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e-candy連載
「教えてっっ、山形さん」第 2+3 回(最終回)

株式投資を勧める人々。

山形浩生

 オンライン株式取引とか、いろいろ世間的には言われている。でも多くの人は、なんかよくわからないけどもうかりそうだとか、なんかいいらしいとか、本当に漠然とした考えしか持っていない。

 たとえば、である。株ってなに? ときかれたときに、答えられる人はとても少ない。どういう仕組みになっていて、なんで人がそんなものをそもそも買うのか、株を持っているとなにができるのか、というようなことをさっぱりわかっていない。多くの人は、株を買うと、上がって儲かるか、下がって損するかだ、ということは知っているけれど、それ以上のことは知らない。

 たとえばここに、ある証券会社のファンドマネージャーが書いた、「株式投資は知的ゲーム」なるエッセイがある。で、この人はこんなことを書いている。

「株式投資はいいことだ。株価は会社の利益を反映する」
「投資をすることによって自分の好きな企業のサポーターになりつつ、その会社の利益をともに享受する、そしてそれが日本を動かす力になれば、こんな痛快なことはないだろう」

 そしてこの人がこのエッセイで提案しているのは、会社の製品のかわりにその株を買うことだ。お茶が好きな人は、お茶のかわりにお茶会社の株を買おう、と提案している。そうすればあるお茶会社の株はあがっていたから、あなたも儲かっただろう、と。

 さてどうして株に投資することが、その会社のサポートになるんだろうか。あなたは答えられるだろうか。

 よくある誤解なんだけれど、自分がある会社の株を買うと、そのお金はその会社に入るもんだと思っている人が結構いる。たとえばある会社の株を買ったとしよう。一株100円で、1000株買った。だから10万円。多くの人は、このお金がその会社にいくんだと思っている。だからこういう記事で「投資をすることによって自分の好きな企業のサポーターになりつつ」なんていうのを読んでも、フンフンという感じで納得してしまう人も多い。

 でも実は、あなたがこの会社の株をいくら買っても、この会社には一銭もお金は入らないのだ。だから、株を買ってあげたところで、その会社を直接サポートしたことにはならないのだ。

 じゃあ、あなたがその株に支払った10万円は、だれにいくんだろう。

 その株を売った、どこかのだれかだ。その会社にお金が入るのは、その株が最初にその会社から発行されたときだけ。あとは、それを買った人の間でお金がぐるぐるまわるだけなの。

 これは日本人だけの誤解じゃない。アメリカの環境団体なんかがよく、Aという会社は環境に優しいことをやっていてえらいから、みんなでAの株を買って応援しよう、というような議論をする。あるいはむかし『ワイアード』という雑誌で、iMacを買うのもいいけれど、みんなでアップル社の株を買って応援してあげたらどうかな、という冗談まじりの記事もあった。でも、それはあまり役にたたない。

 じゃあ、冒頭で紹介した人の書いてあることはでたらめなのか? そうとも言えないのだ。みんなが株を買ってくれれば会社としてはうれしい。それは事実ではあるんだ。でもそれは、かなり面倒なプロセスを経由しての話になる。

 みんながこの会社の株を買ったとする。すると、この会社の株の値段はあがる。すると会社の株主さんたちはうれしい。だって自分の持っているものの値段がどんどんあがるんだもの。すると、会社の人たち(会社で働いている人たち)もうれしい。なぜかというと、会社で働いている人たちは、基本的には株主を喜ばせるために働いている(ことになっている)からだ。株式会社を所有しているのは株主だ。株主総会で株主たちが決めたら、社長のクビでもなんでも飛ぶ。社長や経営者は、株主たちに雇われて会社の運営をしているにすぎないんだ。

 というわけで、株を買って会社のサポーター、というのは、かなりまわりくどいやりかただ。商品を買えば、その会社の売り上げがたつ。その会社に金がいく。そのほうがずっとすっきりしたサポートだ。

 さらには、株を買ったりするとその会社がかんちがいするおそれもある。たいがいの会社は、複数のいろんな製品を出している。たまたま自分の好きな製品を出している会社の株を買ったとしよう。でもそのときその会社は、なんかぜんぜんダメな製品に手を出そうとしてるかもしれない。

 ふつうは、そういうときには株価が下がって、経営陣は「ありゃ、まずかったかしら」と思うようになっている。でもそこであなたが株を買って株価があがっちゃうと「あ、みんなオレのやろうとしていることを評価してくれてる!」と思って、そのまちがったことを続けてしまう。逆にみんなが、お茶を買う代わりに株を買ったとする。お茶は売れなくなるので、会社はそのお茶をやめてしまうかもしれない。株は会社全体の評価につながるものだから、買うときだって会社全体としてやってることを見なきゃダメだ。そうでないと、サポートどころか足を引っ張る結果になりかねない。

 さらにもう一つ、てっぺんで出てきた例を考えてみよう。毎日、緑茶飲料を買うかわりに、その分のお金をその飲料メーカーに投資していれば云々、という話だった。うんうん。でも、あなたはなぜ毎日お茶を買うんだろう。のどが乾くからだ。お茶を買うかわりに株を買ったとしよう。のどの乾きはとまるだろうか。まさかね。

