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CUT 連載書評


 CUT はいったいなんでぼくになんかこんな書評を続けさせてくれてるんだろう。渋谷陽一が「死の迷路」訳者解説を見て、こいつはなんか書けそうだと思って依頼してきたのが最初なんだけど、当時は(いまも?)ほとんど実績のなかった人間に、なんと大胆な。
 新刊だろうと旧刊だろうと写真集だろうと経済書だろうと、なんでもできるのはホント得難い場ではある。でも、つまんないのが続くと怒られるし(「最近は山下達郎より反響が少ないですよ!」(涙))、しかも途中から吉本親子とタメはらなきゃなんないっつー……いつ打ち切りになるかとヒヤヒヤしながら書いてて、先日も「実はこんどから月刊になってコラムを刷新するんですが……」という電話がかかってきて、ああきたか、ついに終わるか、と腹をくくったら「山形さんには続けて書いていただくということで」と続くことになってしまった。なんで?!? 気がつけば、ぼくが CUT 最古参のコラム書きになってるじゃん!
 なお、下の月表示は、その号の発売月ね。執筆はその一ヶ月前。表紙の号数は、その翌月。

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CUT 2005/02 表紙は15周年記念コラージュ 2005.02 Lomborg, ed.『Global Crises, Global Solutions』

 分厚くて専門的な本なんだけれど、環境問題をほかの問題と並べて、何が大事なのか見極めようという試みのためにはこのくらいは最低ないとまったく何も説明できない。参加者たちは後で自分の思い通りの結果にならずブーブー言ったりしているらしいけれど、でもこういう試みの重要性はだれもが理解している。できたこと自体がすごい本だと思う。

CUT 2005/03 表紙はスターウォーズ、シスの何とか 2004.03 ラクチュール『シャンポリオン伝』

 朝日新聞のほうでなにやら一押し、と言われたので期待して読みはじめたら……長いだけ。学者の生涯、それも文字解読者なんていう学者の生涯には、おもしろい事件なんかさほどない。シャンポリオンの伝記でも、おもしろいのは解読の功績を巡るヤングとの確執くらいだ。しかも訳が遅すぎ!

CUT 2005/04 表紙はクドカンとか何とか 2005.04 三崎亜紀『となり町戦争』

 稲葉大人がほめていたので、期待して読んだ。甘いよ。公共事業としての戦争というアイデアなんて、『アイアンマウンテン報告』のほうがずっと徹底して展開してるよ。この小説のダメなところは、戦争自体にまったく迫力というか怖さと必然性の混合がないことで、だからつまらん不条理小説にとりあえずセックスして惚れたというだけのつまらんぬるい恋愛をくっつけてみせてるだけのシロモノに終わってる。著者は地方自治体の職員だそうだけど、もっと働けよ、まったく。

CUT 2005/05 表紙はオーランド・ブルーム 2005.05 古田 靖, 寄藤 文平『アホウドリの糞でできた国―ナウル共和国物語 』

 淡々として、しかもポイントはおさえているいい本。あまりお説教くさいことも言わないし。それに薄いのが何より。どっかに出張する直前にざっと読んで、一気に書き上げて送った。日頃考えていることとも対応してそれなりに満足した。

CUT 2005/06 表紙は映画ベスト100とか字だけ 2005.06 土方薫『やわらかく考える金融工学』

 読みやすく書かれているのにかなり高度な話題まで盛り込んでびっくり。ふつうの MBA 教科書の水準を超えるようなことまでいっぱい載ってる。行動経済学系の話は、実感と理論とのずれが重要なので、そのずれをうまく刺激できたら素人的にもおもしろい本になるんだねー。

CUT 2005/07 表紙はダースベーダー 2005.07 チャルディーニ『影響力の武器』

 これはなかなかおもしろかった。いろんなセールス団体や NGO に加わって、人をどう心理操作してお金を出させるかという手口を学び、それをもとに心理学の解説書を書いてしまったおもしろい本。すべて実体験に裏打ちされているからおもしろいし、身近なところでも「あ、この手はやられたことがある」という経験がかなりあって楽しい(そして腹立たしい)。

CUT 2005/08 表紙は岡田准一 2005.08 ブキャナン『複雑な世界、単純な法則』

 こないだやった安田雪の本は、実はその後の分野の広がりをまったく見ていないタコツボ本でもあったことが本書を読んで明らかに。すでにスモールワールド理論とかネットワーク理論とか、なかなかおもしろいところまできているんだねえ。よい概説書です。草思社はいつもいい本を作って出すなあ。ただ、ストロガッツの邦訳とか日本の類書とか、スリランカからは調べられなかったのが残念。もっときちんと比較をしたいところだった。

CUT 2005/09 表紙はニコール・キッドマン 2005.09 岩井克人『会社はだれのものか』

 サイゾーとGQで書いた罵倒書評シリーズ。ここは字数が多いので、岩井的な経済学者の陥りやすい陥穽についても説明できたのは個人的には満足。それにしても、一読して変な本なのに、なんかアマゾンとかだとほめてる人がたくさんいるのは、今更驚くべきことでもないんだけど、やっぱいちいち驚いてしまう。

CUT 2005/10 表紙はジョニー・デップ 2005.08 フラナガン『グールド魚類手帖』

 これは……すごい小説だった。漠然とした方向性は、こないだやったクッツェーと似てるんだけれど、マニュアル通りに計算ずくで作ってるクッツェーとちがって、めちゃくちゃさは圧倒的。はじめてラテンアメリカ小説を読んだときの、得体の知れない濃さが久々によみがえってきた。渡辺訳は、いつもながら文句なし。彼女の訳はいつもなにかある香りがするような気がするんだけれど、なんでだろう。

CUT 2005/10 表紙は「映画にまつわる100の噂!」 2005.09 Rowling『Harry Potter and the Half-Blood Prince』

 一応義務的に。分厚いの買って読んだしい。たぶん日本でいちばんまともなハリポタ最新刊速報だと思う。しかし今回は最悪な一巻。次回でハッピーエンドにちゃんと終わらせられるのかね。ハリー・ポッターがダークサイドに転向するような話になってたらおもしろいが、まあそうはなるまいねえ。

CUT 2005/10 表紙はキーファー・サザーランド@24 2005.10 『最新東京・首都圏未来地図―超拡大版』

 東京の開発地図。非常に便利だし、これを見てこの先の状況をあれこれ考えるのはなかなか楽しい。これはバブル期以来なかった楽しみですなあ。でもバブル期とちがって、開発先行でそれに伴う楽しい妄想はなし。バブル期は、500階建ての建物とか東京湾埋め立て人工島とか、みんなもっと勝手なことをいってたじゃないか。あれはどこへいってしまったんだ!

CUT 2005/10 表紙はダースベイダー 2005.11 『No One will Ever have the Same knowledge again』

 ちょっと天文系の本を漁っていて思い出した一冊。笑えるんだけど、しばらく笑っているうちに人の心の奥の寂しさみたいなものが出てくるという本。こういうのを見て、バカにしているとかいって怒る連中がいて、それはその通りだし、バカなんだもん。でもそこに一方で人間の普遍性もあるのだ。



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