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ケインズ『雇用と利子とお金の一般理論』要約、8 章
山形浩生 (全訳はこちら)
第III巻 :消費性向
訳者の説明
この第3巻は『一般理論』の一つの山。消費性向と乗数理論、そして「無駄でもいいから公共事業やって雇用作り出せ」「なんならお金を埋めて掘り出させるだけでもいい」という有名な話が出てくる。
- 第8章:稼ぎのうち、消費される部分の比率が消費性向。消費されない部分は貯蓄される。それは投資にまわさないと失業が発生する。
- 第9章:消費性向が変わる理由はいろいろある。でもミクロな話だけでなく、マクロな話もきちんと考えないとまちがえるので注意。
- 第10章:投資にまわるお金とそれが総雇用を増やす量との間には比例関係がある。それは社会の平均ではなく限界で考える必要があるので注意。ここから、失業が多いときにはだめな公共事業でもいいからやれ、という結論が出てくる。何ならお金を埋めて掘り出させるだけでもいい(が、これは極論。できればもっと有益なことをしようぜ)
8 章 消費性向: I. 客観的な要因
Abstract
- 雇用水準は総需要で決まる。需要は、総消費と総投資で決まる。
- 人は稼ぎのうち一部しか消費しない。その消費する率を決める関数が消費性向だ。
- 消費されない部分をそのままにしたら、失業が発生する。その分は投資で補うしかない。
- また減債基金とか修繕用積み立てなんかはマイナスの投資として機能するので注意しよう。アメリカやイギリスの恐慌はこうした積み立てがやたらに推奨されるせいかもしれないよ。
本文
Section I
- 1. 定義の話が終わったから、もともとの「雇用の量は何で決まるのか」という問題に戻ろう。総需要と総供給の交差する点で決まるんだ、というのはもう述べた。総供給のほうにも問題はあるけれど、これまで見過ごされていたのは総需要のほうなのでそっちを見よう。
- 2. 総需要関数は、雇用水準と、その雇用水準で得られる「稼ぎ額」との関係をあらわす。この「稼ぎ額」は、その雇用水準での経済全体での消費総額と、投資総額との合計になる。ここでは消費総額だけを見る。
- 3. ということは、本当ならここで、ある雇用量 \(N\) に対して総消費 \(C\) がどれだけになるか、という関数を導きたいところ。でもそれはむずかしいので、総所得 \(Y\) と総消費 \(C\) の関係を考えることにする。すると、\[C = \chi Y\]
という関係がなりたつはず (訳注:原文では、\(C\) や \(Y\) はすべて一人あたり賃金で測ったもので、添え字 \(w\) がついている。あまり意味はないので、ここでは略している)。この関数 \(\chi\) が、消費性向というやつだ。関数 \(\chi\) , つまり社会全体がどれだけ消費するかは (i) どれだけ稼ぐか (ii) その他客観的条件 (iii)心理的なクセとかその他主観的条件 で決まる。主観条件は次の章で見るけれど、ここではまず客観的な条件から考えよう。
Section II
- 4. 消費を左右する条件としては:
- 4. (1) まず、一人当たり賃金の変化がある。同じだけ働いても賃金が上がったら稼ぎが増えて消費は増える。
- 5. (2) 所得と純所得の差。たぶんかなり一定。
- 6. (3) 純所得に算入されない資本価値の突発的な変化。手持ち資産の価値が暴落したら、消費を差し控えようと思うよね。
- 7. (4) 時間割引率の変化。これは金利と似ているけれど、その他にリスクの上乗せ分も含む。金利が同じでも死ぬ確率が増えたら消費額は増える。でもまあ金利と同じと考えていいか。
- 8. ちなみに古典理論では、金利と消費は反比例することになっていた。でも、金利によって銀行預金がどんどん増えている人はその分消費を増やそうと思うんじゃないの? だから全体としての影響ははっきりしない。
- 9. あと、将来見通しが急に不透明になって消費性向が大きく変わるのもここに含めよう。
- 10. (5) 財政政策の変化。課税の変化によって消費の動向は左右される。
- 11. それと政府が債務返済用に徴収する減債基金にあてられる分も影響する。
- 12. (6) 将来の所得変化の見通し。一応いれとくが、個人では意味があっても経済全体で見たらあまり影響しないと思う
- 13. こうして考えると、どれを見てもあまり大きな変化要因はなさそうだから、消費性向ってのはあまり変わらないんじゃないかと思う。
