山形道場 復活第 19 段
もうしばらく前のことになるけれど書いておこう。2000年のニューヨークの夏は、ふしぎに涼しく快適で、ぼくの滞在先の友人たちはぷんすか怒っていたのだった。「まったく、ただでさえバカなドットコム連中がおしよせてきて、家賃は上がるし古い店は消えるしでいい迷惑なのに、そのうえこんなに気候までよくなったら、またまた勘違いする連中が大挙して押し寄せてくるじゃないの!」ニューヨーカーというのは、このようにいつも身勝手で不機嫌なものである。
そんなところにぼくがいたのは、HOPE2000、略してH2Kに顔を出すためだったのだ。HOPEとは、Hackers on Planet Earth の略。あのハッカー雑誌2600が主催する、ほぼ隔年くらいに実施される世界ハッカー会議だ。ぼくは最初の HOPE にも出たし、その後の Beyond HOPE にも行ったし、するとまあこの3回目も、つきあいで行くしかないでしょう。
それに、今回の H2K は、いろいろ波乱含みだったのだ。2600はいまMotion Picture Association of America がDVD解読ソフトをホームページからリンクしたと言って訴えられていて、なんかたいへんなことになっていた。セッションのテーマにもそういうのがいくつかあって、模擬裁判などもあって興味あるところだったのだ。
んでもって、実際のイベントはおもしろかった。ニューラルネットワークで人工知能! というアナクロながら妙に元気なおっさんがいた。リチャード・ストールマンがきてた。前回きて大好評だった、民間調査員が個人のプライバシーについて話した。カギのピッキング。お約束のソーシャルエンジニアリング。そしていつぞやここでも書いた、もとCIAのおじさんが、いまのスパイがなぜだめか、という講演をしていた。うん、どれもなかなかおもしろかったのだけれど……
今回ぼくは、予想しなかったものを見ることになった。今回のH2Kには、あのシアトルでWTO総会に「抗議」してテロ活動を繰り広げた、NGOの連中が大挙してやってきていたのだった。
考えてみれば、当然のことかもしれない。大企業が嫌い、破壊活動やサボタージュに興味があるという点で、2600系ハッカーたちは、いまの過激派NGOたちとは非常に共通性を持っているのだ。2600系ハッカーたちは、その手の手口はいろいろ知っている。そしてNGOたちは、それをおおっぴらに使うのを正当化してくれるお題目を持っているし、なんなら使うのに協力してくれる。
なかにはおもしろいのもあった。自動ビラまきロボット! とかね。「かわいいロボットを使うと、むさくるしい活動家が配るよりもビラを受け取ってもらえる確率は著しく増大します!」なんてのは愛らしい。落書きロボット。スローガンをペンキで書くのに手でやるとつかまりやすいので、模型自動車にスプレー缶を8本ほど並んで背負わせて、その自動車が走りながらその缶の口を開閉するようにした、落書きロボット。さらにはそれを一般車の下にとりつけて大規模な路面スプレーを展開するマシン。
このくらいは、技術的にもおもしろかった。でもそこから話はだんだんおかしくなっていく。警察の車に自分を縛り付けて、それが動こうとしたら「人殺し!」と言ってテレビに写させる方法。民主党大会に入り込む方法。そのためのパスポートやIDの偽造方法。そして最後は、NGOセッションで「なぜグローバル化は悪か」ああ、やめてくれよ、グローバル化がすすまなかったら、オレはこんなところにこられなかったんだから!
「いやぁ、シアトルでは燃えたねぇ」とそいつらが得意げに言っている。ぼくは、とても不愉快ではあったけれど、なんといっていいかわからなかった。
近況:そういうのはハッカーではなくクラッカーなのだ、という主張があるのは知っていますが、そういうセクト主義をぼくはとりませんので。不快な方は読み替えてください。
『サイゾー』インデックス YAMAGATA Hirooトップに戻る