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ケインズ『雇用と利子とお金の一般理論』要約、21 章
山形浩生
21 章 価格の理論
Abstract
- ビジネスサイクルは、投資の変動によって生じる。特に、期待収益の変化からくる資本の限界効率の変化が大きい。
- 好況期には、期待収益が高いのでみんな投資するけれど、でもバブルが崩れると期待収益が一気に下がる。そして余った資本が摩耗してつぶれるまで5年くらいかかり、その後やっと投資が回復するわけだ。
- その他、過剰在庫の影響や、消費性向の低下も起きる。金利引き下げですぐに景気が回復しないのもそのせいだ。
- でも、だからといって金利引き上げでバブルを早めにつぶすというのはダメな政策だ。金利を引き上げると、いい投資もなくなる。それに無駄な投資でも有効需要引き揚げには役にたつ。安定して停滞するより、ちょっとバブル気味がずっと続くほうがいい。
- だからバブル対策や景気対策には、公共投資で有効需要を高めるのと、所得再分配政策とかで消費性向を変えるようにしよう。
- ジェヴォンスは、景気変動は農業の豊作・不作によると言った。これは当時は慧眼だったけど、いまは農業が経済に占める割合が小さいのと、グローバル化で豊作・不作がならされるので、あまり重要でなくなっている。
本文
Part I
- 1. これまでの価格の理論は変だ。最初のうちは、価格は需要と供給で決まる、とか言ってる。これはよくわかる。でも後のほうになると、値段はお金の量で決まるとか所得の速度で決まるとか、なんでもありの世界になってる。
- 2. 以下では、価格の理論を整理して、需要と供給で価格が決まる、という話にきちんと関連づける。価値の理論とお金の理論がわかれているのは変だ。正しい区分は、一定のリソース下での個別産業・企業の理論と、全体としての総産出と総雇用の理論、というものだ(ミクロとマクロ、ですな)。マクロの理論では、お金の理論が必須なんめり。
- 3. 別の言い方もできる。前者は、ある一時点での均衡理論だ。後者は、変動する均衡の理論だ。というのも、お金の意義ってのは、それが現在と未来をつなぐリンクになっている、ということだから。将来が完全に確実なら、すべてを今の均衡理論で決めてしまえるけど、現実はそうじゃないのだ。
Part II
- 4. 単一の産業では、価格水準は限界費用に入ってくる生産要素に対する支払いと、産出の規模によってくる。産業全体の場合でもそうだ。限界費用に入る生産要素の価格水準と、産出全体の規模、つまりは雇用の規模で決まってくる。でも、もう一つ、需要側の変動がこの費用と規模の両方に影響を与える。これがいままでとちがうところだ。
Part III
- 5. すべての生産要素の価格変化が同じ割合(賃金と同じ変化をする)だと仮定すると、一般的な価格水準は、賃金水準と雇用量によることになる。だからお金の量の変化が物価水準に与える影響は、賃金水準の変化と雇用量の変化を総合したものとなる。
- 6. 失業中の資源は、その製品を作る生産性において等しいと考え、すべてが交換可能で、失業がある限り雇用されているものは、同じ賃金で満足するものとしよう。この場合、収穫は一定で賃金も失業がある限り一定だ。すると失業がある限り、お金の量は物価にまったく影響しないし、雇用は需要(これはお金の量に左右される)とまったく同じ割合で増減する。そして完全雇用になったら、もう雇用はいっさい増えず、有効需要に比例して増減するのは賃金水準や物価になる。これが貨幣数量説の世界だ。
- 7. でも、いまの単純化した条件を緩めてみよう。(1)有効需要はお金の量とは比例しない。(2)資源は均質ではなく、雇用が増えると収穫は逓減する。(3)また交換可能でもないので、完全に弾性的な需要とそうでない需要とは混在する。(4)完全雇用より先に賃金は上昇を始める。(5)すべての要素の価格変化が同じなんてことはない。
- 8. まずは、お金の量が有効需要に与える影響。有効需要が増えると、部分的には失業が減り、部分的には物価が上がる。雇用と物価が同時に上がるわけだ。
- 9. それぞれを検討するにあたって、それらが相互に独立しているわけではないことに注意。ここで目指すのはすべてが機械的に決まる仕組みを見つけることではなく、個別問題を整理して考える秩序だった方法を編み出すことだ。各要素を個別に考え、それから要素同士の相互作用を検討する。ちなみに、数理モデルはあまりに安易に要素の独立性を導入しちゃうので、まちがいのもとなんだよね。数理モデルでは必ずそれを常に念頭におくこと。数理経済学のほとんどは、いい加減な仮定からくるお遊びに堕してるよ。
Part IV
- 10. (1) の検討 お金の量の変化が有効需要を左右するのは、もっぱら利子率の変化を通じてだ。これだけなら、流動性選好と限界効率と投資乗数さえわかれば、貨幣数量効果は決まる。
