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ケインズ『雇用と利子とお金の一般理論』要約、13 章
山形浩生 (全訳はこちら)
13 章 利率の一般理論
Abstract
- 金利は、所得のどれだけを未来の消費にまわすか(つまり貯蓄するか)を決めるのではなく、その未来にまわす分を現金でない形で持ちたいかどうか(流動性選好)によって決まる。だって現金でタンス預金したって貯蓄だけど、金利とは関係ないでしょ。
- 現金で持つ理由は、取引に使うため、金利変動に対する用心、金利変動をもとに儲けようという投機の3種類ある。そして後の二つは、将来の金利が不確実だから生じる。
- そして金利は、こうした動機で決まる、お金に対する需要と、実際のお金の量とをマッチさせるものだ。だからお金が増えると金利は(ほかの条件が同じなら)下がる。
本文
Section I
- 1. 11章で、投資量が上下することで投資の限界効率は金利と等しくなる、という話をした。でも、金利そのものはその限界効率とは別物。金利を決める要因も考えよう。
- 2. きちんとした答えは14章とそのおまけで検討する。結局それは資本の限界効率と、貯蓄性向を決める心理とをマッチさせるものだってことになるんだが。でもこの二つがわかっただけでは不十分。この二つだけから金利を導くことはできない。
- 3. では、どうやって?
Section II
- 4. ある人の時間選好は、独立した2種類の意志決定で決まる。一つは、消費性向にかかわるもの。所得のうちどれだけ消費して、どれだけ将来の消費用にとっておくかという話だ。
- 5. でもこれを決めたら、次にその将来用の貯蓄部分をどんな形で保有するか、という決定がくる。現金のまま持つとか、何か財に変えて持つとか、いろいろやり方はある。これはつまり、その人の流動性選好だ。条件に応じてどのくらいを現金で手元に置きたいか、という話。
- 6. これまでの理論は、消費性向だけで金利を導こうとしたからまちがえた。
- 7. 金利は、貯蓄に対するリターンではないのは明らか。だって現金で持っていると利息はつかないから。金利は、一定期間だけ流動性を放棄することに対する報酬だ。
- 8. 金利は、投資リソースと現在の消費をあきらめるのとを均衡させる「価格」ではない。財産を現金で持ちたいという欲望と、実際に世の中にある現金の量とを均衡させる「価格」だ。金利が下がれば、人々が持ちたい現金の総量は世の中の現金の量を上回り、金利があがればその逆になる。もしそうなら、金利を決めるのは流動性選好と、お金の量ということになる。流動性選好は関数みたいなもので、それを\(L\) として、金利を\(r\)、お金の総量を\(M\) とすると、\(M=L(r)\) となる。
- 9. でも、なぜ流動性選好なんてものがあるの? お金は、取引の道具であるとともに、富を蓄える手段でもある。取引に使うことを考えれば、金利を少し犠牲にしても流動性を持っているほうがいい。でもその他の部分について、利息の付かない形で財産を持っているのはばからしいのでは? これについてきちんと説明するのは第15章。でもある必要条件がないと、財産を現金で持つ流動性選好なんてものは存在できない。
- 10. その必要条件とは、将来の金利の不確実性。不確実性がないなら、将来の金利はすべて現時点でわかっている。したがっていつの時点でも、どんな債権の価値も確実にわかるので、だれであれ手持ちの債権を現金にすぐ換えてくれる。だから現金を無理して持つ必要がない。
- 11. でも不確実性があると、ある負債が将来いくらの価値を持つかははっきりしない。すると長期の債権を買うってことは、ヘタをすると損をしかねないということだ。すると、現金で持っていたほうがいいということになる。
- 12. それ以外にも、金利の不確実性が流動性選好をもたらすという根拠はある。人によって金利変動リスクの評価はちがう。世間とちがう評価をした人は、世間の意見で決まる金利にしたがうよりは、自分で現金で持っていたほうがいいと思うだろう。
- 13. これは前に、資本の限界効率の話で述べた議論とかなり似ている。将来の金利が市場の見通しより高いと思う人は財産を現金で持ちたがるし、低いと思う人は借金して債権を買おうとする。この両者の売買のバランスで金利が決まる。
