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出鱈目まみれのトンデモ本。Does this change?

ブランデンバーグ&バクソン「沈黙の惑星―火星の死と地球の明日」(ダイヤモンド社)


山形浩生

 本書の基本的な主張は、地球温暖化を防止しなければ、という話。温暖化の末路は火星を見ればわかる、と言うんだ。ところがこれが、めちゃくちゃ。

 著者の主張だと、火星は生命に満ちた緑の惑星だったという(ちなみに、これは何の証拠もないトンデモ。水はあったっぽいが、生命についてはバクテリアくらいいた可能性もある、程度の話で、それすら確定的な証拠は何もない)。火星は太陽から遠くて寒いけど、かつては大気中に二酸化炭素と水蒸気があって温暖に保たれていたからだった。それがあるとき、隕石の衝突で大気がなくなって、それで温暖化が維持できずに水と二酸化炭素が凍ってしまったのだ、という。

 じゃあ火星が死の惑星になったのは、その小隕石のせいってことでしょ。温暖化は関係ないじゃない。地球温暖化の末路の参考になんかならない。著者たちの主張はまったく何の理屈にもなっていない。

 ちなみに、著者が火星に生命がいた(かもしれない)根拠として大騒ぎするのは、有名な火星の人面岩。唖然。ちなみにこれはかなりの画像処理をかけた結果こんなふうに見えただけで、実際はただの微地形。その他説明はサイドニアページを見よう。そして自分たちのその主張を NASA は弾圧しようとした、と言わんばかりの描き方をする。要するに、自分たちはそれが人工物かもしれない(けどそうでないかも)とフェアに進めたが、NASA は人工物である可能性があることすら認めなかったから偏向してる、というわけ。トンデモな主張をするのには慎重になっていただけでしょうに。ちゃんとこうしていろんなページを作って説明しているのは NASA なのだ。

 さらに二酸化炭素が怖いとか、酸素がなくなりつつあるとか、異常気象が到来とか、そんな話が羅列される。が、その中身はあまりにお粗末。中国の死因の 25 パーセントは大気汚染が原因 (p.25) ? 韓国の大気中のCO2 のうち 22-24 パーセントが中国産 (p.25)? うそつけ。日本には酸素濃度が低くて呼吸困難な都市がある、なんてヨタ話をまじめに載せている(p.252)。著者のいい加減さがよくわかる。湖底のCO2 があがってきて村が全滅した例がある、という話も、いまの CO2 排出規制とは何の関係もない。そのCO2 は、過去数千年にわたって蓄積したものでしょ。それを根拠になんでCO2 排出規制を唱えられる? 要するに、化石燃料を燃やすのはとにかく悪い、CO2 はとにかくなんでもいいから怖い、危険だ、というイメージを植え付けて、CO2 排出規制を正当化しようとする悪しきレトリックを使おうとしているのだな、著者どもは。だったら、温暖化効果の高い水蒸気についても「水は怖い、水にはいると溺れる」とでも言って水の禁止運動でもすりゃいいのだ。

さらに著者たちの地球への提案がすごい。真っ先にくるのが、核融合の開発を進めろ! 宇宙移住を進めろ! そんな実用化のめどのまったくたっていないものが提案の筆頭? 著者の現実感覚のお粗末さがよくわかる。核融合は環境に優しくてクリーン! そういうことは、実際にブツが実用レベルで動いて導入テストをしたうえでなければ言えないだろうに。方式にもよるが中性子がびゅんびゅん出てくるのはどうすんのさ。あとは木を植えて質素な生活をして、発展途上国を貧乏なままにしておけ(そうははっきり書かないけれど、実質的な主張はそうだ)。いやはや。そんなことよりアメリカがガソリン価格上げたら? 中国の大気汚染が問題なら、脱硫装置の支援をするとか考えたほうがずっと現実的。温暖化防止の議論とはまったく関係ない。

 データもいい加減(さらに、訳者は引用文献などを全部削除。おかげでチェックもできない)。主張も支離滅裂。レトリックに淫した低劣な恫喝。提案もリアリティまったくなし。読む価値なしの出鱈目本。こんな本があると、まともな環境保護論者までヨタ扱いされるぞ。訳者の藤倉良という人物は環境庁を経て立命館教授だが、この本を読んでひどいと思わなかったのか? 本書みたいなヨタ本を読んで棄却できないどころかヨイショしたというバカで無能な環境 NGO ラムサールセンターって何? webページを見ると、多少はまともそうだけど、こんなのに肩入れしてるようでは通常の活動まで疑いたくなってしまう。ちょっと世の中なめすぎよ、あんたたち。森山さんが読んだら憤死するか、爆笑するであらふ。



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