山形道場 第 96 段

今月の喝! 百ドルパソコンと、中古パソコンリサイクル制度

(『CYZO』2007 年 05 月)

山形浩生

要約: 100ドルパソコンなんてのが話題になっているが、安いパソコンのニーズがそんなにあるなら、中古車市場のような中古パソコン密輸ルートが途上国にどんどんできているはず。途上国の人だって、本当に有益なものはちゃんと自腹を切って手に入れるんだから。それがないってことは、100ドルパソコンなんてモノにニーズはないってこと。



 いまやもう「あの人は今」的な過去の人になりつつあるニコラス・ネグロポンテが、ここ数年一生懸命旗をふってきた100ドルパソコンがそろそろ形になってきたようだ。百ドル以下で、無線LANと手回し式充電器を装備したラップトップをたくさん作って、それを途上国の子どもたちにばらまこうというプロジェクトだ。実際にやってみたら、あちこちがんばっても百ドルに収まらず、百五十ドルくらいになっちゃったそうだけれど。すでにいくつかの政府から引き合いがきているとか。

 そしてそれに対抗しようとして、インテルなどが四百ドルの廉価版パソコンを作ってばらまく計画を実施しており、これまたいくつかの途上国政府が導入決定したりしている。

 あーあ。ぼくはほぼ確実に、まったく使われない無駄な代物となって笑いもののタネになるだけだと思う。だって、本当に必要なら、途上国の人たちはすでに自分で導入の努力をしているはずだもの。

 いい例が自動車だ。途上国の人々でも貯金して、借金して、おんぼろ中古車でも手に入れる。発展途上国ではよく、日本の中古車が「京都市バス」とか「西村製麺所」とか昔の看板やロゴそのままに走り回っているほほえましい光景をみかける。先進国の中古車を輸入して販売するビジネスはどこの国でも大流行だ。あるいは携帯電話をごらん。月に一ドルの電気代を払えないとゴネるアフリカの村人でも、数十ドルのお金をどこかから工面して電話を手に入れ、利用している。そしてどの国へいっても、中古携帯電話市場は大いに発達していて、ついでにそういう店ではSIMロック解除から何から、必要なサービスは何でもやってくれる。

 そのとき「途上国向けの三百ドル自動車を作ろう」「途上国向け十ドル携帯電話を作ろう」なんて話はする必要がない。しなくても、人は必要なものを見つけてちゃんと買うんだもん。逆にそういう余計な公共の手出しは、そうした現地の人の健全な創意工夫に基づく健全な中古ビジネス等々を破壊するものとなりかねない。

 パソコンだってちゃんと途上国に中古市場はあるのだ。日本にはパソコンリサイクル制度という変な仕組みがあって、古いパソコンはリサイクルセンターとやらに戻さなくてはいけない。そのためのお金が新品の購入料金に上乗せされている。でも実際にこの制度でリサイクルされているのはほんの1-2割程度らしい。他のはどうも中古で外国市場に流れているとか。魚心あれば水心。通常は、変な規制がなければ必要なものは必要なところにまわるのだ。時に時間はかかるけれど。

 で、途上国の学校や子どもたちは本当にこんな百ドルパソコンを必要としているの? もしそうなら、一部で中古パソコンがガキに与えられるような光景が見られそうなもんだが、そんな様子はない。日本でも欧米でもいろんな学校にパソコン導入したけれど、何か成果があったっけ? 上からのお仕着せで人々が求めてもいないものを押しつけるばらまき政策は、死屍累々。百ドルパソコンが多少なりともましであろうと思える要因は……まったくないと思うんだが。今プロトタイプができても、その量産が軌道にのる数年後には、たぶんスペック等々が陳腐化してもうだれもほしがらなくなるのは見えている。

 そんなことをするより、たとえば先進国からの中古品流通がしやすいようにしてあげたほうがいいと思うんだけどね。特に日本は、全然機能していないうえ、だれもやりたいと思っていないパソコンリサイクルなんていうくだらない仕組みをやめるとか。そのほうがあらゆる関係者にとって有意義と思うよ。どうせほっといても中古市場に流れてるんだし、その自然な流れをじゃますることもないでしょうに。

近況:年度末の事務処理がかなり杓子定規になってきて大変苦労しておりますが、何とか乗り切れた模様です。


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