CYZO 2005/03号。表紙はティーンエイジクラブとかいうジャリ集団 山形道場 復活第 ?? 段

今月の喝……ではなく、スリランカ現地報告もどき。

(『CYZO』2005 年 3 月)

山形浩生



 スリランカにきて三日目。報道だと全国が津波被害で悲惨なことになっているかのようだし、それに政府も国家非常事態宣言を出したりしたので、相当ひどいことになっているんじゃないかとおっかなびっくりできたので、半分拍子抜けで半分ほっとした感じ、とでも言おうか。首都……ではないんだが、まあ中心都市のコロンボは、津波被害地域から見て島の反対側にあるので、直接の被害はまったく受けていないので、何も生活に支障は生じていない。新潟の地震は大変だなあ、と東京で言っているようなものだ。ぼくがここにきたのは、津波とはまったく関係ない仕事なのだけれど(津波で中止になるかと思ったら、ならなかった)、地方部の現地調査もしなきゃいけない。でも被災地周辺地域の調査はさすがにできまいなあ、と思っていたら、特に支障はないという。一部にはきついところもあるし、また生活基盤なんかをまだまだたてなおさなきゃいけないのは当然のことだけれど、もう一ヶ月以上たったこともあるし、とりあえず緊急性の高い目先でこなさなきゃいけない部分はひとまず落ち着いたようだ。赤十字も、津波関連では十分な支援が集まったから、これ以上は大がかりな募金呼びかけはしない、と発表している。

 ちなみに新聞が「もう十分募金はきました」という赤十字の発表を報道したとき、「でもほかに募金をもっと寄こせといっているNGOはいるし、そういう報道を削るのはけしからん」と憤っている素人さんがネット上で何人か見受けられた。赤十字がもういらないと言っている報道だけを見たら、そういうNGOへの寄付が減るからよろしくない、というわけ。でも、金をもっと寄こせと言うNGOなんか、いつでもどこでも見つかる。さらに、こういう発言は赤十字(あ、かれらもNGOでございます)が十分な仕事をしていない、まだ支援を必要としている人がたくさんいるのにそれを見捨てているのだ、と言っているのに等しい。でもぼくはそんなことはないと思う。かれらが募金は十分というからには、それなりの手当がすでにできている、ということなんだろうと判断している。

 そして、赤十字がそういうことを言えるほどのお金がこれだけの期間に集まったというのは、ぼくは結構すごいことだと思う。これまでそんなことがあったか? 国際的な災害援助体制というのは、もちろん完璧にはほど遠い。でも、今回はそれがかなりうまく機能した。世界中に情報が伝わり、国や人々はすぐに反応した。なぜそうかについては、まあひねった見方はいろいろある。ファラン向けリゾートがやられて外国人旅行者が結構被害にあったからこそこれだけ騒がれたんだ等々。確かにそういう面はあるだろう。でも、理由はどうあれこれまでにない規模の支援は集まった。金だけじゃない。カンボジアや、ましてイラクではがたがた文句を言われたけれど、でも今回の被災地への自衛隊派遣については、さすがに軍靴がどうしたのと文句を言うやつは(あまり)いない。自衛隊を外国に出せるようにしといて、よかったじゃないか。そしていま人類社会が、かなり大きな国際的災害に際しても、そこそこ上手に対応できるほどの豊かさと能力を獲得できたということが実証されたのは、ぼくとしてはかなり感動的なことではあるのだ。こんどアフリカの奥地でこの手の災害が起きたときにこれほどの支援が集まるか、というのはまだわからない。でも、やり方次第ではなんとかできそうじゃないか。

 ぼくはインフラ屋なので、一刻を争う医療や物資輸送みたいな援助には縁がない。でも緊急援助が一区切りついたようなので、たぶんそろそろ出番もあるんじゃないだろうか。たぶんあと数ヶ月で、もうちょっと被災地に近いところに出かけることもあるはずだ。目新しい話があれば、またそのときに。



近況:というわけで、いまスリランカでございます。その後はまた某途上国の山奥……



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