CYZO 2001/10号。表紙は 山形道場 復活第 29 段

今月の喝、ではなく拍手:2ちゃんねるとネットコミュニティ

(『CYZO』2001 年 10 月)

山形浩生



 たぶん他で採り上げられることは当分ないと思うから、ここで書いておこうか。この世に2ちゃんねるという巨大掲示板があることは、本誌の読者ならある程度知っていると思う。いつぞやここで、親玉二人が田原総一郎と話なんかもしていたし。ここを見ていると時間がいくらあっても足りず、日本におけるITの生産性を引き下げている元凶とまで言われ。いつぞやのバスジャック犯のおかげで一気に有名になったこともあり、反社会的言説のとびかう犯罪の温床でありネットのモラルの低さを如実にあらわし公序良俗を乱しまくり途上国の貧困や日本の不景気、若者の無気力など諸悪の根元とされる存在だ。が、その一方で、低俗だろうとなんだろうとここまで巨大な人数をここまで動員できている掲示板システムは、他にはない。

8月末に、この2ちゃんねるに一つの危機がやってきた。

いま、かれらはアメリカのサーバ会社のサーバを借りて運営している。でも毎日数十万人が見ていて、しかも中には一日中これしか見ていないようなやつや、循環ソフトで常時あちこち監視しているようなモノ好きが山ほどいる中で、サーバと、さらにサーバ会社の回線の負荷がきわめて大きく、しかもそれが増大の一途をたどっていて、8月末にそれがかなり危機的なところまできた。サーバ会社には、サーバと回線使用料なんかかなり勉強してもらっているとのことだけれど、そこからトラフィックを下げてくれという泣きが入って、ダメなら……という状況。それに対して、いくつか書き込みの多いところを一時的に閉鎖するという強硬な対策がとられて、これはこのままやばいんじゃないかと思われていたところ……

プログラマの多いUnix板(板というのは2ちゃんねるにおける、話題ごとのまとまりだと思ってほしい)の有志がたちあがった。転送量を下げるシステムにすればいい。2チャンネルで使っている掲示板用のプログラムをもっと効率のよいものにして、データ転送も圧縮するようにすれば目下の問題は回避できる!

そしてなんとも恐ろしいことに、ものの二日もしないうちに、かれらはこの結構複雑なプログラムの改良をあっさり成し遂げてしまった。

すごい。

なにがすごいかと言えば、まず2ちゃんねるの連中なんて、烏合の衆で口先ばっかで、自分ではなにもしないで愚痴をたれてるだけの無能な役立たず内弁慶ひきこもり集団だと思われていたのが(いや、これは社会の定説です)、実はやるときにはやるだけの連中がかなりいることが実証されたこと。その連中が勝手に集まって、スクリプトの改良を自主的にやって、結果として目標を遙かに上回るもの(当初の目標は、トラフィックを1/3にすることだったのが、結果的にそれが1/16になったという……)成果を実現したということ。そしてもう一つは、その連中がそれなりに自己犠牲を払って、ある場を守ろうとしたということ。

数回前にこの欄で、ぼくがネットコミュニティってやっぱあるんじゃないか、と書いたのに対して、MM対談で「ネットコミュニティは失うものがないから成立しない」というコメントがついていた。でも今回、かれら(いやぼくも2ちゃんねらーだから、ぼくたち)にはここで、失うものはあったわけだ。2ちゃんねるという場が。プログラム書きに参加できない連中でも、2ちゃんの危機と聞いて「金なら出す、なんか協力する」という発言も随所に見られた。もちろん言うのと実際に払うのとはまた別、ではあるけれど。

すると、だよ。ここにはある種のコミュニティが確実にあるわけだ。そしてもしそうであるなら、たぶんもっと考えるべきことがあるんだろう。そして実は先日、この2ちゃんねるの親玉二人と話をしたんだけれど、かれらは実際にそういうことを考えているのね。すごい。でも、この話はまたいずれ。



近況)マラウィ行きが決まりました。さてマラウィとはどこにあるでしょう。ちなみに HIV 感染率数十パーセントで、このあたりである種の遊びをするのは逆ロシアンルーレットとまで言われます。



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