CYZO 2001/07号。表紙は小向美奈子。 山形道場 復活第 26 段

今月の喝!「リーヌス来日と竹中の経済財政諮問会議」

(『CYZO』2001 年 07 月)

山形浩生



 リーヌス・トーヴァルズが、自伝『それがぼくには楽しかったから』(小学館)刊行に伴って5月末からしばらく来日した。でも公開のイベントとかは、本人の希望もあってやらないみたい。この文章が載る頃には、あちこちにインタビューなんかが載ってるかな。

 リーヌス・トーヴァルズは、あの有名なオペレーティングシステム、リヌックスの開発総親玉として知られている人で、自己主張の強烈な人が多いハッカーたちをまとめあげて、すごく優秀なソフトウェアを実現させてしまった人物として、ビジネス誌的にはビル・ゲイツとタメを張る存在的にまつりあげられているのは、このコラム読者なら基礎教養だ。

 そうやって有名になっちゃったもんで、インタビュー依頼は殺到しているみたい。芸能人並に一時間おきの連続インタビューセッションが組まれてるようだ。うーむ。でも日本のマスコミがかれに何をきくか、だいたい見当がついてしまうんだよね。その答も。というわけで、以下に予想質問と回答だ。ただしかれの身辺雑記がらみのものは除く:

Q1.リナックスはウィンドウズに勝てますか? なにが足りないと思いますか?

A1.どうでもいい。あまりそういうことは考えない。デスクトップ用アプリケーションはもっとほしいな。

Q2 リナックス開発のきっかけは? リナックスはなぜ成功したのでしょうか?

A2 きっかけは、予習してきてね。成功はみんなが協力してくれたから。それにタイミング的にラッキーだったし、ぼくがまとめ役兼プログラマとしてそれなりに優秀だったこともある。

Q3.リナックスは将来どうなるのでしょうか? 

A3.こないだ次のバージョンの見通し出したから、それを見てね。でも、前にも書いたけれど、だんだん成熟してきていずれ開発は止まると思うよ。

Q4. 新しい社会経済の組織方法としてボランティアなどの活動が注目されていますが、今後の可能性はあると思いますか?

A4.そりゃまあやりかたによってはね。みんなが自分にとっておもしろいことをやるのはいいことだ。でもほかにも条件はあるし、それ以上の一般論はできないよ。

だいたい以上のバリエーションで、登場するインタビューの8割くらいはカバーできると思うなあ。ああそうだ、あとこんなのもあるかもしれない。

Q5.経済財政担当大臣の竹中平蔵は「経済財政諮問会議の運営をオープンソース・ムーブメントで」と述べていますが、どう思いますか? 成功するでしょうか?

A5.えええっ、それって何するの? 経済政策を実際にみんなに好き勝手にいじらせるの? 朝令暮改でコロコロ変えるの? 政策って、プログラムとちがって評価がむずかしいし、政治の本当の中身なんて公開できないし、無理だと思うなあ。え、なーんだ、単にインターネットで意見を集めるだけ? そんなのオープンソースでもなんでもない、ただのネット世論調査じゃないの。いくらでも前例があるから、そっちを調べたら? だいたい政府が旗をふって「ムーブメント」もXXもないもんだ。そもそも日本って、そんなのでウケがとれるほどオープンソースって普及してるの?

 正直言って、ぼくはこの経済財政諮問会議の話をきいて、竹中平蔵のあまりの(というより予想通りの)軽薄さにかなり脱力したな。ぜーんぜんわかってないんだね、あの人は。でもどっかで竹中平蔵とリーヌスの対談なんて企画が組まれていたりしたら、笑えるなあ(今回の様子だと、ホントにありそうで怖いけど)。ほんとは各地のリナックスユーザ会と酒盛りでもできたら本人的にはいちばん気楽でいいんだろうけどね。でももうそういう立場じゃなくなっちゃってるんだよね。かわいそうに、リーヌスくん。



近況:ぼくにもインタビュー依頼はきたけど、出張で無理。残念。あと関連書としてヒマネン「リナックスの革命」(河出書房新社)の翻訳してますので。



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