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前田建設ファンタジー営業部

連載第?回

本気で夢を実現しようとする驚異狂喜の積算プロジェクト。

(『CUT』2005 年 1 月, p.141)

山形浩生

要約: アニメ設定の安易な再現にとどまらず、それを実際にいまの土木技術で再現するための方法を考えたうえに、それを実際に積算してしまった変なおもしろい本。こういうのをうまく使うと、もっと建築や土木に興味のある人も増えるのでは?



 昔、夢見た未来社会がすでにいつの間にか実現されている、というのはよく言われる話だ。それはたとえば、最近廬ボッ度がいろいろ出てきて、鉄腕アトムも夢じゃないぞ、というような話で出てくる。もちろん往々にして現実が昔の人のちんけな空想をとっくに追い抜いているケースも多い。コンピュータなんかその代表だし、お金まわりもそうだ。映画『オースティン・パワーズ』に、ドクター・イーブルが冷凍睡眠から目ざめておっかない装置で世界を恐怖に陥れ、「世界を破滅させられたくなければ百万ドル払うのだ!」(数字はいい加減)と言ったら世界各国の政府代表が失笑し、ドクター・イーブルの部下が申し訳なさそうに「あのー、ボス、この悪の組織のフロント会社(某コーヒーチェーン)の年商ですらその数倍はあるんですけどー」とか言う場面があって、結構気に入っている。

 もちろん、何もかもが実現できているわけじゃないし、もともと実現不可能なものもある。柳田理科雄は、各種映画やアニメの設定をあげつらって商売している。それはそれでまあ、おもしろいといえばおもしろいんだけれどね。でも野暮でもある。しょせんただの作りばなしを、現実離れしていると言われてもねえ。一方フィギュアおたくみたいなのがやる、外見至上主義みたいなのもある。こrもおもしろいんだけれど、でもぼくは出が工学部なので、形は機能に従うと思いたいのだ。それを形だけやられても……。そして中身となると、コンピュータとかロボットや原寸大模型くらいならなんとかごまかせるだろうけれど、もっとでかい土木装置ともなると原作を作ったほうもきちんと考えてないだろうし、この手のお遊びの余地もあるまい……。

 そう思ったぼくが甘かった。日本のゼネコン(建設会社)のレベルをなめておりました。本書『前田建設ファンタジー営業部』(幻冬舎)は土木系に強い前田建設が、実際にマジンガーZの格納庫の建設見積もりをしてみました、というプロジェクト。しかも構造・躯体をチョロっとやっただけじゃない。穴掘りから各種設備までやって、、そのうえ工期まで詰めている!

 いやすごい。しかも、単にこうすりゃできます、という話じゃない。本書のおもしろさは、営業部が社内のいろんな部や外部企業と真面目に操舵して、アニメに出てくる各種の設備や仕様をあれこれ検討していくプロセスまできちんと描いていることだ。発注者のあいまいな使用をきちんと検討しておさめ、それを実現するためのいろんな手法を比較し、ついでにいろんな工法の解説まで! ぼくが建築っぽい話に関心があったのは、オヤジのつとめ先がゼネコンということもあったんだけれど、同時に家に『超高層ビルあけぼの』という本があったことも大きい。へえ、こうしてああしてやるのか。超高層ビルってこうやって地震の揺れを逃がすのか。「プロジェクトX」って、これと似ているようで実はあまり似ていない。あれはなんか過度に人間ドラマばかりクローズアップしていて工学的な楽しみは実は薄い。でもこの本は、それがかなりしっかり描かれている。細かいことはわからなくても、法面をこうやってアンカーやボルトで抑えるのかとか、格納庫の開閉をレール式でやるかジャッキ式でやるのかでこんなにちがうのか、とかいう程度のことがわかるだけでも、建物を見る目はかなり変わってくる。この本はそれができるようになっている。すばらしい。さらに、通常は絶対に表に出てこない積算とか見積もりとかのプロセスを出してくれたのは嬉しいな。これは本当に報われない仕事で、細かくて面倒なだけなのに、あっててあたりまえ、まちがえると死ぬほど怒られるし、さらに結果が高く出ると、積算やったやつが文句言われたりするし。モノづくりって現場も大切だけれど、こうやって現場の前のプロセスであれこれ知恵をしぼっている人たちのほうが、実は役割が大きかったりもする。それを出してくれたのもこの本の手柄だな。

 それにしても本物のゼネコンがこれをやっているのにはびっくりした。明和電機みたいな、勝手なグループかと思っていたら。うーん、ひょっとして暇、なんですか? でもかつてのバブル期に各社がやっていた500階建てのビルとか海上都市とかの言いっぱなしの構想みたいなものよりはこっちのほうがずっとおもしろい。500階のビル等は、妄想をいい加減に広げているだけだけれど、工学の醍醐味ってのは、広がった妄想をいかに現実にひきずりおろすか、というところにあるんだから。本書を読んだあとでは、もとのアニメの見方も変わってくるんだ。単なる荒唐無稽じゃない、現実の裏付けをこいつにつけてやることもできるのか、と。夢を現実に、というせりふはよく聞かれるけれど、見てごらん、ここでは本当にそれが行われているんだよ。

 まあこんな本で喜んでるのは、ぼくが年寄りだっていうだけなのかもしれない。いまのガキはこんなんじゃ感動しないのかもしれないなあ。マジンガーZと言ってもピンとこないだろうし。でも、まあこれは第一弾。今後、第二弾も第三弾もあるとか。期待してまーす。次は「銀河鉄道999」だとか。もう少し新しいほうに動いて、本当に高校生や大学生がこういうのに興味を持つようにしてほしいな。建設に夢を! いまはだれも工事現場なんかに興味を持たないけれど、昔はみんなそれをおもしろがってのぞいていたんだ。そういうのを、こうした試みが復活させてくれるといいな。

 あと、ここまで積算するならホントに入札(あ、建設業界では、これをにゅーさつ、と読むと素人なんだよいれふだ、というと業界人っぽいんだよ)プロセスやってほしいなあ。他のゼネコンに声をかけて(飛島か五洋か熊谷あたりでいかが)、プロポーザルと価格競争で張り合ってもらうの。で、最終的に架空発注者が審査して当選を決める、と。そのときには是非とも架空発注者役やりたいなあ。あ、その時はもちろん接待攻撃もありね。

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YAMAGATA Hiroo <hiyori13@alum.mit.edu>
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