『その数学が戦略を決める』 正誤表
ご好評いただいておりますイアン・エアーズ『その数学が戦略を決める』(文藝春秋)ですが、いくつか誤訳やかんちがいが刊行後に発見されました。お恥ずかしい次第です。また、翻訳とは関係ないながら、内容についていくつかコメントや疑問点の指摘が出ております。以下に正誤表と各種コメントに対するコメントをば。
初刷りでの誤り
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Page
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位置 |
誤
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正
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コメント
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p. 105-109 | 随所 | ゼディロ | セディージョ | 原音重視だとこうなるそうです。 |
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p. 1086 | 最後の行 | ヴィンセンテ | ビセンテ | 上に同じ |
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p. 186 | 4、13行目 | 偽陽性 | 誤検知 | |
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p. 182 | 最後から2行目 | 「となりのザインフェルト」 | 「となりのサインフェルド」 | でも聞くとザインフェルトと発音していたように記憶しているんですが…… |
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p. 186 | 4、13行目 | 偽陽性 | 誤検知 | |
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p. 197 | 最後から8行目 | 予算三・五億ドルから五億ドルくらいのインディペンデント系映画 | 予算三五〇〇万ドルから五〇〇〇万ドルくらいのインディペンデント系映画 | 何億ドルもかけるようではインディペンデントではありませんね。 |
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p. 286 | 12、13行目 | 偽陽性 | 誤検知 | |
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p. 301 | 10行目 | 邦訳は不思議なことに本書が初めてではあるが | 邦訳はネイルバフとの共著『エール大学式4つの思考道具箱 』(阪急コミュニケーションズ、二〇〇四)がある。また | 見落としておりました。 |
*1 誤りを指摘していただいた小西未来氏とyutakashino氏、坂本淳氏に感謝いたします。
また、本書で挙げられている事例について、いくつか疑問点がネット上であがっておりましたのでコメントを。
- 1. ワイン方程式について
- 序章であがっているワイン方程式は、ワインの品質を示すと言いつつ、よく見るとワインの価格を推計する式になっています。これについては翻訳時にも気になって、著者に問い合わせました。それによると、ワイン市場では品質と価格は比較的よく相関しており、不合理なバブルはあまり発生しないので、価格は品質の代替指標としてそれなりに有効とのこと。
またアマゾンの書評で、なぜこの変数が選ばれたかわからない、という指摘があります。通常、この手のモデルを作るときは、もっともらしい変数をいろいろ選んでみて、いちばん統計的にうまくあてはまっているものを選ぶ、というプロセスを経ます。で、なぜその変数がうまくあてはまるのか、というのは、後付であれこれ理屈はこねますが、通常は「とにかく統計的にうまく出たんだもーん」という以上のものはありません。また、そのデータが入手できるかどうかもポイントです。たとえば十年前の土中窒素量や、8 年前のつみ取り労働者の就労年数はデータの入手がきわめて困難なので、たとえそれが重要な説明変数であっても、モデルには使いにくいことが予想されます。回帰モデル作成のときは、単純な精度もさることながら、それを実際に予測に使う際の実用性も考慮する必要が出てきます。おそらく変数はそんなことで選ばれています。
- 2. 各種事例の信頼性について
- そのワイン方程式ですが、おそらく市場の乱れなどもあり(中国の成金需要によりワイン市場はかなり変動したとか)、本書でとりあげられた時期の予測力は高かったものの、その後はそれほどでもない、という話があるそうです。また p.170 で紹介されている包皮切除とエイズ感染との関係も、もとデータのサンプリングを変えると結果がかなり変わり、有意とはいえなくなってしまうことが知られているとのこと。
さらに、翻訳中にひっかかったところですが、本当に主張通りの成果が挙がっているか眉につばすべきものもあります。p.107 以降で絶賛されているプログレッサですが、よく読むとこれは要するに、子供が学校に通ったらお金を(それも工場賃金の三分の二というかなりの金額を)あげるという話です。就学率が上がったり、学校をやめる子が減ったりするのはそんなにすごいことでしょうか? その成果を次政権に説明するのに、絶対計算に敢えて頼る必要のある話なのでしょうか?
絶対計算はすごい成果を生むことは多いのですが、万能ではないし、あらゆる場で使えるものではないのも事実。本書ではきちんと説明されていませんが、データの分布が正規分布に近くない場合には、回帰分析が問題を起こすことも多々あります。 本書はあくまで通俗入門書なので、そこまでの精度を要求するのは酷ではあります。こうした知識は本書の次のステップくらいで学べばいいことではあるのですが、落とし穴がある可能性もある点は理解しておくべきでしょう。
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YAMAGATA Hiroo (hiyori13@alum.mit.edu)