- 11. でもこの分析は、問題の仕分けとしてはわかりやすいが、いずれの要素もまだ検討していない(ii)~(v)の条件に左右されることを忘れないこと。場合によってはお金の量が増えると有効需要が減ることさえある。
- 12. 有効需要とお金の量の弾性値は、しばしば「貨幣の所得速度」なるものと密接に関連する。ただし、この速度なるものは無意味で、それが一定であるべき理由もない。あまりに複雑な要素がからんでいるから、混乱のもとだと思う。
- 13. (2) の検討 雇用が収穫一定か収穫逓減かは、労働者への支払いが効率性にきちんと比例しているかである程度決まる。比例していたら、雇用が増えても単位あたりの労働費用は一定だ。でも個々人の能率にかかわらず同じ職の人が同じ賃金をもらっていれば、産出一単位あたりの労働コストは増える。まして使う設備にも差があったら、収穫逓減はもっとひどくなる。
- 14. だから産出が増えると、賃金とは関係なく価格も上がる。
- 15. (3) の検討 要素ごとに完全雇用が実現されるタイミングがちがうので、供給は不完全な形で弾性的になってしまう。
- 16. だんだん産出の水準があがってくると、完全雇用になって硬直的になる原材料が増えてくるので、その価格は急激に上がる。
- 17. ただしこれも時間による。硬直的になった原材料も、そのうち人をやとって生産を増やすだろうから。
- 18. (4) の検討 完全雇用になる前から賃金は上がり始める。常識だよね。
- 19. 有効需要と賃金も、連続的なかわり方はしなくて、歴史的に見てもいろいろあって段階的に変わる。
- 20. (5) の検討 各要素への支払額が同じ割合で変わるなんてことはない。
- 21. いちばん賃金とちがった変化を見せるのは利用者費用かな。
- 22. すべてが同じ率で変わるというのは、手始めの仮定としてはいい。あと加重平均を使うとか、いろいろ手はあるかもしれない。
Part V
- 23. 有効需要の増加が産出の増加にはつながらず、価格の増加だけにまわるなら、これは真のインフレだ。それ以前の段階は、物価上昇と産出増との組み合わせなのできちんと分離できない。
- 24. つまり真のインフレ地点をはさんで非対称性がある。その水準以下に有効需要が下がったら、産出量が減る。でも、その水準以上に有効需要が動いたら、産出量は増えない。労働者は賃金が減るのはいやがるが、増えて文句を言うやつはいないからだ。
- 25. 不完全失業のたびに賃金が下落するなら、こんな非対称性は起きない。でもそうなったら、完全雇用以下だと賃金か金利はゼロになってしまう。金融システムでは何らかの、これ以上は下がらないという硬直性がないと価値が安定しない。
- 26. 要するに、お金の量を増やせばまちがいなくすべてインフレになるという発想は(このインフレが単に、価格が上がるというだけの意味でない限り)こうした条件を仮定しており、その制約の中にある。
Part VI
- 27. これを数式で表現してみよう。
- 22. 要するに、バブルとその破裂の原因は、完全雇用を実現できないほど高い金利と、その金利を打ち消すほどのイカレた期待収益だ。
- 23. 実際、戦時中以外では、バブルがどんなにふくれても完全雇用は実現されていない。アメリカの1928-9年でも、特に労働力不足は生じていない。また、あらゆるものが十分にあって、あとは交換コスト分だけしかリターンが期待できないというような過剰投資も起きていない。だからここで金利引き上げをしたら、バブルは治るけど有益な投資も減って、患者は死んだ、ということになったろう。
- 24. うまくやれば、アメリカやイギリスみたいな大経済で完全雇用が長期的に続くことは可能なはず。
- 25. さらに完全雇用が実現されるとしても、金利引き上げでバブル対策を唱えるのは変。むしろ消費性向を変えるようないろんな施策を試すべき。たとえば所得再分配とか。
Part IV
- 26. さて、失業は過小な消費から起きる――いろんな社会制度や富の分配のせいで消費が抑えられているせいだ、という一派がいる。
- 27. 現在の条件下では――つまり投資量が無計画で、無知な民間投資家やがめつい投機家の判断に任されている状況では――かれらはまったく正しい。他に消費を増やす手だてはないもんね。
- 28. ただ、かれらに反対はしないけど、消費を変えるより投資を増やすほうが社会的にメリットが大きいんじゃないか、とは思う。投資を無視しちゃいけないよ。
- 29. てゆーか、両方やったらどう? 公共投資をしつつ、消費性向を変える施策をする、とか。同時にできない法はない。
- 30. (上の話を数字を使ったたとえ話で説明)
Part V
- 31. ビジネスサイクル解消に、求職者を減らそうと主張する一派もいる。
