエタノールについての記事を紹介しよう。

高効率でエコロ、人にも優しいブラジルのエタノール

(The Economist Vol 387, No. 8580 (2008/6/28), "" pp.45-6)

  六月二三日にカリフォルニアで、ジョン・マケインがアメリカの石油依存度を減らす計画を発表したとき、それをいちばん熱心に聞いていた人々は、一万キロ彼方のサンパウロにいたのだった。マケイン氏は、エタノールに対する54パーセントの輸入関税を廃止すべきだと論じた。上院の他の人たち(ただしバラク・オバマは含まれない)も、この関税を引き下げようとしている。アメリカのトウモロコシ価格は洪水のため高騰しているし、エタノール生産のためにトウモロコシ生産に補助金を出すのは、いままで以上に不適切な発想だ。というのも、アメリカはブラジルからずっとエコで安上がりなエタノールを買えるからだ。

 アメリカのエタノール需要は、昨年成立したエネルギー自給と安全保障法の目標値にあわせて成長すると思われている。ブラジルとしては、ヨーロッパや日本にももっと売りたいと思っているところだ。でも、同国がついに世界の石油依存を引き下げようとするときになって、もっぱらサトウキビを原料とする同国のエタノール産業は、それが見た目ほどよくないという糾弾に直面しつつある。抗議団体は、それを余所のバイオ燃料といっしょくたにして、食料価格の高騰を引き起こしていると批難しているのだ。一部のエコロ団体は、ブラジルの農民たちがサトウキビを植えるためにジャングルを潰したと主張する。そしてメディアは、農場労働者の扱いがよろしくないと述べる。もっと現実的な話として、アメリカの高官たちは、ブラジルが十分なエタノールを供給できるんだろうかと疑問視している。

 まずこの最後の点から行こう。ブラジル国内のエタノール需要が急増しているのは、同国の新車の九割が混合燃料エンジンを備えていて、ガソリンとエタノールをどんな混合比率でも使えるようになっているからだ。そして需要が高いのにエタノールは安い。これは生産者たちが、生産応力の拡大に投資したからだ(次ページグラフ参照)。一部はかれらが輸出市場をあてにしているからだが、それよりもブラジル人顧客をつなぎとめるにはガソリンより三割安く売らなくてはならないと認識しているためだ。原油価格は、政府が規制しているためにここ三年上がっていない。

 今年、ブラジルは30億リットルのエタノールをアメリカに輸出する気でいる。でも、この市場は、トウモロコシ価格が輸入関税分以上に高値になるか次第だ。ブラジルは生産高をずっと引き上げられるのだが、輸出市場がもう少し安定しないとそこまでやろうとは思わない。というのも、輸出用にはパイプラインや港湾設備に投資が必要だからだ。

 気候変動を心配する人々から見ると、ブラジル産エタノールはそれが言い分通りにエコロでなければ買うに値しない。でも、それがライバルのアメリカ産トウモロコシエタノールよりはずっとエコロなのは確実だ。アメリカ産エタノールは、生産に使ったエネルギーの一・五倍のエネルギーしか含まないが、ブラジル産はこれが八・二倍だ。一部のエコロ団体は、サトウキビ生産の拡大でアマゾンのジャングルが減っているという。これはウソだ。サトウキビのほとんどは、森林から何千キロも離れたサンパウロ州や北部州で生産されている。政府機関コナブによれば、新規サトウキビの六五パーセントほどは、かつて放牧地だったところに植えられ、残りは他の作物畑からの転作だ。

 でもエタノールは間接的に食料価格高騰に影響したり、牛の放牧業者をアマゾン森林に押しやったりはしていないのか? こうした懸念も杞憂らしい。サトウキビは、ブラジル農地のたった七〇〇万ヘクタールを占めるにすぎない(そのうちエタノールになるのは半分だけ)。これに対して牛の放牧に使われるのは二億ヘクタール、しかもその大半は実に広大だ。劣化した放牧地にサトウキビが植わっても、牛肉価格にはほとんど影響はない。

 さらにエタノール産業は生産性を向上させようとしている。「サトウキビは、トウモロコシが二〇世紀初頭にあった状態(訳注:緑の革命以前の非常に石高の低かった状態)にあります」とヴォトランティム社で生物学者からベンチャー資本家に転身したフェルナンド・ライナッハは言う。かれのベンチャー投資は、サンパウロ州のカンピナスにある新興企業二社に出資している。 一つはカナヴィアリスで、改良品種を作っている。もう一社アレリクス社は、サトウキビの遺伝子操作により、有効成分増大や渇水への耐性向上など新しい性質を付与する。同社の向かいにあるアミリス社はカリフォルニアの企業で、砂糖をガソリンやジェット燃料代替物にする酵素を開発している。

 またサトウキビ刈り労働者の就労環境がひどいという批判もある。でもサトウキビ産業は、実はブラジルの農業全体よりむしろ安全性が高い。さらに機械化と合理化が進むにつれて、そうした労働自体が二〇一二年までには消えると予測されている。

 ブラジル人にとっては環境保護だの食料価格だの労働条件だのを持ち出してブラジルのエタノールを阻止したがる部外者たちは、偽善的な衣をまとった昔ながらの保護貿易論者でしかない。最近、ローマで開かれた国連食糧サミットで、ブラジル大統領ルジズ・イナシオ・ルラ・ダ・シルヴァは、自国のエタノール産業が「石油や石炭まみれの指に糾弾される」のはうんざりだ、と演説した。まさにその通り。アメリカのエタノール関税は廃止しよう。


 なるほど! サトウキビのバイオエタノールはそんなに効率がいいのか! しかも価格統制されているガソリンのさらに三割安とは大したものだ。ブラジルのバイオエタノールは歴史もあって、日本が以前のオイルショック時代にサンシャイン計画をやっていた頃からずっとやっているので、細かい改善も進んでいるんだろう。

 日本も、あちこちでバイオエタノール開発の実証研究とかを進めているけれど、まずこれを輸入して、車もバイオエタノール対応にしていけばいいのに。ブラジルのほうも輸出したがっていることでもあるし。そうやってバイオエタノールの市場を作っておけば、あれこれやっている実証研究がうまく行った時にも、商業化するのは数層倍楽になる。ハイブリッドや電気自動車も結構だけれど、実績があるものを堅実に使っていくのも重要だと思うんだが。

 それにしても、エコロも大変だ。バイオエタノールまで産地の心配をしつつ使わなきゃいけないのか。面倒な話ではあるけれど、こういう試みが重なることでいろいろ燃料の改善も進むわけだし、中国産食品に目くじらたてるよりはずっと有意義なことでもある。あとは天ぷら廃油ディーゼル等もちゃんと使えるようになるとすばらしいんだが……


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