CYZO 2002/10号。表紙は新聞コラージュに「バカの壁を越える新聞の正しい読み方」と赤字に白ゴチで入っている 山形道場 復活第 ?? 段

今月の喝、ではなくまたもやただの報告「H2K2シーランド編」

(『CYZO』2002 年 10 月)

山形浩生



 引き続き、ハッカー大会H2K2の報告。

 H2K2で個人的にいちばんおもしろかったのが、HavenCoだった。ここは、やっていることはふつうのサーバーホスティングでしかないんだけれど、その所在地がおもしろい。イギリス沖合にある「独立国」シーランド上にあるのだ。

 ここはもともと第二次世界大戦中に、イギリス軍がイギリス沖合七海里の公海上(当時の領海は三海里だった)に作った構築物なんだけれど、戦後は遺棄されて所有権の存在しない状態になっていたのだ。それに目をつけたイギリス軍人が一九六七年にここを占拠して家族ともども移住。公式に独立国シーランドの設立を宣言して、シーランドのプリンス・ロイを名乗り国家元首となった。

 さらにある日、英海軍がこのシーランドの領海を侵犯し、シーランドは自衛権を行使して発砲し、英海軍は逃走。これは銃器の違法使用としてイギリス国内で裁判になったんだけれど、「これはイギリス領土内のできごとではないのでイギリスの司法管轄下にない」という判決が下り、シーランドがイギリスの領土ではないことが公式に確認されてしまった。

 さらにドイツ人ビジネスマンが、オランダのマフィアの力を借りて、プリンス・ロイの留守中にこのシーランドを占拠、プリンス・ロイがかつての軍隊仲間に呼びかけて(武器、弾薬、ヘリコプターまで調達して)それを奪還、犯人たちはジュネーブ条約に基づく捕虜として監禁されるという事件があって、オランダとドイツがかれらの解放を求めてイギリス政府にかけあったところ、イギリス政府は先の判決を盾に「あれはウチとは関係ないのだ」と関与を拒否、ドイツは外交官をシーランドに送って正式に外交交渉して、これまたシーランドの独立国としての地位を実質的に認めた。国旗も、国歌も、通貨もパスポートもあるという……(パスポートは本物の数万倍の偽物が出回っているそうなので要注意)

 この場所は海賊放送の発信地となっていた。かなり最近まで、イギリスの放送はBBCが一手に押さえていたけれど、ここの海賊放送はぶっ通しでロックをかけ続けたり、BBCではできないような番組編成が売りだった。が、やがてイギリスの放送もかなり自由化されて、海賊放送も閉鎖となって、そして次にきたのがこのサーバーホスティングだった。プリンス・ロイの息子が非常に入れ込んでいて、いまやこの国の主要産業となっている。

 ここは基本的に、児童ポルノ以外はなんでもあり。小説としてはあまり感心しなかったニール・スティーブンソン『クリプトノミコン』に登場していたようなデータヘーブンとなっているわけだ。もっともあちこちにミラーリングしているので、トレースルートしても必ずしもここには達しないけれど。いまネット業界は規制強化の嵐なので、何の規制もないというのにはみんな驚愕。「でも将来的に何か規制がかけられるようなおそれはないのか」という質問に、「いえ、プリンス・ロイは正式に、そのような規制は将来的にも一切かけないと布告いたしました」との回答にはみんな爆笑。いいねえ、独裁国は。匿名リメイラーとか、いろいろ予定もあるそうな。うまく行けば……といろいろすごい可能性を思わせるものはあるが、もう紙幅がなくなった。

 ちなみにいまは、領海二〇〇海里が通例になってしまっているので、なかなかその外にある公海上に構造物を作るのはむずかしい。そしてそれができたとしても、たとえば北海油田に対する権利などの問題から、公海上の構造物は最寄りの国の領土となるような規定となっており、シーランドのようなものはもう成立しない。残念。また、一般人の訪問も認められていない。これまた残念。



近況:最近、やっているプロジェクトがボロボロです。挽回のため今週はポーランド一 泊二日。その直後にワシントンだけれど、それでもダメだろうなあ……



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