- 14. つまり流動性選好の動機は3種類。(i) 取引動機:目先の取引用に現金がほしい場合、 (ii) 用心動機:総リソースのうち一定部分を現金で持ちたいという願望、(iii) 投機動機:市場の見通しと自分の見通しの差で儲けようとする願望。ここでも、高度な投資市場があることが必ずしも有益とは限らない。投資市場がなければ、用心動機が強くなる。でも投資市場があると、投機動機が増えて流動性選好は乱高下しかねない。
- 15. 取引動機と用心動機からくる流動性選好は、金利の変動にあまり敏感ではない。これが大きければ、現金の大半はその部分にまわり、投機の部分で動くお金はつりあいが取れるかもしれない。でもこの部分で短期の投機需要しかないと、お金が増えるとすぐに金利が下がって、取引や用心の部分でその現金を吸収することになる。
- 16. お金の量と金利との関係を描いた流動性選好のグラフは、お金が増えると金利が下がるなめらかな曲線になるはず。理由はいくつかある。
- 17. まず、金利が下がると、取引動機による流動性選好に吸収されるお金が増える。金利が下がると所得が増えるので、それに応じて取引に使われる現金も増えるし、金利が低いので金利所得の減少をあまり心配する必要もない。また金利が下がると、市場とはちがう将来の金利見通しを持つ人も増えて、かれらが現金を持ちたがる。
- 18. それでも、お金の量を大きく増やしても金利があまり変わらないこともあり得る。お金の量を増やしすぎると、将来の見通しの不確実性も大きく高まってしまい、用心動機からくる流動性選好が高まってしまうかもしれない。将来の金利の見通しについて、万人が同じ見通しをもったら、現在の金利がちょっと変わるだけで現金が大量に動くことになる。おもしろいことだけれど、このシステム全体の安定性は、その不確実性についての意見が多様であることで担保されているわけだ。イギリス人はみんな意見がちがうけど、アメリカ人は右へならえでみんな同じ意見を持つから、お金の量で金利を操作しようとするのはアメリカでのほうがリスキーかもね。
Section III
- 19. それはさておき、これでお金が初めてきちんと導入されたことになるし、お金の量が変わると経済システムにどんな形で作用するかもちょっと見えてきた。ただし、まだ注意点がある。お金の量を増やすと金利は下がるのが通常だけれど、世間の流動性選好がお金の量より大きく増えたら、金利は下がらない。金利が下がると投資が増えるのが通常だけれど、資本の限界効率がもっと急激に下がっていたら、投資は増えない。投資が増えれば雇用も増えるのが通例だけれど、消費性向が下がっていればそうならないかもしれない。そして雇用が増えると物価も上がる。これは物理的な供給曲線と、賃金上昇とで決まる。そして産出が増えて物価が上がると、金利を保つようにお金の量を増やすような形で流動性選好が左右される。
Section IV
- 20. 投機動機からくる流動性選好は、拙著『貨幣論』で「弱気の状態 (state of bearishness)」と呼んだものと対応はするけれど別物だ。「弱気」は、資産+負債の価格とお金の量との関係で、金利とお金の量の関係じゃないのだ。こういう扱いにすると混乱が生じるので、本書ではやり方を変えた。
Section V
- 21. 「貯め込み」(タンス預金)の概念は、流動性選好とかなり近いものと考えていい。貯め込み(タンス預金)というかわりに貯め込み性向とかタンス預金性向と言っても、話はおおむね同じだ。でもこの「貯め込み」がホントに現金を手元に貯め込むという話なら、ちょっと不十分だ。貯め込むには、それなりのメリットが必要だ。また、これは世間の意志決定でどうにかできるものでもない。世間の人々が貯め込み性向でできるのは、総貯め込み欲望が現金の流通量と等しくする金利を決めることくらいだ。金利が貯め込みにどう影響するかを見過ごすことで、金利は消費しないことに対する報酬だと誤解されているのかもしれない。実際にはそれは、タンス預金の形で現金を貯め込まないことに対する報酬なのだ。
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2011.10.10 YAMAGATA Hiroo (hiyori13@alum.mit.edu)
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