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e-candy連載
「教えてっっ、山形さん」第 1 回

お金を増やすことと使うことについて考えよう。

山形浩生

 ようこそ。じゃあはじめようか。

 ……こう書いて、ぼくはすでにかなり絶望してとほうにくれている。あなたたちにいったい何を伝えようか。あなたたち(とぼくが言うときに想像しているのは、ぼくの勤め先の同僚の女の子たちなんだけれど)にとって本当に役にたつことってなんだろう。それを考えてふと目をあげると……そこに広がっているのは果てしない荒野だったりするんだもの。

 ぼくはここで、お金の話を書くことになっている。お金の話というのは、結局は三種類しかない。どう稼ぐか、そしてどう貯める・増やすか、さらにどう使うか。この3つだけだ。
 このなかで、どう稼ぐかについては、まあここでどうこう言っても仕方ないな。転職雑誌を見てほしい。使う方も、まあ好きに使ってくれればいいんだけど(ただ、ぼくはここんとこが実はかなり大事だと思っている。この話、ちょっとまたあとで)。だから話の中心は、運用とか貯金とか、手元にお金があってそれをどうしようか、という話になる。

 でもそれを考えてみると、実はあなたたち(いや、それをいうならこのぼくだって同じなんだけれど)に与えられているオプションというのは本当にチンケで少ないんだ。「日本人は資産運用を考えない、郵便貯金で安心だと思ってる」というような話をよくきくけれど、そりゃそうだ。だって、大した差はでてこないんだもん。考えるだけ無駄なんだもん。

 たとえばあなたたちの貯金はどのくらいだろうか。中にはカードローン地獄で借金漬けになって、給料すべて利息だけでとんでくような人もいるだろうし、貯金が趣味で数千万ためこんでる人もいるだろう。まあ平均して、百万、二百万くらい貯めていることにしようか。さて、これを運用するのにいろんなやり方があるんだけれど、まともなやりかただとせいぜいが郵便貯金より利率が1%かそこら上、というくらいのもんだろう。金額にして年に一、二万。でかいにゃでかい。が、そのための苦労と見合うだけの稼ぎになっているか? どうだろう。これは考える必要がある。お金は単に稼げばいいもんじゃない。それにつぎこんだいろんな資源(労働とか時間とか冷や汗とか)と見合った稼ぎが得られてるかってことがだいじなの。

 ただいくつか考えておくべきことはあるんだろう。金は、借金までして湯水のように使えるもんじゃないのは、たいがいの人は理解しているだろう(というか、長続きはしないよね)。でも、爪に火をともすような真似してためこむのがいいわけじゃない。なんかそこでバランスってのがあるはずだけれど、どう考えればいいんだろう。あるいは、ローンってどのくらいならいいんだろう、とかね。単に100万持ってて、これどうしましょう、という話と、ここからさらに元金も積み立てて、さらにそれを利息や運用で大きくしていこう、というのとではいろいろ考え方もちがうだろう。その中で、オンラインなんたらいうものも、それなりの意味を持つ場面も出てくるだろう。

 ただ、お金の話はいろいろ注意しなきゃならないことがある。『ナニワ金融道』みたいな、どろどろの話もある。ぼくはありがたくも、ああいう世界に触れずにすんでいるけれど、でも、あそこに書いてある話が誇張でもなんでもなくて、みんなよくある話なのも知っている。人間、変な欲を出すと必ずああいう世界にはまってしまう人が出る。あれはためになるから、あれは全巻読んで、気をつけてね。そしてそういうのにはまって尻の毛までむしられないようにするためにも、世の中にあるいろんな「投資」というのがどんな仕組みになっているのかをざっと知っておくことは大事だ。大儲けはできないまでも、大損しないために。

 そこまでいかなくても、たとえば人の話をどう聞くか、というようなこともわからなきゃならない。外貨預金やってますとか、株やってますとかいう人の話をきくと「今年はもう40万もうけました」とかいう景気のいい話がでてきたりする。それで「あなたもやんなきゃ損よ」という話をされる。でも、たまたまある人があるときツイててうまいこと儲かりました、というのと、そういうおいしい話が何度も繰り返して可能です、というのとでは話がちがうんだ。

 あと、そういうことを言う人が、本当に儲かったのかどうかも実は疑わしいよ。本当に高値でドルや株を処分して、現金を手にしました、というのと、いまはまだ株やドルのまま持っていて、仮にそれを今の値段で売ればそのくらい儲かっているはずです、というのとは、話がちょいとちがうんだ。前者は本当の儲け。後者はナントカの皮算用。けれど、「儲かった」という人の多くは、実はその皮算用でしかない。そういうのは、きちんと見分けられるようになる必要がある。

 さて最後に大事なこと。世の中にはオンライントレードの本とか、利殖の本とか、小銭をためてニタニタ悦に入りましょうとかいう本がいっぱい出てる。まあそれはそれでいい。がんばって貯金でもなんでもしてほしい。でも、こういう本の多くは、大事なポイントに触れていない。それは、お金を貯めるには目的があるってことだ。いつかそれを使う予定があるってことだ。
 将来使う予定のない貯金や運用は意味がない。なんのためにどう使うかってことで、貯め方も決まってくる。運用も左右される。使い方が決まっていないと、実は貯め方も運用も決まってこないんだ。

 日本人は、資産運用を考えてこなかったという説がある、とさっき言った。ぼくはその原因の一つは、運用の手札があんまりないこともさることながら、そもそも大した使い道がなかった(まだない)からだと思う。日本の物価は高い、高いと言われる。でも、高いのもさることながら、せこいよね。たとえば家。日本で買える家の水準見ると、やっぱがっかりしてしまう。広さ的にも質的にも。こんな天井の低くて狭苦しい安普請しか、おれたちは買えないのかぁ。それでもみんな、マイホーム目指してがんばったりするけれど、でもまあたぶん、そのがんばり方のせこさと、買える家のせこさとは、かなり関係があるはずなんだ。

 もっと小物でもそうで、たとえば「JJ」とか見ると絶望しない? こう、ゼツボ〜〜っていう。でてるものも、その出し方も、ことごとく下品でセコくて悪趣味なのでドヨーンって感じだし、それを実際に鵜呑みにしてまねしてる連中が実際にいるってことで、なんか頭痛がしてくる。でも、その程度の選択しかないのも、かなり事実ではあるんだろう。ホントの金持ちって、実はそんなせこいものをいちいち買ったりしない(成金はのぞく)。でも買うときにはえらく合理的に、かなり高いものでもスパーンと買う。「JJ」とか各種メンズ雑誌と称する代物には、そういうメリハリが皆無で、だから貧乏くさくて情けないわけ。右から左に使うしか能がなくて、運用してどうとかいう発想のなかった貧しさが露骨に出ているわけ。

 さて、あなたは将来、自分がお金をどういうふうに使うか、どこでどういう大きな買い物をするか、考えてあるだろうか。だいじだよ、これ。この話もいつかしないとね。

 てなわけで、これからしていくのはこんな話だ。でも、別に「身近なナントカ」とか、みたいなせせこましい話をしようってんじゃない。実はいま、上にウダウダと書いたけど、あそこに書いた話でファイナンスの大事な考え方は、まあ半分くらいはすでにカバーされているんだ。資産とかお金の運用ってことを考えはじめた瞬間に、ある意味であなたは世の中のヘッジファンドのマネージャとか、ウォール街の連中と、一種対等な土俵に立っているといっていい。理屈は同じだ。それをきちんと理解することで、実はいろんなことがもっとよく見えてくる。これからしばらく、そういうのをぼちぼちとカバーしていこうではないの。じゃあまたね。

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