CYZO 2002/07号。表紙は新聞コラージュに「バカの壁を越える新聞の正しい読み方」と赤字に白ゴチで入っている 山形道場 復活第 ?? 段

今月の喝! 経済学者のIT病@スティグリッツ

(『CYZO』2002 年 7 月)

山形浩生



 かつてこの欄でしつこく罵倒した中谷巌の一、二を争う駄本「痛快! 経済学」 がしばらく前に文庫落ちしたのを最近になって手にしたんだけれど、なんせあれ がベストセラーになってからITバブルははじけるわ、金融ビッグバンはうやむや だわ、あれやこれやで、昔書いた話がぜんぜんあわなくなってきたもので、中谷 先生ったらなにやらいろいろと言い訳がましいことを追加で書いているのだ。わ ははは。これはなかなか楽しい。が、昔自分の主張していたことには平然とほっ かむりして、まるっきり正反対のことをしゃあしゃあと述べ立てる一部の学者や ヒョーロンカに比べれば、言い訳するだけまだましなのかもしれない。ちなみに いまの某大臣は……

 という話は今回の話とはあまり関係ない。今回はもっと大物の話。去年、ノー ベル経済学賞をとった天下のジョセフ・スティグリッツの話だ。ぼくが昔唱えて いた、「消費税を引き上げると言って脅せ!」というのと同じ景気回復策を主張 していて、あと『世界を不幸にしたグローバリズムの正体』(徳間書店)という、 抜群に面白い罵倒満載の本を最近出した。必読。「靴をはかないと教授にしてや らん」とか、楽しいエピソードもいっぱいで、ぼくは大好きなのだ。

 そのかれの「経済学」教科書の新版がつい先日出た。これも前の版までは評価 が高く、これまでのスタンダードとも言うべきサミュエルソン経済学にかわる新 スタンダードになる教科書だ、とする声まで一部にあった。だから、この新しい 版は、ぼくは非常に楽しみにしていたのだ。ところが。

 この「経済学」第三版は、かのおそるべきIT病にかかっていたのだった。

 いやあ、もうすべての章に、「i-ケース」だの「e-洞察」だのがくっついてい るんだ。そしてそれがひたすら、IT礼賛。「情報技術の進展により、経済はい まやニューエコノミーという新しい段階に入ったのであるっ!」もうこれを見た 瞬間、ぼくは倒れそうになってしまいましたよ。いま、何年だっけ? ウェブ求 人により労働市場の効率は大幅に改善!(おいおい) 情報技術で、生産調整が 細かく需要に合わせられるようになり景気の波がなくなる!(シスコもそう思っ てたらひどい目にあいましたねえ) いや、スティグリッツ先生は、あのドット コム崩壊をご存じないんでしょうか。ITの効用を完全に否定はしないけど、多 少は節度というものがあるでしょうに。スティグリッツは、情報の経済学で先駆 的な仕事をした人だし、ノーベル賞もそれで取った。でも、だからこそITにつ いて扱うにしても、慎重さがあっていいんじゃないかしら。冒頭部分には、コン ピュータの歴史からパソコンの興隆とマイクロソフトの台頭、そして司法省との バトルにまで至るパソコン小史がかなりページを割いて説明されていて、まあ読 み物としてはおもしろいけれど、「ここに経済学の主要課題がすべて含まれてい るのだ!」と言うに至っては……そうかぁ? 経済学の入門でいきなり読むべき 内容かしら。

 でも、これがドットコム崩壊直後なら、まあ修正が間に合わなかったか、と同 情するところだけれど、いまこれを出すというのはもう確信犯というか、揺るぎ ない確信をお持ちなんだろうか? うーむ。

 むかし知り合いと「どうして年寄りはITと聴いた瞬間に頭がはじけてしまう のだろうか、IT病恐るべし」という笑い話をしていたことがあって、その時に 念頭においていたのは、中谷巌であり、ヘーゾーくんだったんだけれど、スティ グリッツよ、おまえもか、という感じ。でも、最近の野口旭の素人向け経済入門 書も、妙にITに甘かったし、なんかあるのかな。ともあれ、これが今後のアメ リカの標準経済学教科書なら、たぶんあと5年くらい先に、ITバブルが再燃す るんじゃないか。くわばらくわばら。



近況:これが出る頃にはこんどこそマラウィですが、干ばつで飢餓が深刻だそう です。どうしてこう次々不幸に見舞われるのか。かわいそうに。



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