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barbarians

連載第?回

メンズ雑誌における怒鳴らない政治ジャーナリズムについて。

(『CUT』2004 年 4 月)

山形浩生

要約: GQは、いろいろ政治家にインタビューしてまともな政治ジャーナリズムを少し提供しつつある。付和雷同型の、鈴木宗男が悪いとなればみんなバッシングしかしないといったくだらない代物ではなく、聞くべきところはきちんと聞く雑誌になっていてたいへんよろしい。



 まず断り書きから。これまで数回、この欄で雑誌を誉めてきた。で、誉めるとたいがいその雑誌はだめになった。『ワイアード』は、まあ採りあげたのが終刊号だったからねえ。『Giant Robot』もかつてほどは輝いてない感じかな。Spoon. も、だんだん提灯ぶりが強化され凋落してきた感じだし(もうわざわざ探してまでは買わない。目についたときに、まあ三号に一度買うかどうかだ)、ARIgATTはいまやただのグルメ雑誌(もう見かけても買わないどころか、立ち読みさえあまりしない)。ぼくのせいじゃないとはいえ――なんか自分がそれに荷担したような気はどうしてもする。だから今回も、ここで誉めるのにちょっとためらいはないわけじゃない。ためらう理由はもう一つあって、ぼくが雑誌に連載を持っているということだ。その意味で、これから書くことはちょっと眉にツバをつけて聞いて欲しいのだ。

 で、ぼくが今回言いたいのは『GQ』日本版がここしばらく、ちょっとおもしろいぞ、ということなのだ。

 『GQ』日本版は、いろんな出版社を転々としてきた。まあ無理もない。メンズの雑誌はむずかしいのだ。なりふりかまわぬブランドファッション雑誌だのアイテム雑誌にしてしまうこともできるけれど、それはたぶんメンズ雑誌を支えている気取り(お望みならダンディズムとかいうことばを使ってもいいぞ)を破壊してしまって存在根拠を否定するし、それにその手の雑誌はすでにたくさんある。実は雑誌の読者の腹の中は、たとえば『ホットドッグ・プレス』や、果ては『Bidan』みたいな雑誌と大して変わらずに、どうかっこつけて、どう女の子に取り入るか、てなことしか考えていない。でも、それをストレートに出さないことがかっこいいのだ、というような気取りが入るのでそれがややこしい。

 さらにもう一つ、メンズ雑誌にはもう一つ面倒な要素がある。それが、仕事だ。単にファッションやアイテムだけではメンズにはならなくて、男の子雑誌にしかならない。なんか仕事に関係する話をしないとダメだ(もちろん、それを避けて『Brutus』的な方向に行く考え方もあるけれど、かなりニッチな領域ではある)。となると概論的な社会だの経済だの政治だのの話を無視するわけにはいかない。でも、一般の読者はそんなものにまったくと言っていいほど関心がない。さらに、一般的になろうとすればするほど、それは週刊誌の釣り広告でも用が足りるようなどうでもいいあたりさわりのないものになる。読者はきちんとした論説なんか求めていないんだけれど、でもその一方で何の特徴もない概論を書いてもしょうがない。さてどうしよう?

 『GQ』はそのむずかしいバランスの中で、かなり特色あるおもしろい企画をここ半年くらいでどんどん出せるようになってきているのだ。たとえば鈴木宗男に外務省改革のありかたをきいてみたり、国会議員の英語力を調べてみたり、あるいは最近出てきた日本の各種のビジネススクールを比べてみたり、渡辺恒雄の特集をしたり、そして(これはまあありがちな感じではあったけど)石原慎太郎にあれこれしゃべらせてみたり。政治家というものにきちんと注目するというのは結構むずかしいんだけれど(提灯記事になったりお題目だけが並ぶ記事になったり)、それを下世話な興味と政策的な方向性とをまぜて、とてもきれいに出している。

 特に個人的に一番感心したのは、鈴木宗男に外務省改革についての話を大々的な特集としてきいていたところ。すげえ。それをそもそも思いつけるというのがすごい。鈴木宗男って普通は、悪役だと思われているし、外務省まわりで利権を構築すべき悪辣な手をあれこれ使っているような話ばかりが報道されていた。鈴木宗男のおかげでODAがずいぶんうさんくさい目で見られるようになって迷惑だった、と言うODA関係者もかなりいるのだ。それをわざわざ、外務省改革の方向性をききにいく? 悪者扱いしてバッシングするほうがずっと安全パイなのに。でも最初は冗談半分のきわもの記事かと思ったら、まじめにやってるんだよね。

 確かに言われてみれば納得のいかない話じゃない。そりゃ確かに、ちょっとは後ろ暗いところもあるだろう。でも、たとえば北朝鮮に対する対応や中国との関係なんかで外務省批判は多いけど、具体的にどうすればいいのか、ということをきちんと考えている人はあまりいない。鈴木宗男は少なくともそれを考えてはいた。もちろん全部ありがたがって拝聴しろってんじゃない。でも傾聴すべきことも結構言っている。少なくとも、かれを嬉しそうに叩いてた辻元清美なんかの空疎さにくらべればずっと高い見識がある。

 その他の特集でも、概論にとどまらない情報提供をしつつ、雑誌としてのカラーがそれで変わらないという非常に難しいことを上手にやってのけているのだ。そして、一応想定読者層の関心をある程度はついてきている。ふーん、こういうこともできるんだね。もちろん、それに読者がついてきているかどうかぼくは知らないのだけれど、でもいけるんじゃないか。他の金太郎飴的なメンズ雑誌からはうまく差別化できてると思うし。そして『SIGHT』みたいにある強い立場主張から入るのとはちがった政治記事へのアプローチ――いわば怒鳴らない政治記事――というのが、この手の雑誌で(いやそれだからこそ)きちんとできるのか。意外だけれど、でもこの調子が続けば、案外大化けしてくれるかもしれないし、ひいては一般人がもっと気軽に政治ってものを考える、突破口にすらなるかもしれない――と思うのは、ちょっと期待しすぎかもしれないけれど。

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YAMAGATA Hiroo <hiyori13@alum.mit.edu>
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