CYZO 2000/04号表紙は佐藤藍子。なかなかよろしいっす。 山形道場 復活第 11 段

「おばかな『せらぴゅーちっく・たっち』と女の悪用」

(『CYZO』2000 年 04 月)

山形浩生



 本屋をうろついていたら、なんかクリーガー「セラピューティック・タッチ」の本が春秋社から2冊も出ていて、ぼくはのけぞってしまったのだった。通称TT。おお、あのくだらん代物がついに輸入されちまったか!

 TT。病人に手をかざすと、病気の悪いところが悪い波動(でも気でもオーラでもなんでもいいけど)を発しているのがわかるから、そこをTTの力を持った人がなでてやると、その悪い波動かなんかが静まって、病気がなおるのだ、というもの。なでればなおる。な、なんとお手軽な。

 さて、世の中インチキ代替療法なんて山ほどるけれど、このTTについてだけはぼくはよく覚えている。なぜかというと、こいつに対しては、アメリカでとってもおもしろい反証実験が行われているからだ。そしてそれをやったのが、アメリカ医学協会誌(JAMA)への投稿掲載論文執筆者としては史上最年少。当時わずか 9 歳の女の子エミリー・ローザ。

 ある病院の看護婦がTTにはまっていて、しつこくエミリーにあれこれ薦めたんだそうな。それで彼女は、ふーんと思って、その看護婦を皮切りにTT療法士たちに試験を行っていったわけだ。

 彼女の実験というのは実に簡単なもので、机の引き出しを二つに区切って、右か左に自分の手を入れる。そしてTT療法士に、その机の上で手かざししてもらって、自分の手がどっちにあるかあててもらう、というもの。TT支持者たちは、こいつが現代のテクノロジーですらわからない病巣だってつきとめられる、と主張している。そんなに精度が高いなら、そもそも体があるのかないのかくらい、百発百中ですぐにわかるはずでしょ。

 というわけで、彼女はこの実験をTT療法士数十人に対して実施している。で、結果。あたる確率半分以下。答えは右か左かだもん、まぐれだって50%だ。

 さらにこの子は、その結果を相手の療法士に見せて「なぜこんなにはずれるんですか」と聞いてみた。答えはもちろん、まったく予想通りの代物。「懐疑心のせいで、手がマイナスの波動を放っていたから」(じゃあなぜ半分は当たったの?)「器具の材質が波動を吸収した」(TTって服の上からでもやるんですけど)、そしてもちろん、質問には答えずにTTがほかのところではどんなにすばらしい成果を挙げているかをひたすら列挙する人。エミリーはそれを全部論文に収録して発表した。

 科学者たちはもう大喜び。9 歳の子供にも反証されちゃう療法! これでTTは一躍悪名を馳せた。それにしてもよく療法士ども、そんな調査に応じてくれたなあ、というインタビューに対して彼女曰く、「こっちがガキだと思ってなめてたみたい。もっとも、この論文が出てからは、だれも調査に応じてくれなくなったけど」。

 鑑訳者は、上野圭一。この人は「ディクショナリー」というフリーペーパーでいつも東洋の身体性の代替療法のと、偉そうな対談なんかをしてる。でも、9 歳でもコケにできる代物を真に受ける程度の人なんだね。もちろん訳者あとがきで上野は、TTを大絶賛。さらにTTで患者を治してしまった看護婦と、それに対して露骨に不快感を表明した男の医者、という話を紹介して、「男は体制的で既存の権威にすがっていて頭が固い」「女は柔軟で新しいものを受け入れやすい」といったステレオタイプをだらしなく垂れ流している。そしてポストモダン屋とニューエージ屋と、そして時にはそこに複雑系屋さんなんかもからんで既存の各種体制の批判のために、実に安易に女を利用するという図式がここにもある。結局は、女をあっさり非科学的なものに結びつけて(これって、女はバカでいい、と言っているに等しいわな)、それがいいことであるかのように喧伝する人々。そしてこういう女をバカにした連中が、フェミニズムの味方面をするのね。かわいそうに。斉藤美奈子は、たまにはそういう連中を批判すればいいのに。

参考:
エミリー・ローザのQ&Aページ
http://www.pbs.org/saf/3_ask/archive/qna/3282_erosa.html
TT反証実験の論文
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/htbinpost/Entrez/query?db=m&form=6&Dopt=r&uid=98192170

近況:これが出る頃、わたくしはモンゴルへと旅立つのであります。



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