 この人のあげるほかの例もすべてこの調子だ。「家族で週に一回飲みにいっている人が、そのお金を飲み屋のチェーンに投資していたら、えらく儲かっただろう」っていうんだけど。そもそも「家族で飲みにいく」という発想自体、この人がフツーの日本人家族の実態からいかにかけ離れているかを物語るものだけれど、それはいい。

 でも、たまたまこの人が見たチェーン(ファミレスと居酒屋の中間って、どうせワタミだと思うなぁ)はあがっていただろうけれど、ほかのとこはどうだろう。たぶんほかの居酒屋や外食チェーンは、そんなに上がっていないだろう。

 あるいは、「携帯電話を買って通話料を払っている人が、その分のお金を携帯電話加入代行業に投資したら」。株価が何倍になろうと、電話できなきゃ意味ないじゃーん。

 つまり株を買うのと、ある商品を買うのとでは、そもそもの動機がぜんぜんちがうわけだ。お茶がいいと思うんなら、そのお茶を買うことでそれをはっきり主張しよう。宴会が好きなら、宴会しよう。株は、儲けたいという気持ちから買うべきで、それ以外の不純な動機で手を出しちゃだめだ。

 それともう一つ、ここで使われているのは、昔からよくある株屋さんの売り込み手口だ。あがった株を選んで、「もし10年前にこの会社の株を買っていれば、こんなに儲かりましたよ」という話。そりゃそうだ、10年前にマイクロソフトの株を買ってれば、20年前にソニーの株を買ってれば、大もうけできただろう。でも、当時はそのソフト会社がマイクロソフトになるかはわかんなかったわけ。マイクロソフトにあたってりゃラッキーだが、つぶれたソフト会社なんて山ほどあるもんね。

 さてこれを書いた人は、もちろん株のなんたるかを知っている(はずだ)。だから上に書いたようなことはわかっている(はずだ)。それなのに、なぜああいう不用意なことを書いちゃうんだろうか。その答えは、この人の肩書きを見ると見当がつく。この人はジャーディン・フレミング投資顧問という会社にいる。まあ証券屋なんだ。あなたにちょっとでもいいから、株やファンドを買ってほしいんだ。あなたがもうかるかどうかなんて気にしちゃいない。もちろん、株を買って損をした人は、もう株に手を出したがらないだろうから、その意味では儲かってもらうにこしたことはない。でも最終的には、それがあなたにとって本当に有益なことかどうかをこの人は心配してくれない。自分の扱いの手数料が入れば、それでいいというだけだ。

 株のもう一つのむずかしいところは、ここにある。株だけじゃないんだけどね。株を日々扱っていて、それに詳しい人たちは、株屋さんだったりする。保険は、保険屋さんがくわしいはずだし、家は不動産屋がくわしいはずだ。でも、それぞれのところは、それぞれの利害がある。みんな、なるべくなら株や保険や不動産を売りたいなー、と思っている。それはどうしても、いろんな発言や行動に反映されてしまうんだ。

 かれらも悪意があるわけじゃない。あなたをだまそうとも思っていない。最初に紹介した記事を書いた人も、たぶん自分では、本当に読者のためになることを書いているつもりなんだろう。それでも、たとえば最初に紹介した変な発言をついしてしまう。

 こういう現象はいろんなところにある。タッパーとか洗剤の販売員にはまってる人がまわりにいないだろうか。宗教団体の勧誘をしたがる人がまわりにいないだろうか。そういう人たちは、本当に世界を救おうと思って、あるいはあなたのためだと思って、毒ガスをまいたり、変な洗剤を売りつけたりする。かれらはそれが悪いことだとはまるで思っていないし、あなたをだまそうなんてぜーんぜん思ってない。自分の私利私欲でそれをやっているとも思っていない。それどころか、こんなに誠心誠意あなたのためを思っているのに、どうしてわかってくれないのかしら、と真剣に悩んだりしている。それと同じことなんだ。人はちょーっとずつ、自分の都合のいいようにものの見方を変える。都合の悪いことにはついつい目をふさいでしまう。特にお金がからむと、人は本当に目がくらんでしまうんだ。だから、気をつけなきゃならない。おいしい話を持ってくる人がいたら、必ずその人の発言の裏を読むようにしなきゃならない。この株は絶対に儲かる、といって奨めてくる人がいたら、必ず眉にツバをつけてかからなきゃいけない。

 これは雑誌の記事なんかでもそうだ。セールスマンが直接やってきたら、さすがにみんなも警戒する。でも雑誌の記事なんかだと、結構みんな気軽に読んで納得してしまう。が、そういう記事にさえ、実は隠された下心がこもっていたりする。投資をするなら、そういうのを見抜けるようにならなきゃダメだ。そしてそれはそれで、結構気づかれすることなんだというのも知っておいたほうがいいかもしれない。

 さて、今回の話はいろいろもりだくさんだった。一つは、株ってなんなのか、という話(のほんの一部)だった。そして自社の株価があがると企業はどうしてうれしいのか、という話をした。そして最後に、株を勧める人の思惑、という話をした。株式投資はいいことだ、とは別にぼくは思わないけれど、悪いことだとも思わない。ただしそれは、自分がなにをやっているかわかっていればの話。株式投資ってなんなのかきちんとわかってからの話。そこらへん、ちょっと考えてほしいなと思う。さてここで問題。いったいこの山形ってやつは、なんでこんな記事を書いているんだろうか。この山形の下心ってなんなんだろうか。今回の記事を読んだあなたたちは、早速そういうことを考えはじめなきゃならない。

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