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CUT 2003 年 連載書評


 2003 年は最悪の年だった! 複数の調査が双方のスケジュールの乱れのため、調整がやたらに大変で、アポ取りとかもまったく思い通りにいかずに後々に押してきて、とにかくもうほとんど後半は出ずっぱりの状況。年末も30日まで中国で、その前のクアラルンプールやバンコクでもとにかくもう拝み倒して直前アポ取りしつつ次のところへ行くという自転車商業。前半もろくでもなかった。途中で南アに行ったのはダーバンの道路会議か。やれやれ。いろいろ面倒だったなあ。文章的には、山本義隆本がヒット。これは朝日でもこっちでも、まったくちがうタッチできっちりポイントを言えて大満足だ。その他も、全般に本には恵まれておりました。

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CUT 2003/02 表紙は松本人志 2002.12 ネイピア『現代日本のアニメ』

 ほめている人がいるけれど、どこがぁ? という感じ。ゲージンがアニメを語ったくらいで、大騒ぎしなくてもいいのに。日本人がこの内容を書いてほめてもらえると思うの? あらゆる盛り上げ型ドラマに共通のテーマというか類型がアニメにあることを指摘しただけで、何が言えたことになるのか? しかも対象としているのは、アニメのごく一部の作品でしかなくて、それがどこまでアニメ全体のテーマや類型として指摘できるかも検討なし。自分の議論がどこまで普遍性を持ち、どこまで特殊なものなのかを考えていないのは、学者としても致命的だと思うんだけれど。こんなものがオッケーだとされているから、カルスタとかは進歩がないのだと思うぜ。

CUT 2003/03 表紙はくまのぷーさん 2003.01 カーズワイル『驚異の発明家の形見函』

 これはおもしろい本だった。いろんな領域のいろんな話をからめつつ、それを一つの箱におさめるというのは、うまく行きそうなんだけれどなかなかむずかしい。この本はそれをきれいにやっている。マラウイ行きの飛行機の中で読みました。こんな分厚い小説をまとめて読んだのは久しぶりかも。ロボット論なんかとからめたり、ほかにもいろいろと加工の仕方はあるとは思うけど、まあそこまで工夫をしている余裕がなかったので、ストレートに行きました。

CUT 2003/04 表紙はなんかテレビ役者。 2003.02 『Sock Monkies』

 くだらないといえばくだらない本なんだけれどね。ただこれを見ていて、なんでもないものが「アート」とかいって珍重すべきものにまつりあげられるプロセスみたいなものが感じられるな、と思ったもので。それは別に権威主義とかじゃなくて、単純な分類学の一つの副作用でしかないんだけれど。それとも逆、なのかもしれない。

CUT 2003/05 表紙はなんか群れてる 2003.03 中田他『廃墟探訪』

 かつてまだ読みでのあった頃のGONの名連載。妙にアーティスティックな「廃墟」写真とはちがう、ウンコもゴミも浮浪者もいるどろくさい廃墟。でも、それだからこそ、まだ人間とのつながりを失っていない、泥臭いおもしろい廃墟の写真になり得ている。アクアポリスのやつとか、掲載紙をとっておかなかったのを悔やんでいたのだけれど、いや本になってくれてよかった。

CUT 2003/05 表紙はマトリックスのクズ続編 2003.04 『サマルカンド秘宝』

 何の気なしに読み始めたら、ハッサン・イ・サッバーが準主役でびっくり。そうか、あの人はそういう人だったのね。たかがバロウズ本を書くときに読んでいたら活かせたかもしれない。でも、ハッサン・イ・サッバーの話はブライオン・ガイシンによる語り以外にあまり調べられなかったので、これはなかなかおもしろかった。孤独で悲しい人だったんですねえ。バロウズが惹かれたのもわかるような気がする。

