CardWave 2001/8 連載第 1 回:

 eビジネスなんかに未来はあるのか?

CardWave 2001 年 8 月

山形浩生



 eビジネスなんかに未来はあるのか。よい質問です。

 手短に答えからいえば、あります。いま、e-ビジネスと言われるものたちは、あまりいい状況にはありません。一部は倒産したりして、未来がなくなったりしてしまっているところもたくさんあります。でも、ちゃんと続いているところもあるわけです。インターネットが明日すぐに消えてなくなるでしょうか。たぶん、そういうことはないでしょう。その上で、なんらかの商売をしている人たちも残るでしょう。その意味で、eビジネス全体として見れば未来はちゃんとあります。

 問題はそれが、どこにあるのか、そしてなぜあるのか、ということです。多くのeビジネスとか、インターネット経済とかいう本は、インターネットによってこれまでのビジネスの常識はまったく、すべて、一つ残らず通用しなくなる、と主張します(問いつめると、「いやそんなことは言っていない」とみなさん逃げますが、「衝撃」とか「革命」とか、そう思われても仕方がないような文句が帯や表紙に山盛りで使われています)。eビジネスというのは、これまでとはまったくちがうビジネスなのだ、という主張がいたるところで行われてきました。しかし、そんなことはぜんぜんなかったのです。それは、こういう本を書いている人たち――その中には、中谷巌とか竹中平蔵とか、発言力のある人心を惑わしやすい地位にいる人たちもたくさん含まれています――がちゃんと勉強をしていないだけの話で、ネットワーク経済やeビジネスと言われるものは、実は既存ビジネスとあまり変わらない部分が多々あるのです。今後、eビジネスの未来を考えるなら、それはたぶん、これまでとはまったくちがう目新しさにあるのではなく、いままでいろいろ地道に積み上げられてきたノウハウの中にあるんでしょう。

 でも、世の中、そんなことを書いた本があるのか?

 あります。それがヴァリアン&シャピロ『ネットワーク経済の法則』(IDGコミュニケーションズ)です。この分野で、これ以上の本はいまのところありません。

 さっきも述べたとおり、かれらがこの中で指摘しているのは、eビジネスの特徴として挙げられたいろんなものが、実は既存の一部のビジネスの中にもちゃんと存在していた、ということです。たとえば、ネット経済は収穫逓増だからこれまでの収穫逓減ビジネスとはちがう、と言う人はたくさんいます。でも、収穫逓増ビジネスはいままでだってあるし、研究だって進んでいます(知らない人は、経済学の授業の後半をさぼったのでしょう)。本書には、そういう話がわかりやすく山ほど載っています。

 たとえば航空会社は、いわゆるeビジネスととても似た収益構造をしています。初期投資は莫大に必要ですが、でもいったん飛行機を買ってしまえば(そして必要な人員を雇ってしまえば)、チケットを一枚追加で売っても、追加のコストはほとんど発生しません。売れば売るほど儲かる、収穫逓増構造になっています。かれらは、ビジネスをどうやって成立させているか? それを考えることでeビジネスの未来は出てくるのです。

 あるいはネットワークの外部性、ということがよく言われます。インターネットは使う人が多ければ多いほど便利になるから、拡大すればするほどネットワークの外部性が増えて便益が高まる、したがってインターネットは今後も幾何級数的に普及する、と唱えた人たちがいました。でも、いま光ファイバーやADSL業者がぼこぼこつぶれているように、そうはならないのです。人の密度は一様ではないし、引けば引くほど効率が下がる。だからネットの普及も限界がある。そんなことは、電話会社や郵便局なら百も承知だったこと。

 こう書くと、あたりまえじゃないか、と思う人が多いでしょう。でも、いわゆるIT革命論だの、1999年にはやった光通信万歳論は、そのあたりまえのことを実はみんながわかっていないことを、明らかに証明しているわけです。

 本書にはそれがすべて(経済学的な裏付けつきで)書いてあります。もうITバカは卒業しましょう。『ネットワーク経済の法則』を読みましょう。ここにこそeビジネスの未来に到達するための知恵があるのです。ただし……その未来は、そんなにおきれいなものではないかもしれませんが。この話はまたいずれ。

CardWaveトップ  山形日本語トップ


Valid XHTML 1.0!YAMAGATA Hiroo (hiyori13@alum.mit.edu)