- 32. でもこれは現状では無理だ。どっかの時点では、働いて所得を増やすより余暇がいい、とみんな思うだろうけど、多くの人は余暇を減らして所得を増やす方を選ぶみたいだし、これは実現不可能だと思う。
Part VI
- 33. バブルの初期に金利を上げてそれをつぶせ、と主張する連中がいる。これはばかげている。完全雇用なんてあくまで理想状態だからあり得ない、というロバートソン説を支持するなら話は別だけど。
- 34. 投資を増やす政策も、消費性向を変える政策もとらないなら、バブルをつぼみのうちに刈り取る金融政策もありかもしれない。でも、バブルで増えた投資だってないよりましかもしれないぞ。それに、安定のために発展の機会を見過ごすのは、あまりに敗北主義ではないの。
- 35. だいたいこういうバブルを早めにつぶせという説を唱える人は、よくわからずに言ってることが多い。投資が増えるとそれが貯蓄を上回るからまずいとか(そんなことは定義上ありえない)、インフレを起こすからダメだとか(産出と雇用を増やすとバブルだろうとなかろうと必ずインフレにはなるのだ)。
- 36. あるいはお金の量を増やすことで人工的に金利を引き下げ、それによって無理に投資を増やすというのは何やら邪悪だ、という説とか。でも昔の金利水準がそんないいわけでもないし、増えたお金だって無理強いされるわけじゃないんだよ。貸すより現金を手元に持ちたい人は現金を手にして喜ぶというだけだ。あるいは景気過熱だと過剰消費によって純投資がマイナスになるとかいう人もいる。でもそんなことは実際に起きてないし、だいたい投資が少ないんなら、金利を下げて投資を増やすのが当然でしょ。こいつらの言い分はまるで理屈になってないのだ。
Part VII
- 37. 昔のビジネスサイクル理論、特にジェヴォンスの理論だと、ビジネスサイクルは季節による農業生産の変動のせいにされていた。これは実に納得がいく。いまでも農業の豊作・不作によるストック変動は投資水準にものすごく効いてくるからだ。ジェヴォンスの時代なら、その度合いはもっと高かったろう。
- 38. ジェヴォンスの理論を言い直そう。豊作だと、備蓄が増えて作物が翌年に持ち越される。この分は農家の所得増になるけれど、それは社会の消費には影響せず、貯蓄からまかなわれるので、いまの投資の増加になる。不作の時は、備蓄が取り崩される。これはいまの投資の減少となる。他の投資が同じで、農業の経済に占める割合が大きければ、これは景気全体に大きく影響する。だから豊作だと景気がよくなり、不作だと悪化する。ジェヴォンスはその後で、豊作と不作を決めるのは太陽黒点で云々とかいうけど、それはここでの話とは関係ない。
- 39. あと最近、不作だとみんな低賃金でも働くから景気がよくなる、という変な説が出てきたけど、こんなの相手にしないよ。
- 40. でも、この説明はいまは時代遅れだ。農業が経済の中で占める割合が減ったこと、そしてグローバル化によって一カ所の豊作・不作がならされる傾向があることがその理由だ。ただ、昔は景気変動の原因は農業(そして戦争)しかないと言ってよかった。
- 41. でもゲゼルの理論には大きな欠点がある。財のストックを貸して収益が得られるのは金利水準があるからだというのをゲゼルは示した。でも金利がマイナスになれないと述べただけで、なぜ金利がプラスなのか、というのを説明せずにすませているし、金利がなぜ生産資本からの収益に左右されないかも説明していない。かれは流動性選好という概念を思いつかなかったからだ。
- 42. いまでも投資水準には、原材料生産(農業と鉱工業)がかなり効いてくる。あと、不景気からの回復が遅いのは、過剰在庫がはけるのに時間がかかる、というのもある。在庫はマイナスの投資みたいなものだから、がんばって公共投資をしても、在庫がはけるまでなかなか回復が起きないこともある。
- 43. アメリカのニューディール政策はまさにこの好例だ。ルーズベルトが借金して公共事業をしたとき、農業在庫はかなり高かった。これがはけるのに2年かかったので、ニューディール政策の投資も相殺されちゃったのだ。在庫がはけてやっと回復が起きた。
- 42. ここまで見てきた理論は、有効需要を考えるとき、投資の誘因が十分かどうかを考えるものだ。でも失業の原因として消費性向の不足を挙げる説もある。これは最近になって出てきた考え方だ。
- 43. 最近の(1930年代の)アメリカの経験は、完成品や仕掛品の在庫変動がビジネスサイクルの中の小変動に大きく影響することを示している。アメリカの統計はすばらしいので、在庫と細かい景気変動の関係がとってもよくわかるぞ。
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YAMAGATA Hiroo (hiyori13@alum.mit.edu)
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