CUT 2003/05 表紙は時計仕掛けのオレンジ 2003.05 山本義隆『磁力と重力の発見』

 あの山本義隆の本。『重力と力学的世界』の前段にあたる、といえばいいのかな。ニュートンの万有引力なんて、よく考えると得体の知れないご都合主義の説明でしかないのだ。その重力とやらはどうやって伝わるのですか? 何もないところに勝手に働く、というそんなわけのわからないものなんか、気持ち悪いじゃないですか。でも、それに対して唯一、磁力というものは、確かに何もないところを伝わる力として明らかに存在していた。その磁力というのは、ながいこと魔術の一つの領域だったのだ。そして、その魔術からの知見を援用することで、はじめて万有引力という考え方が成立した――現代科学は、魔術を切り捨てて決別するところから始まったというのはウソで、現代科学こそが魔術の最良の後継者であった、という。すごい。

CUT 2003/08 表紙はビートたけし版座頭市 2003.06 大平貴之『プラネタリウム作りました。』

 メガスターの作者の一代記。いやあすごかった。こんなめちゃくちゃな、というか執念深い、というかそういう人物だとは。この月は、岡崎京子の本がいくつか出て、それをやろうかとおもったんだけれど、あまり感心しないできで、ちょっとどう攻めるか考えあぐねていたところ。鹿島茂や高橋源一郎や、その他ありとあらゆる人がほめているんだけれど、そんなにいいとは思えない。それが何か考えがまとまりきらず、まあお手軽なほうに走りました。岡崎は次回やってみよう。

CUT 2003/09 表紙は Eminem@8mile 2003.07 Rowling『Harry Potter and the Order of the Phoenix』

 結局岡崎止めた。ハリー・ポッターの分厚い新作が出て読み終わったので、それについて。しかし……つまらん。スティーブン・キングがほめていたけれど、なんで? 結局、魔法の世界も人間と同じ。結局、何も変わらない。それはこの先に、マグル界と人間界を融合させるための伏線なのかもしれないけれど、でもそれじゃあ魔法の世界にいった意味がない。ヴォルデモートもまともな活躍しないし、ダンブルドア先生の最後の解説は、何言ってんのかほとんど意味不明。愛とかなんとか言えばなんでも見逃してもらえると思ったら大間違いよ。

CUT 2003/10 表紙はユマ・サーマン@Kill Bill 2003.08 スタージョン『海を失くした男』

 スタージョンは……やっぱりもっと評価されるべきだと思うんだけれど、問題はどう評価されるか。朝日新聞に書いたものと、テーマ的にはかなり重なってしまったのはちょっとつまらなかったな。山本義隆本のときみたいに目先を変えられるとよかったんだけれど、ちょっと余裕なし。

CUT 2003/05 表紙はヴィンセント・ギャロとクロエ・セヴィーニかな 2003.09 ピンカー『心の仕組み』

 これはいい本ではあるんだけれど、でも通俗書というところでぼくは重要なところをごまかしているように思える。ただ、この書評ではそれはうまく書ききれなかった。うーん。あと、Fodor の批判とかについても触れたかったんだけれど、とてもその余裕はなかったのだ。

CUT 2003/12 表紙はムーミンだけど…… 2003.10 Krugman 『The Great Unraveling』

 出ました! この本は、アマゾンとかではアメリカ版の表紙しか見ていなかったんだけれど、実際に物を手に入れたのは南アフリカへの途上の香港の空港で、そこにあったのはイギリス版なのでした。のけぞったね。同時にスティグリッツにも触れた。これも香港の空港で入手したが、二冊抱えて歩くのは重かった!

CUT 2004/01 表紙はサイケ柄に字がいっぱい書いてあるだけ 2003.11 ゼーバルト『アウステルリッツ』

 久々に小説を読んで戦慄しました。すごい。いまの世の中で、こういう本当の意味での小説が書けるとは。朝日でも採りあげるべえと思ったら、とっくに堀江さんがやっていて愕然。くそう。でもまあ当然だよね。すべての小説家はこれを読んで、著者が死んだことにむしろほっとすべきだと思う。というわけで、CUTで独自にやりました。

CUT 2004/02 表紙は指輪物語 2003.12 バロウズ『ジャンキー』

 ジャンキーを読んで(というか文庫化にあわせて校訂用に再読していて)、ドラッグ文化の変な面についてふと思い当たって、どこかで書いておきたかったもので。それと、この頃は出張が続いていて、手元にとにかくまともな本がこなかったのだ。だからかなり苦肉の策でもある。



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