ゴミ投資家のためのビッグバン入門 連載第?回

投資でよりよい人生を!

――『ゴミ投資家のためのビッグバン入門』
(『CUT』1998年8月)

山形浩生xジェニファー・キャラハン



(註:今回はお金の話なので、元 MIT 同級生ピアス仲間で香港で不動産投資顧問業をしているジェニファー・キャラハン先生をお招きしております。)

 おっす、ガービッジのセカンドアルバム、期待過多のせいもあるけど、いまいちだったわねー。メリハリがなくてさ。え、そういう話じゃないって?

――まず「ゴミ投資家」の説明あたりから入ろうか。

 そうだなあ。『農場の少年』(福音館)でアルマンゾのお父さんが言うけど、お金は労働なのよね。投資ってのも、寝ててお金が儲かる話じゃなくて、頭を使う労働なんだってことはおさえよう。ほかの人が働くお手伝いを提供する労働。

 でさ、でかい仕事には、でかいお金の手伝いがいるんだけど、10 万円いるとき、一万人に 10 円ずつ貸されたって、手伝いどころか面倒なだけでしょう。投資だって同じ。 10 円しか持ってない人なんて、かえって迷惑なの。だからホントの投資の世界では、億単位、最低でも 1,000 万円の単位じゃないと話になんないのね。それ以下はゴミ。

 これまでの素人向け投資本って、これをちゃんと言わないんだよね。素人さんをカモにしたいだけの本も結構あるし。『ゴミ投資家のためのビッグバン入門』(メディアワークス)は、その点で画期的だと思うな。そこらへんの認識から入ってるという一点で、すでに世の中のクズ本からドーンとぬきんでた感じ。

――しかしこの本だと貧乏人は外貨預金もだめ、外債もつらい、ファンドもだめ。ほとんどお先真っ暗……

 んなことないわよ。まず、これって全部ホントだもん。むなしい期待を抱かせるよりずっと良心的。それに、まず働けって書いてあるじゃん。よくぞ言ってくれましたって感じ。お金を増やす手段として、元手がない人は働くのがいちばんいいのよ。あなた自身が、この世で有数の高効率投資なのよ。複利になんないのが唯一の欠点だけど。くだらん利殖に手間暇かけるよりは、自分の健康に投資するほうがよっぽどいいわけ。

――ここで奨められてるオフショア口座ってどう思う?

 うーん、大きな損もなさそうだけど、これだけ手間をかけるメリットがあるかな。しかもまともに英語で銀行と話せない人が? それにこれって要は脱税の奨めじゃん。「見つかりゃしません!」嫌いだな。税務署ってホントにこんなに甘いの? アメリカでは結構補足されるよ。それに口座を開くだけじゃね。その口座で何するかが問題じゃん。それがまだない。でも、まちがったことは書いてない。これは事実。

――ファンドの扱いが甘いような……

 うん、そうかも。手数料と税金がガンってのは、この本の指摘どおりなんだ。でもヴァンガードあたりの、No-Load(手数料なし)ファンドなんかはダメなのかな。続刊では触れてほしいな。次は株を買うとか会社設立とか書いてあるけど、そんなのゴミ投資家のすることじゃないと思う。

――なんか大きなまちがいは?

 ない。基本的にはよく書けてる。手数料や税金も考えてるし、外為の話とかも理屈の基本はおさえてるし。ただ、完全なプロが書いたんじゃないわね。細部は疑問符つき。ファンドを多種類買って分散化って話とか。ファンド自体が分散投資なのに。でも本質的なもんじゃない。

 あとアドバイザーを探せという話が出てくるけど、ダメよ。アドバイザーなんて、それこそ百鬼夜行の世界なんだから。あいつら往々にして株屋の手先で、扱い手数料もらってたりすんの。日本でも商売に困った株屋が、かならず個人投資家向けアドバイザーサービスなんて始めるけど、眉にたっぷりツバつけてね。クズ株や推奨銘柄売れ残り処分のはきだめにされる可能性だって十分あるんだから。

――うんうん。あとゴミがいくらがんばっても大したことないってのはもっと強調すべきだと思わない? 外貨預金して朝から晩まで為替レートばっか見てるヤツっているけど。そもそも投資ってもんの意義が見失われてるとゆー……

 いや、それはあまりにシニカルな見方だと思う。複利計算はそれなりに効くし、投資を考えるのは悪いことじゃない。0.5% のリターンの差にこだわるのは重要よ。

 でも、その外貨預金の例は確かに問題。そもそも儲かるわけがない(それはこの本にも書いてあるよね)のと、あとお金が自己目的化してる。よくある誤解ってさ、投資ってとにかくお金を増やせばいいんだっていうヤツ。ちがうんだよね。ファンドのマネージャがいくら運用実績あげても、高リスク株にばっか手を出してたらクビだよ。投資にはすべて目標があるんだ。それに応じて取るリスクも運用も決まるの。

 個人もいっしょよ。オフショア口座も結構だけどさ、まず自分の投資の目標を考えなきゃ。いくら貯めて、いつ使い始めるのか? それは結局は自分の老後をどう考えるか、どういう人生設計するかって話なんだよね(あー情けない、このあたしがこんな分別くさい口をきくとは!)。

 今の日本って、ビッグバンで投資機会が広がってすばらしいとかいう宣伝になってるんでしょ。まずこれ自体がこの本に書いてあるようにウソだし、しかもそこで目的意識がなければ、その外為の人みたいに数字に踊らされるだけに終わっちゃう。なんのためのお金? それを考えてない貯金マニアって、醜悪なだけよ。あるいは住宅ローンをはやく完済したいばっかりに、月々の払いを無理する人がいるけど、でもローン返す以外何もできないんじゃ生きてる意味がないじゃん。それをどう考えるか?

 で、まとめ。この本は、ゴミ投資家の投資ガイドとしては必読。結論だけ読むんじゃなくて、いろんな計算もちゃんと自分でやって理解してね。投資はバックの算数がわかんなきゃ絶対に手を出すな! これ、鉄則よ。

 だけどそれ以上に、日本の一般人なんて、これまでまともに「投資」とか人生計画とか考えたことないんでしょ? 同じような生き方、同じくらいの停年で同じ金利で同じような年金で、みんなと同じにやってるしかなかったわけよね。でもいま、わずかとはいえ新しい可能性が出てきてんのよ。確かにこの本にあるとおり、貧乏人にはビッグバンなんかほとんど関係ないんだけど、でも自分なりの人生計画をたてるオプションがすこーし増えたのも事実ではあるのよ。ちょっとだけ人とはちがう生き方も、不可能ではない。この本には、そのオプションの糸口がかなり良心的な形で出てるのよ。

 いつかそういうのをもっと総合的に説明した本が出るといいわね。そしてそれをきっかけに、自分は何のために働き生きてるのかってのをみんなが考える機会ができると、ホントに最高だろうねー。でもそれまではとりあえずこいつでなんとかしましょ。なんとかなるって! じゃ、またね。



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YAMAGATA Hiroo <hiyori13@alum.mit.edu>)