- 14. 消費支出は全体としてみると、総産出と雇用だけでだいたい決まっているようなので、それを「消費性向」という一つの関数にまとめてもいいんじゃないかな。他の条件は全部そこにひっくるめていいんじゃないかな。
Section III
- 15. 消費性向がかなり安定したものなら、その関数はどんな形なんだろうか。
- 16. 心理的にはどう考えても、人は所得が増えたからといって、その増分をすべて消費にまわしたりはしない。要するに、dC/dY はいつもプラスだけれど1より小さい。
- 17. これは特に短期の場合にそうだ。短期だと、人の習慣が変化するだけの時間がないからだ。
- 18. 所得が増えると、所得と消費の差額(つまり貯蓄)も増える。そして所得が増えるほど、消費にまわる割合は減る。
- 19. でも雇用が減って所得総額が減ると、政府は借金しても消費を保とうとし、個人も貯蓄を取り崩すから、消費はそんなに減らないかもしれない。減るときも、消費は所得ほどは減らない。
- 20. つまり雇用を増やして賃金で支払う分が増えても、消費はその分ほどは増えないので、投資でそのギャップを埋めないといけない。だから雇用増は投資増と対にならないとダメだ。
Section IV
- 21. 雇用は期待消費と期待投資の関数だが、消費は純所得の関数で、だから純投資の関数にもなる。投資のために付加的な支出がたくさんいるようなら、消費はおさえられる。
- 22. でも、ある雇用水準の元で手持ちの資金が投資額と消費額を上回ったらどうしようか。そうしたらそのお金は新しい投資に向かうしかない。
- 23. たとえば家の減価償却分が減債基金に入ってまったく使わなければ、その分は雇用を引き下げてしまうが、家の再建時にはその分が一気に有効に使われる。
- 24. 規模が一定の経済だと、減価償却分は、その年に新たに建てられる建物の分で相殺されるのでこの話は特に意味はない。でも急成長した経済が急に横ばいになったら、減価償却分を補えるほどの投資がしばらくは起きない。急速償却が認められたりしている場合にはなおさらだ。
- 25. アメリカでは1929年に数年にわたる新規建設ブームがあって、そのための減債基金が貯まりすぎて、それをどこかに投資するしかなかったけれど、その行き先がなかった。これも恐慌の原因となっただろう。堅実な会計の名の下にこうした減債基金がたくさん設置されて、事態はさらに悪化した。
- 26. 現在のイギリスでも第一次大戦以来、新規の住宅などの投資が多くて、減債基金がたくさん設置された。それは政府が地方政府に義務づけたりまでしている。でもこれが失業を悪化させている面も大きい。
- 27. これはイギリスにおける総投資と純投資の実際の数字を見てもわかる。
- 28. クズネッツもアメリカの数字を見て似たような結論に達しているよ。
- 29. 1925-29年は資本形成が盛んだったが、その後は純資本形成は急落している。
- 30. が、閑話休題。でもすでにかなり資本のある社会では、この分を社会全体の所得から差し引く必要があるし、それはかなり大きくなることをわかってくださいな。
- 31. 当然のことだけれどあらためて繰り返すと、経済活動はすべて消費するために行われる。雇用機会は総需要だけで制約される。総需要は現在の消費、あるいは現在の時点で将来消費のためにとっておかれる部分で決まる。みんながあまり将来の消費のために貯金すると、それは総需要を減らしてみんなが苦しむことになる。でも、所得が増えれば消費との差も増えるのでこれは解決がむずかしい。ある程度失業が生じることで、消費が所得より少なくなる分が制限されるようにするしかない。
- 32. 別の言い方をすると、現在の消費は、現在作られたものと、過去に作られたもので行われる。過去に作られたものが多ければ、現在作られるものに対する需要は少なくなる。現在の消費性向を減らしてその分を投資にまわしたら、いつか消費性向が高くなって投資による生産を吸収できる見通しがないと、必ず将来に失業をもたらす。
- 33. この話は通常は公共投資の場合でしか考えられないけれど、民間投資にもあてはまる。でもなかなかこれは理解されない。
- 34. これは投資というものを消費とまったく独立に考えてしまうから生じるまちがいなのだ。
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YAMAGATA Hiroo (hiyori13@alum.mit.edu)
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