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ケインズ『雇用と利子とお金の一般理論』要約、6 章
山形浩生
6 章 所得、貯蓄、投資の定義
Abstract
- 所得とか貯蓄とか投資の定義はいろいろあるので、ここできちんと定義する。
- なるべく会計的に筋の通った考え方をしよう。すると、社会全体では総投資と総貯蓄が必ず一致することがわかる。
- (ちなみにここに出てくる A だの G だの U だのという記号はこの先一切出てこないので、まったく知る必要なし! 本章の意義はクルーグマンの解説を参照.)
本文
I 所得
- 1. 適当に期間を取ると、その間に企業家は、作り上げた産物をAという値段でだれかに売っている。また、他の人が作ったものをA1という値段で買っている。さらに設備とか産物の在庫とか原材料とかの資本設備Gを持っている。
- 2. するとその期間にその人は、A だけ売って、A1 だけ買って、G 持っているので、手持ちは A+G-A1 ってことになるが、その一部は前から持っていた資本設備のおかげだ。その分を差し引くとこの期の正しい所得が出る。
- 3. 差し引き分を計算する方法は二種類ある。供給側から入る方法と、需要側から見る方法だ。
- 資本設備の価値Gは、その人が過去に仕入れたり設備のメンテをした結果として生じた。製品の生産に使わなくても、最適なメンテ水準というのはあったはず。この期にこの設備を生産に使わなくても、B'のメンテをやって、期末の価値が G' だったとしよう。すると生産に使わなかった場合の設備純価値最大値は G'-B' となる。一方、使った場合の純価値は
。この両者の差が、Aの生産で使われた分ということになる。この差を、利用者コスト U と呼ぼう。そして生産に使う原材料や労働を、A の要素コスト F と呼ぼう。
が A の生産にかかわる総費用だ。
すると企業家それぞれの純所得は
だ。そして経済全体で見ると、だれかにとっての F は、別の人にとっての A の一部だから相殺される。したがって経済全体の純所得は A-U となる。
これであいまいなところはないでしょ?
あと、利用者コスト U がマイナスになることもある。でもこれは例外的な場合だけだ。
ついでに、期の経済全体の総消費
になり、総投資
になるよ。
あと、有効需要というのは純所得とかを無視して費用も何も含めた総売上だと思えばいい。
またこの定義は、限界売上を限界要素費用と等しくできるというメリットもあるのだ。
- いまの話は企業家の自発的なメンテ支出等々から導いたもの。でも自発的でない偶発的な損失や陳腐化にともなう価値の滅失なんかがある。そしてその中には、突発的なものもあるけれど、予測のつくものもある。この予測のつく分(陳腐化とか経年劣化とか)を補助コスト V と呼ぼう。
つまり純所得や純利益は、総所得や総利益から補助コストを引けばいい。だから総純収益はA-U-Vと表される。
Vは心理学的に重要で、その大きさによって短期の消費が左右される。
あと、予測のつかない偶発的な設備の滅失というのもあるがその推定はむずかしくウダウダ。
めんどうくさいしどうせ予測できないんだから、まあ補助コストに含まれることにしちゃいましょう。
結局この定義は、マーシャルやピグーによる所得の定義とかなり近くなったね。
- 4. てなわけで、純所得の定義ができたが、まだあいまいなところが残る。ハイエクの議論はこうした定義の差から生じている。
- 5. ちなみにこの定義はなるべく慣用に近くなるようにしてある。拙著「貨幣の理論」ではちょっと特殊な定義を使ってしまった。あれは今にして思えばまちがい。混乱させてごめん。
II 貯蓄と投資
- 6. 貯蓄と投資という言葉はいろいろ定義がありすぎる。貯蓄は、収入から消費を引いたものだというのはみんな合意する。所得はさっききちんと定義した。すると問題は消費ということばで、往々にして消費する消費(支出)と投資の消費(支出)とがごっちゃになっている。でも消費支出はさっきの話で
だと言えば厳密に定義できる。ちなみにもう総和記号はこれからつけないことにする。<
- 7. 収入と消費が定義されたから、貯蓄も簡単に定義できる。収入から消費を引けばいいから、(A-U) - (A-A1) = A1-U ってことだ。
- 8. 同じように、短期の投資も定義できる。短期の投資はその期の生産活動で資本設備に追加された価値だ。これは明らかに、さっき貯蓄として定義したものと同じになる。だって、これはつまり所得のうち消費されなかったものってことでしょ。なら同じだ。
- 9. つまり貯蓄は個別消費者の集合的な行動の結果で、投資は個別投資家/事業家の集合的な行動だけれど、どっちも所得から消費を引いたものだから、必然的に同じになる。これはアイデンティティだから絶対に揺るがない。
- 10. なぜこの恒等関係ができるかというと、取引ではその資本設備の生産者と購入者がいるからだ。片方の払った分が厳密に片方の儲けとなる。総和を考えると、さっきの恒等関係が成立し、投資と貯蓄は等しくなる。
- 11. (貯蓄したいという人と投資したいという人とがうまくマッチしない場合があるんじゃないの? という反論はあるだろう)。もちろん両者がお高くとまって取引が成立しない場合は理論的には考えられるけれど、実際にはだいたい折り合いのつく価格がある。
- 12. (どうしても両者が等しくなるという発想になじめなければ)考え方としては、貯蓄を考えるよりも人が消費をどういうふうに決めるかを考えた方が理解しやすいかも。消費額はみんな勝手に決められる。でも投資や貯蓄は、その消費の結果としてどうしても制約されてしまうでしょう。その意味で今後は、貯蓄性向を考えるよりむしろ消費性向を考えて議論を展開しよう。
おまけ 利用者コストに関する付記
- (話がさらに細かくなるので略。興味があれば実物を読んでください)
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YAMAGATA Hiroo (hiyori13@alum.mit.edu)
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