CYZO 2006/3号。表紙は新垣結衣 山形道場 復活第 ?? 段

今月の喝!「株式分割も説明できないマスコミ」

(『CYZO』2006 年 3 月)

山形浩生

要約: ライブドアの堀江が逮捕されて、ライブドアなら袈裟まで憎い状態で、とにかくライブドアは100倍の株式分割をやった、汚いぞ、といった報道はいろいろされているのだけれど、それがなぜいけないのかはまったくだれも説明していない。株式分割で株価をつりあげたのはよくないというんだが、株式分割それ自体はまったく企業価値を増やさないのは常識。それに踊らされたバカな投資家どもが自業自得なだけ。そんなこともわからずにマスコミは何を騒いでいるのか、バカなやつらだ。



 これが出る頃にはもう時事性がなくなっているだろうけれど、執筆時点ではライブドアが完全悪者状態。で、ライブドアのやったいけないこととして、株価のつり上げを図ったというものがある。粉飾、風説、そして株式分割。確かに粉飾決算はまずいだろう。風説の流布もよくない。これは明らかにウソだからだ。でもよく攻撃されるのが株式分割だ。これは何でいけないの? 今回驚いたのは、各種の新聞やらネットやらの解説のほとんどどれ一つとして、株式分割の何がいけないのかきちんと説明せきていないことだ。

 たとえば SBI の北尾は「株式分割後、株不足の需給要因によって一時的に株価が急騰しても、当然その後は暴落する。株式分割 は本来企業価値には影響がなく、1対100の株式分割は証券界の精励を汚すと非難してきた」と述べている(ラジオNIKKEI 1/26)。企業価値に影響を与えず、価格上昇も一時的だとみんなわかっているなら、要するにどうでもいいってことだ。それがなぜ「証券界の精励を汚す」なんていうご大層な話をされ、罪悪視されるの?

 簡単に説明しておくと、本当であれば株式分割には何も問題はない。値が上がりすぎた株を分割で小分けにし、売買しやすくして流動性を高めようというだけのこと。北尾の言うように企業価値には何も影響はない、形式だけの話だ。

 ただし、いまの説明からわかるように、株式を分割するのは、本来はそもそも値が大きく上昇している企業だけだ。つまり分割するから株価が上がるんじゃなくて、株価が上がるから分割するだけ。でも一部の投資家はバカで、企業の中身なんか見ない。そういう連中は、株式分割をアナウンスする企業はつまり株価の上がる企業である、という解釈をして、その株を買いに走る。すると株価は本当に上がる。自己成就的な予言、というやつですな。そしてこれを逆手にとれば、企業としての内実は何も変わっていなくても、分割をアナウンスするだけでバカがだまされ、株価は本当に上がる。

 つまり株式分割でなぜ株価が上がるか? それはバカな(相当部分の)デイトレーダーどもがうわべだけの話にあっさりだまされるからだ、ということになる。さて、それがいけないことか? バカが尻の毛までむしられて損をするのは世の中当然のことじゃないの?

 ここがむずかしいところだ。たとえ相手がバカでも、意図的にだますのはよくないという考え方はある。さらに、株価の持つ経営の評価という側面が混乱するのも望ましくない。その意味で株式分割の恣意的な利用は、よくはないし、渋い顔をされるのはわかる。が、それだけで決定的に悪いという話はできない。

 というわけで、株式分割の問題点はこのくらいの話だ。そんなにむずかしい話じゃない。が、ぼくが理解できないのは、なぜ世の中のマスコミども、およびそこに出てくる株屋の手先どもは、この程度の説明をきちんとできないか、ということだ。唯一説明らしきものとして見かけたのは、分割された株が出回るまでに、制度的な縛りで少し時間がかかるので、その間に買い手が行列するので株価が高騰する、というものだけど、そもそもその株価が上がるという見通しをみんなが持ってない限り、買い手が行列するようなことはないはずでしょ? これは何の説明にもなってないのだ。

 これをどう解釈するか。マスコミや世の株ヒョーロンカどもが(いつもながら)バカだと解釈すべきか(でもMBAなら知ってるはずの話なんだけどなあ)、それとも上の説明をすると、一部投資家をバカ呼ばわりせざるを得ないから、それを避けたいのか。いずれにしても、日本の株投資ブームの底の浅さをかいま見せる話ではあるんだけどね。もちろん、山形が見落としているだけという可能性もかなりあるわけだけど。

近況:引っ越しで本を段ボール詰めしているが、ほこりがひどくて死にそうでございます。


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YAMAGATA Hiroo <hiyori13@alum.mit.edu>
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