CYZO 2002/12号。表紙はウォーリーみたいなイラストに「世の中のカラクリがおもしろいほどわかる本」と書いてある 山形道場 復活第 ?? 段

今月の喝! 「世界的な貧富の差の拡大」

(『CYZO』2002 年 12 月??)

山形浩生



 ぼくはいま、この欄でもちょっと紹介した環境問題についての本を訳している。この本の主張は単純で、世界の人々は豊かで健康になってきているし、環境だって改善してきてるんだ、ということだ。それだから何もしなくていい、と言うことじゃないけど、いまぼくたちがやっていることは効果があるんだから、それを続けようという話だ。

 ぼくはこの本を非常に評価しているんだけれど、読んでいて一つ腑に落ちないことがあった。開発援助の世界なんかでは、世界の貧富の差が拡大している、というのが常識になっているからだ。よく言われるのは「アメリカや先進国はますます豊かになり、途上国はますます貧しくなっている、けしからん」という話だ。そしてこれは、多くの反グローバリズム論者が喜々として取りあげる話題でもある。要するに、これはまさにグローバリズムによって先進国が途上国を搾取しているために起きる、という話だ。そしてこれは、いろんな文献でほとんど当然のように言われていることだ。

 もしそうなのであれば、世界環境は平均でよくなっていても、実はその改善は、かなりゆがんだ、途上国に不利な分布になっているんじゃないか? ぼくはそれが気になっていた。世界銀行は、もうとにかく貧困削減をしなければ、と主張しているし。

 が、こんどそれをうち消す研究が出た。コロンビア大学のザビエル・サラ=イ=マーチンの調査だ。実は世界の貧富の差は縮まっている、というのだ。

 かれは、これまでのいろんな国連などの論法をチェックする。そしてその議論が通常二段階になっていることを指摘した。まず、いろんな国の平均所得を比べると先進国と途上国の差は拡大している。そして国毎に見ると、各国内の貧富の差が拡大しているところが多い。だから、地球全体としても貧富の差が拡大している、と結論づけるのがこれまでのやり方だった。

 これは正しくない。問題は最初の部分にある。各国の平均所得を比べると、国の規模が無視される。巨大な途上国が一つ、先進国との差を縮めるように動いていたら……

 そしてまさにそれが起きている。中国とインドだ。国別に見ると、中国もインドもそれぞれ一カ国でしかない。百数十ある国の中で2カ国が豊かになっても、全体の傾向は貧富の差の拡大に見える。でも、インドも中国も、ものすごく人口が多い。したがって、かれらの平均収入が大幅にあがっているので、世界全体としては実は貧富の差は縮小している。世界の貧困国のとても大きなセグメントが、金持ち方向にシフトしているんだ。

 それ以外にも、実はこの分野でも世の中はそんなに悪くなっていない。絶対的貧困者数も減っている。一日の所得1ドル以下の人は1970年には20パーセントもいたのが、1998年にはたった5パーセントになった。2ドル以下の人はも、44パーセントから8パーセントに減った。こういう話であれば、世界環境がある程度改善されていることもうなずけるし、ついでに多くの反グローバリズム論者の議論も根拠レスであることがわかる(ちなみに貧富の差が大幅に縮小して豊かになった国のほとんどは、韓国などのようにちゃんとグローバリズムに参加した国だ)。

 確かにすべてが万全じゃない。貧困が減っているというのと、貧困がない、というのは話がちがう。それにアフリカ諸国はかなり悪い状況にあって、横這いが続いている。これをなんとかしないと、世界的に見て底上げはできない。そしてこれはとてもむずかしい話ではある(ぼくもマラウイに行って頭を抱えている)。ただ、絶望的ではない。なんだかんだいいつつ、これまでのいろんな試みは全体としては成果を挙げている。経済的にも貧困面でも。ということは、ぼくたちも少しは未来に希望がもてるんじゃないか。

*1: Xavier Sala-i-Martin, The Disturbing "Rise" of Global Income Inequality, NBER Working Paper 8904 http://www.nber.org/papers/w8904

近況:世界中とびまわって、日本に戻ってくるとまたもや浦島太郎状態です。でも暗号本やレッシグの次作やバロウズ本や、懸案の仕事がどんどん片づいてとりあえずすっきり。



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